王鎮悪

王鎮悪（おう ちんあく）

王鎮悪（373年6月11日 - 418年3月7日）は、東晋時代の軍人であり、北海郡劇県（現在の山東省濰坊市寿光市）の出身です。彼は、かつて前秦の丞相を務めた王猛の孫にあたります。

生涯

王鎮悪は、前秦の河東郡太守であった王休の子として生まれました。385年に苻堅が敗北し、関中地方が混乱に陥ると、王鎮悪は各地を流浪しました。その際、澠池（現在の河南省三門峡市）の李方という人物の家に身を寄せ、「いつか英雄の主に巡り合い、万戸侯になった際には必ず恩に報いる」と誓いました。その後、叔父の王曜に従って東晋に帰順し、荊州に落ち着きました。王鎮悪は、幼い頃から兵法書を読み込み、国家の軍事に関する議論を好んで行いましたが、騎馬や弓術は得意ではありませんでした。しかし、その戦略や外交手腕は傑出しており、数々の局面でその決断力を発揮しました。

409年、劉裕が南燕を攻撃し、広固を包囲した際、ある人物が王鎮悪を劉裕に推薦しました。当時、王鎮悪は天門郡の臨澧県令を務めていましたが、劉裕に召し出され、その才能を高く評価されました。劉裕は彼を青州治中従事史、行参中軍太尉軍事、前部賊曹に任命しました。410年、盧循を査浦で迎え撃ち、連戦連勝の末に博昌県五等子に封じられました。412年には、劉裕が劉毅を討伐する際に参軍事となり、振武将軍の号を与えられました。王鎮悪は100隻の戦艦を率いて長江を遡り、豫章口に上陸し、江陵城の東門から侵入して火を放ち、劉毅の部将である趙蔡を討ち取りました。これにより、劉毅は自害し、江陵は平定されました。

その後、王鎮悪は中兵を代行し、安遠護軍、武陵国内史として赴任しました。劉毅を討った功績により、漢寿県子に封じられました。五渓蛮の向博抵が阮頭を拠点に反乱を起こすと、王鎮悪はこれを攻撃して鎮圧しました。415年、劉裕が荊州刺史の司馬休之を攻撃した際には、司馬休之の部将である朱襄を討ち取りました。しかし、江陵を司馬休之に奪われたことで劉裕の怒りを買い、弁舌によって許しを得ました。司馬休之と魯宗之が襄陽に逃れると、王鎮悪は蒯恩らの軍を率いて水路から追撃しましたが、司馬休之らが後秦を頼って逃亡したため、国境まで追撃して帰還し、游撃将軍の号を受けました。

416年、劉裕が後秦に対して北伐を計画すると、王鎮悪は諮議参軍に転じ、龍驤将軍を代行して先鋒を務めることになりました。王鎮悪は国境を越え、連戦連勝で邵陵や許昌を攻略し、虎牢や柏谷塢を陥落させ、後秦の将軍である趙玄を討ち取りました。洛陽に進軍すると、後秦の陳留公である姚洸を降伏させました。417年、澠池に進軍した際には、かつて世話になった李方の家を訪ね、その母に手厚い贈り物をして、李方を澠池県令に任命しました。司馬の毛徳祖を蠡城に進攻させ、後秦の弘農郡太守である尹雅を生け捕りにしました。そのまま弘農郡太守を代行し、潼関に進軍しました。後秦の大将軍である姚紹は、険しい地形に陣を構え、深い溝と高い塁を築いて守りを固めていました。王鎮悪は遠征中であり、補給が十分でなかったため、弘農で民から税を徴収して軍の食糧を確保しました。その後、姚紹が病死し、撫軍の姚讃が代わりに後秦の陣地を守りました。劉裕の軍が湖城に到着すると、姚讃は退却しました。

劉裕が潼関に到着すると、作戦を協議し、王鎮悪は水軍を率いて黄河から渭水に入りました。後秦の鎮北将軍である姚強が涇上に駐屯していましたが、王鎮悪は毛徳祖を派遣してこれを撃破し、渭橋に直行しました。王鎮悪は自軍の戦艦を放棄して離岸させ、食糧を投棄し、渭水を背に布陣しました。当時、後秦の姚泓は数万人の兵を長安城下に駐屯させていましたが、王鎮悪は退路がないことを兵士たちに示し、自ら先頭に立って突撃すると、姚泓の兵を打ち破り、長安城を攻め落としました。姚泓は逃走しましたが、翌日妻子を連れて降伏しました。

劉裕が関中に入ると、王鎮悪は灞上で出迎えました。王鎮悪は長安の女性を略奪し、府庫の財宝を強奪していましたが、劉裕はその功績の大きさを考慮し、不問に付しました。王鎮悪は征虜将軍の号を受けました。

劉裕の次男である桂陽公劉義真が安西将軍・雍秦二州刺史として長安に駐屯すると、王鎮悪は安西司馬・馮翊太守を兼ねて防備の任を委ねられました。当時、夏の赫連勃勃が劉裕の本隊が東に帰還するのに乗じて北地に侵攻しました。劉義真は中兵参軍の沈田子を派遣してこれを防がせようとしました。沈田子は劉回堡に駐屯し、王鎮悪のもとに使者を送り、夏軍の強さを伝え応援を求めました。しかし、王鎮悪は沈田子の進軍の遅さを責める返事を送りました。沈田子は以前から王鎮悪と仲が悪かったため、このことでますます関係が悪化しました。418年1月、王鎮悪が軍を率いて北地に進出したところ、沈田子の一族によって暗殺されました。享年46歳。さらに、王鎮悪の陣営にいた兄の王基、弟の王鴻、王遵、王淵、従弟の王昭、王朗、王弘ら7人も沈田子によって殺害されました。王鎮悪は左将軍・青州刺史の位を追贈されました。南朝宋が建国されると、竜陽県侯に追封され、壮侯という諡号が贈られました。

子の王霊福が後を継ぎ、南朝宋の南平王劉鑠の下で右軍諮議参軍となりました。

伝記資料

『宋書』巻45 列伝第5
『南史』巻16 列伝第6

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