安倍安仁

安倍安仁（あべのやすひと）

安倍安仁は、平安時代初期から前期にかけて活躍した公卿です。参議・安倍寛麻呂の次男として生まれ、その卓越した能力と誠実な人柄で、朝廷や嵯峨上皇から厚い信頼を得ました。

経歴

若くして校書殿に出仕した後、嵯峨天皇の時代には山城大掾、中務少丞、民部少丞といった役職を歴任しました。天長年間初頭には近江権大掾に任ぜられ、同国の介であった藤原弟雄から政治を委ねられるほど信頼されていました。安仁が地方官として政務を滞りなく遂行したことは朝廷にも伝わり、天長3年（826年）には蔵人に任ぜられ、天長5年（828年）には従五位下・信濃介に昇進しました。信濃介として3年間、国内を粛然と治めた手腕は高く評価され、嵯峨上皇が諸国司の優劣を評議した際には、「安仁の信濃介に及ぶ者はいない」と称賛されたほどです。天長8年（831年）には、その地方官としての功績により従五位上に叙せられました。

天長10年（833年）3月の仁明天皇即位に伴い蔵人頭に任ぜられると、同年11月には正五位下、承和3年（836年）には従四位下と急速に昇進し、承和5年（838年）には参議兼刑部卿に任ぜられ、公卿の仲間入りを果たしました。この間、承和2年（835年）には嵯峨上皇の側近として仕え、嵯峨院別当として諸事の決定を任されました。かつては滞っていた院の諸事を、安仁は短期間で円滑に処理し、上皇から高く評価されました。その後、上皇からは、国政を担う官職に就くべきだと勧められ、承和7年（840年）には左大弁を兼任し院別当を辞職しますが、院の運営が滞ったため、再び院別当に還任されました。安仁は、朝には弁官の業務を行い、退朝後には必ず嵯峨院に参るという生活を送りました。朝廷はその労苦を憐れみ、院に出仕しやすい官職に転任させたという逸話も残っています。

承和9年（842年）正月には大蔵卿に転じ、同年8月には道康親王（後の文徳天皇）が皇太子に立てられた際、その春宮大夫に任ぜられました。承和11年（844年）には従四位上へと昇叙、承和13年（846年）には正四位下・右大弁、承和15年（848年）には従三位・中納言と、再び急速に昇進を果たしました。同年には、洪水で流された山崎橋の修復のために、源弘、滋野貞主、伴善男と共に派遣されています。

嘉祥3年（850年）の文徳天皇即位に伴い正三位に叙せられ、斉衡3年（856年）には権大納言、翌天安元年（857年）には大納言兼右近衛大将に至りました。貞観元年（859年）4月23日、67歳で薨去。最終官位は、大納言正三位兼行民部卿陸奥出羽按察使でした。

人物

身長6尺3寸（約190cm）という偉丈夫で、威厳に満ちた人物でした。性格は落ち着いていて思慮深く、謙虚で人々を家族のように愛したと伝えられています。政務にも精通しており、朝廷のしきたりにも明るく、奏議への対応も滞りなく行ったとされています。また、時間がある時には、子孫に教え諭していたと言われています。

逸話

ある時、安仁は子弟に対して、諸国の租税は領主の収入となることが多く、官に納める者は少ないと嘆き、自身の食封は身に余るほどだと語りました。その後、文徳天皇に対して、自身が3つの官職を帯び、800戸の食封を得ているのは多すぎるとして、大納言としての食封を減らし、中納言に準じた量にしてほしいと願い出ました。天皇は安仁の謙虚な心に感銘を受け、これを特別に許したと伝えられています。

官歴

弘仁年間：山城大掾
弘仁11年（820年）2月：昇殿
弘仁12年（821年）2月：中務丞
弘仁14年（823年）：民部少丞
天長年間初：近江権大掾
天長3年（826年）正月：蔵人
天長5年（828年）正月7日：従五位下、信濃介
天長8年（831年）正月4日：従五位上（褒能治）
天長10年（833年）3月：蔵人頭。11月18日：正五位下、兵部少輔
承和元年（834年）7月1日：兵部大輔、兼近江守
承和2年（835年）2月1日：刑部大輔、嵯峨院別当。11月：治部大輔
承和3年（836年）正月7日：従四位下
承和5年（838年）正月10日：参議。8月5日：兼刑部卿
承和7年（840年）6月10日：兼左大弁、刑部卿如元
承和9年（842年）正月13日：大蔵卿。8月4日：兼春宮大夫（皇太子・道康親王）
承和10年（843年）正月：兼下野守。2月10日：弾正大弼。11月16日：河内和泉校田使長官
承和11年（844年）正月7日：従四位上。10月3日：河内和泉班田使長官
承和13年（846年）正月7日：正四位下。正月13日：兼右大弁、弾正大弼春宮大夫下野守如元
承和15年（848年）正月10日：従三位、中納言。正月13日：兼民部卿、春宮大夫如元
嘉祥3年（850年）3月21日：止春宮大夫（即位）。3月22日：山作司（仁明天皇崩御）。4月17日：正三位
斉衡2年（855年）正月15日：陸奥出羽按察使
斉衡3年（856年）10月：権大納言
天安元年（857年）4月6日：大納言。4月19日：兼右近衛大将
天安2年（858年）11月17日：止右近衛大将
貞観元年（859年）4月23日：薨去（大納言正三位兼行民部卿陸奥出羽按察使）

系譜

父：安倍寛麻呂
母：不詳
妻：多治氏（?-867）
男子：安倍宗行
女子：（?-?）
妻：不詳
男子：安倍貞行（?-?）
男子：安倍清行（825-900）
男子：安倍興行（?-?）

脚注

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