源雅実

源雅実（みなもとのまさざね）：平安時代を彩った公卿

源雅実（みなもとの まさざね）は、平安時代後期の公卿であり、村上源氏の血を引く名門の出身です。父は右大臣を務めた源顕房。その長男として生まれ、後に源氏として初めて太政大臣にまで昇りつめるという、華々しいキャリアを築き上げました。単なる政治家としてだけでなく、舞楽や文学にも秀でた文化人としてもその名を歴史に刻んでいます。

若き日の才能開花と異例の出世

1066年、源雅実は幼くして童殿を許され、その翌年には後冷泉天皇の前で舞を披露し、御衣を賜るという栄誉に浴しました。この時の舞は「胡飲酒（こんじゅ）」というもので、後世まで語り継がれるほどの印象的な出来事でした。1068年には従五位下に叙爵され、翌年には侍従に任官。その後も順調に昇進を重ね、1074年には実姉である藤原賢子が白河天皇の中宮となったことで、中宮権亮を兼任するなど、その勢いは加速します。わずか19歳で参議に任ぜられ、公卿の仲間入りを果たすという、父・顕房を凌ぐスピード出世を遂げました。

朝廷での活躍と太政大臣への昇進

議政官としても近衛中将を兼務した源雅実は、その後も正三位、従二位と昇進を重ね、1083年には権中納言に任ぜられます。さらに、1086年には外甥である善仁親王（後の堀河天皇）の即位を機に、権大納言に抜擢され、朝廷内での存在感を高めていきました。堀河天皇の准母である中宮・媞子内親王の中宮大夫も務め、1093年には父から譲られた右近衛大将も兼ねるなど、その活躍は多岐にわたりました。しかし、親子で近衛大将を継承したことについては、藤原師通らから批判を受ける場面もありました。

1100年には内大臣に任ぜられ、祖父の源師房以来、三代続けて大臣の地位に就任します。そして、1115年には右大臣、1122年にはついに太政大臣に昇進。これは源氏としては初の快挙であり、彼の功績が朝廷内で高く評価されていた証と言えるでしょう。

文化人としての側面

源雅実は、政治家としての才能だけでなく、文化人としても優れていました。特に舞楽に長けており、秘曲「胡飲酒」を伝えた楽家の多資忠が急逝した際には、堀河天皇の命を受け、その技を多資忠の子である忠方に伝授しました。この逸話は多くの説話集や楽書にも記されており、彼の舞楽に対する造詣の深さを物語っています。また、彼の日記である『久我相国記』も、当時の貴重な資料として残されています。

晩年と死

1124年、病のため出家し、法名を蓮覚としました。1127年に69歳で生涯を閉じ、遺体は久我の山荘に移され、そこに葬られました。その死を悼み、同時代の人々は「現世での昇進は人並み外れており、入滅の時も釈尊と同日である。まさに現世と来世の両方で成功を収めた人だ」と評したと伝えられています。この言葉からも、当時の雅実の人物としての評価の高さが窺えます。

人物像

源雅実は、白河天皇が寵愛した中宮・藤原賢子の同母弟であり、堀河天皇の外叔父という立場も手伝い、朝廷内では非常に重んじられていました。当時権勢を振るっていた白河院や関白・藤原忠実に対しても臆することなく、自らの意見を述べていたと言われています。また、父である顕房が道を踏み外そうとした際にも、雅実がたしなめると、父はそれをやめたという逸話も残っています。彼の存在が、周囲に良い影響を与えていたことがわかるでしょう。

源雅実は、単に高位に昇っただけでなく、文化の発展にも寄与した人物でした。彼の生涯は、平安時代後期の貴族社会を理解する上で、非常に重要な手がかりを与えてくれます。

官歴

1068年：従五位下
1069年：侍従
1072年：右近衛少将
1073年：従五位上、正五位下
1074年：従四位下、中宮権亮、従四位上、近江権介、正四位下、右近衛中将
1075年：蔵人頭、左近衛中将
1077年：従三位、参議
1078年：備前権守
1079年：正三位、従二位
1083年：権中納言、侍従
1085年：正二位
1086年：権大納言
1091年：中宮大夫
1093年：右近衛大将
1100年：内大臣、右近衛大将
1102年：左近衛大将
1106年：皇太子傅
1113年：従一位
1115年：右大臣、左大将
1122年：太政大臣
1124年：出家

系譜

父：源顕房
母：源隆子（源隆俊の娘）
妻：藤原師子（藤原師仲の娘、堀河天皇乳母）
長男：源顕通
次男：源雅定
その他子女：女子（御匣殿など）

脚注

注記のないものは『公卿補任』による。

参考文献

『公卿補任 第一篇』吉川弘文館、1982年
『尊卑分脈 第三篇』吉川弘文館、1987年
市川久編『近衛府補任』続群書類従完成会、1992年
竹鼻績『今鏡 （下）』講談社〈講談社学術文庫〉、1984年

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