石越 (前秦)

石越（せき えつ）

石越は、五胡十六国時代の前秦に仕えた軍人です。始平郡の出身で、生没年は不明です。前秦の勢力拡大に貢献しましたが、淝水の戦いの後に反前秦の軍に敗れて討死しました。

生涯

石越は前秦に仕え、黄門郎に任じられました。

369年11月、前秦君主苻堅の命により、使者として前燕に派遣されました。その後、征虜将軍・屯騎校尉に任じられました。

378年2月、石越は1万騎を率いて魯陽関より襄陽へ侵攻しました。

4月、前秦軍は漢陽から沔北まで軍を進めました。東晋の梁州刺史朱序は前秦軍に船がないことから備えを怠っていましたが、石越は5千騎を率いて馬で川を渡ったので、朱序はこれに驚愕してすぐさま中城を固く守りました。石越軍は城の外郭を攻め落とし、船百艘余りを鹵獲すると、残りの全軍を渡河させました。総大将である征南大将軍苻丕は中城を攻め、石越は領軍将軍苟池・右将軍毛当と共に5万の兵を率いて江陵に向かいました。東晋の車騎将軍桓沖は7万の兵を率いて救援に向かったものの、石越らを憚って進むことができず、上明に留まりました。翌379年2月に襄陽は陥落し、朱序は捕虜となりました。石越はその後、驍騎将軍に任じられ、屯騎校尉はそのままとされました。

380年4月、行唐公苻洛が反旗を翻すと、苻堅は征討大都督苻融にこれを討伐させると共に、石越には別動隊を与えて本拠地の和龍（龍城）を奇襲させました。石越は東萊から1万騎を率いて海路4百里を行き、和龍へ侵攻しました。5月、石越は和龍を攻略すると、苻洛の側近である治中平規とその余党数百人を討ち取り、幽州を悉く平定しました。

8月、前秦は幽州を分けて平州を新設すると、石越を領護鮮卑中郎将・平州刺史に任じて龍城を鎮守させました。後に太子左衛率に任じられました。

382年10月、苻堅が東晋攻略を計画すると、石越は天候の不順や晋の地の利、人心の安定などを理由に反対しました。しかし、苻堅は聞き入れませんでした。その後も、石越は車騎大将軍苻融・尚書申紹らを始めとした朝臣の大半と共に上書して言葉を尽くして出征を諫めましたが、苻堅は聞き入れませんでした。

383年5月、東晋の車騎将軍桓沖は前秦征伐の兵を挙げ、10万を率いて襄陽へ侵攻しました。石越は苻堅の命により、征南将軍苻叡・冠軍将軍慕容垂・左衛将軍毛当と共に歩兵・騎兵併せて5万を率いて襄陽救援に向かいました。桓沖軍を退却させることに成功しました。

後に雍州牧に任じられました。

8月、苻堅は東晋攻略を決行すると、石越は征南大将軍苻融・驃騎将軍張蚝・撫軍大将軍苻方・衛軍将軍梁成・平南将軍慕容暐・慕容垂らとともに歩騎25万、号して30万の兵を率いて前鋒軍となりました。9月、前鋒軍は潁口に達し、石越は魯陽から侵攻を開始しました。

11月、苻堅は淝水の戦いで歴史的大敗を喫してしまい、さらに前秦に服属していた諸部族の謀反を引き起こしてしまいました。石越は3千の兵を率いて鄴へ向かい、関東を統治していた苻丕の補佐に当たりました。

12月、丁零族の翟斌が蜂起すると、苻堅は慕容垂に討伐を命じました。石越は慕容垂の危険性を苻丕に進言しましたが、容れられませんでした。

384年1月、苻丕は石越に歩騎1万を与え、列人に割拠した慕容垂の子の慕容農討伐に向かわせました。石越軍は列人の西まで進出しましたが、慕容垂配下の趙秋・参軍綦毋騰に敗れ、石越は戦死しました。その首は慕容垂の下へ送られました。

人物・逸話

慕容農は『石越は智勇合わせ持つ名高き者』と評しています。
石越は毛当と並んで前秦の驍将として誉れ高く、故に苻堅は彼らに二人の子（苻丕・苻暉）の補佐を委ねていました。それが相継いで戦死したため、前秦の民は衝撃を受け、盗賊があちこちで群起するようになりました。

参考文献

『晋書』巻113 - 巻114、巻123
『資治通鑑』巻102、巻104 - 巻105
* 『十六国春秋』巻36 - 巻38、巻41 - 巻44、巻50

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