熱力学の年表

熱力学の歴史：17世紀から20世紀半ばまでの主要な出来事

この文書では、17世紀半ばから20世紀半ばまでの熱力学の発展における重要な出来事を時系列で概観します。初期の真空ポンプの発明から、熱力学の法則の確立、そして量子力学との融合に至るまで、熱力学の進歩に貢献した主要な発見、理論、科学者たちの業績を詳細に説明します。

1800年以前：初期の発見と概念

17世紀は、熱力学の基礎となる概念の萌芽期でした。

1650年: オットー・フォン・ゲーリケが最初の真空ポンプを製作。真空という概念が実験的に導入されました。
1660年: ロバート・ボイルがボイルの法則（気体の圧力と体積の関係）を発見。これは、熱力学における最初の定量的関係式となりました。
1665年: ロバート・フックは、熱を物体の微小な粒子の運動と関連付ける洞察を示しました。これは、後の熱力学的理解において重要な一歩でした。
1669年: ヨハン・ベッヒャーは、燃焼に関する「燃える土」の理論を提唱。これは、フロギストン説の基礎となりました。
1676-1689年: ゴットフリート・ライプニッツは、「活力」の概念を発展させました。これは、エネルギー保存則の初期の概念です。
1679年: ドニ・パパンが蒸気ダイジェスターを設計。これは、後の蒸気機関の発明に影響を与えました。
1694-1734年: ゲオルク・シュタールは、ベッヒャーの理論を発展させ、「フロギストン」という用語を導入しました。フロギストン説は、後の科学的発展において重要な役割を果たしました。
1698年: トーマス・セイヴァリが初期の蒸気機関の特許を取得しました。産業革命への第一歩でした。
1702年: ギヨーム・アモントンは、気体の観測に基づいて絶対零度の概念を導入しました。
1738年: ダニエル・ベルヌーイが『Hydrodynamica』を出版し、気体運動論の基礎を築きました。
1749年: エミリー・デュ・シャトレはニュートンの『プリンキピア』のフランス語訳を出版し、ニュートン力学からエネルギー保存則を導きました。
1761年: ジョゼフ・ブラックは潜熱を発見しました。これは、物質の状態変化における熱の役割に関する重要な発見です。
1772年: ダニエル・ラザフォードは窒素を発見しました。
1776年: ジョン・スミートンは、エネルギー保存則を支持する実験結果を発表しました。
1777年: カール・ヴィルヘルム・シェーレは、熱の伝達方法を区別しました。
1783年: アントワーヌ・ラヴォアジェは酸素を発見し、燃焼を正しく説明しました。またフロギストン説を否定し、カロリック説を提唱しました。
1784年: ヤン・インゲンホウスは、ブラウン運動を記述しました。
1791年: ピエール・プレヴォは、全ての物質が熱を放射することを示しました。
1798年: ランフォード伯爵(ベンジャミン・トンプソン)は、摩擦熱の実験から熱が運動エネルギーの一種である可能性を示唆しました。この実験はカロリック説に疑問を投げかけました。

1800-1847年：熱力学第一法則への道

19世紀前半は、熱と仕事の関係、そして熱力学第一法則の発見に繋がる重要な発見が相次ぎました。

1802年: ジョセフ・ルイ・ゲイ＝リュサックがシャルルの法則（温度と体積の関係）とゲイ＝リュサックの法則（温度と圧力の関係）を発表しました。
1804年: ジョン・レスリー卿は、黒体放射の重要性を示唆する実験を行いました。
1805年: ウィリアム・ウォラストンはエネルギー保存則を擁護しました。
1808年: ジョン・ドルトンはカロリック説を支持する著書を出版しました。
1810年: ジョン・レスリーは水を人工的に凍結させました。
1813年: ピーター・ユワートはエネルギー保存則を支持する論文を発表しました。
1819年: ピエール・ルイ・デュロンとアレクシ・テレーズ・プティはデュロン＝プティの法則を発見しました。
1820年: ジョン・ヘラパスは気体運動論のいくつかの概念を発展させました。
1822年: ジョゼフ・フーリエは、次元解析を熱力学に導入しました。
1824年: サディ・カルノーはカロリック説に基づいて蒸気機関の効率を分析し、熱力学第二法則の基礎を築きました。
1827年: ロバート・ブラウンはブラウン運動を発見しました。
1831年: マセドニオ・メローニは黒体放射の性質を実証しました。
1834年: エミール・クラペイロンはカルノーの研究を一般化しました。
1841年: ユリウス・ロベルト・フォン・マイヤーはエネルギー保存に関する論文を書きましたが、当時は拒絶されました。
1842年: マイヤーは熱の仕事当量を計算しました。ウィリアム・ロバート・グローブは分子の熱解離を示しました。
1843年: ジョン・ジェイムズ・ウォーターストンは気体運動論を説明する論文を発表しましたが、無視されました。ジェームズ・ジュールは熱と仕事の等価性を実験的に示しました。
1845年: アンリ・ヴィクトル・ルニョーは理想気体の法則を確立しました。
1846年: カール・ヘルマン・クノーブラウホとグローブはエネルギー保存の一般理論を説明しました。
1847年: ヘルマン・フォン・ヘルムホルツは熱力学第一法則（エネルギー保存則）を明確に述べました。

1848-1899年：熱力学第二法則と統計力学の発展

この時代は、熱力学第二法則の定式化、統計力学の基礎の確立、そして熱力学と関連分野の進歩が著しいものでした。

1848年: ケルヴィン卿（ウィリアム・トムソン）は絶対零度の概念を拡張しました。
1849年、1850年: ウィリアム・ランキンは分子渦仮説を用いて熱力学的な関係を導きました。
1850年: ルドルフ・クラウジウスは熱力学第一法則と第二法則を結び付けました。
1851年: ケルヴィンは熱力学第二法則の別の説明を与えました。
1852年: ジュールとケルヴィンはジュール・トムソン効果を実証しました。
1854年: ヘルムホルツは熱的死の概念を提唱しました。クラウジウスはdQ/Tの重要性を確立しました。ランキンはエントロピーの前身となる概念を導入しました。
1856年: アウグスト・クローニッヒは気体運動論の説明を発表しました。
1857年: クラウジウスは気体運動論について現代的な説明を行いました。
1859年: ジェームズ・マクスウェルはマクスウェル分布を発見しました。グスタフ・キルヒホフは黒体放射の性質を示しました。
1862年: クラウジウスはエントロピーの前身となる「ディスグレゲーション」を定義しました。
1865年: クラウジウスはエントロピーの現代的な概念を導入しました。ヨハン・ロシュミットは気体中の分子数密度を推定しました。
1867年: マクスウェルはマクスウェルの悪魔を提案しました。
1870年: ルドルフ・クラウジウスはビリアル定理を導きました。
1872年: ルートヴィッヒ・ボルツマンはボルツマン方程式とH定理を発表しました。
1873年: ヨハネス・ファン・デル・ワールスは状態方程式を定式化しました。
1874年: ケルヴィン卿は熱力学第二法則を形式的に表現しました。
1876年: ウィラード・ギブズは化学熱力学に関する論文を発表しました。ロシュミットはボルツマンのH定理を批判しました。
1877年: ボルツマンはエントロピーと確率の関係について述べました。
1879年: ヨーゼフ・シュテファンはシュテファン＝ボルツマンの法則を示しました。
1884年: ボルツマンはシュテファン＝ボルツマンの法則を理論的に説明しました。
1888年: アンリ・ルシャトリエはルシャトリエの原理を述べました。
1889年: ヴァルター・ネルンストはネルンストの式を提案しました。スヴァンテ・アレニウスはアレニウスの式を与えました。
1893年: ヴィルヘルム・ヴィーンはウィーンの変位則を発見しました。

1900-1944年：量子力学との融合

20世紀初頭は、量子力学の発展と熱力学との融合が重要なテーマとなりました。

1900年: マックス・プランクは量子仮説を提案し、黒体放射の法則を与えました。
1905年: アルベルト・アインシュタインは光電効果とブラウン運動を説明しました。
1906年: ネルンストは熱力学第三法則を定式化しました。
1907年: アインシュタインはアインシュタイン模型を提案しました。
1909年: コンスタンティン・カラテオドリは熱力学の公理系を展開しました。
1910年: アインシュタインとスモルコフスキーはアインシュタイン-スモルコフスキー公式を発見しました。
1911年: ポール・エーレンフェストとタチアナ・エーレンフェスト＝アフナシエワは統計力学に関するレビューを発表しました。
1912年: ピーター・デバイは熱容量の推定を改良しました。
1916年: シドニー・チャップマンとディヴィド・エンスコッグは気体運動論を発展させました。アインシュタインは誘導放出を予測しました。
1919年: ジェームズ・ジーンズは運動の動力学的定数の役割を発見しました。
1920年: メグナード・サハはサハの電離式を提出しました。
1923年: デバイとエーリヒ・ヒュッケルはデバイ-ヒュッケルの式を発表しました。
1924年: サティエンドラ・ボースはボース分布関数を導入しました。
1926年: エンリコ・フェルミとポール・ディラックはフェルミ・ディラック分布を導入しました。
1927年: ジョン・フォン・ノイマンは量子統計力学を確立しました。
1928年: ジョン・バートランド・ジョンソンとハリー・ナイキストはジョンソン・ノイズ（熱雑音）を発見し、説明しました。
1929年: ラルス・オンサーガーはオンサーガーの相反定理を導出しました。
1938年: アナトリー・ウラソフはウラソフ方程式を提案しました。
1939年: ニコライ・クリロフとニコライ・ボゴリューボフはフォッカー・プランク方程式の微視的導出を行いました。
1942年: ジョゼフ・L・ドゥーブはマルコフ過程に関する定理を発表しました。
1944年: オンサーガーはイジングモデルに対して解析解を与えました。

1945年以降：発展と応用

第二次世界大戦後、熱力学はさらに発展し、様々な分野への応用が拡大しました。この時代以降の重要な発展については、より詳細な文献を参照ください。

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