神祇院造営課

神祇院造営課：戦前の神社建築を担った組織

神祇院造営課は、戦前の内務省外局である神祇院に存在した営繕組織です。そのルーツは、1900年の内務省神社局発足時に技師・技手の職掌が置かれたことに遡ります。1919年には、明治神宮造営局から角南隆が就任し、内務省神社局技術室として組織化されました。1939年の分課改正で神社局造営課となり、1940年に神社局が神祇院に昇格すると、総務局造営課へと改編されました。

主な設計事業

神祇院造営課は、全国各地の神社建築の設計・修復に携わりました。以下に主な事例を紹介します。

鶴岡八幡宮（神奈川県）: 1927年より、角南隆、松室成貞らが関東大震災からの復旧事業を担当。太鼓橋再建、若宮造営、楼門再建、上宮修理、舞殿復旧、鳥居新築などを手がけました。
吉野神宮（奈良県）: 1928年、角南隆の設計により昭和造営工事が行われました。本殿、拝殿をはじめとする現在のほぼ全ての社殿がこの時に建造されました。
宇佐神宮（大分県）: 1932年より、昭和復興大造営事業を担当。下宮社殿、頓宮社殿、社務所・斎館、大鳥居、摂末社改築、その他修理、境内整備など広範囲に及びました。
志賀海神社（福岡県）: 1935年、水害復旧事業として現社殿が建設されました。
熱田神宮（愛知県）: 1935年、本宮造営、宮庁、斎館、勅使館などが新築されました。昭和の神社建築の最高峰と称えられましたが、名古屋大空襲により焼失しました。
竈山神社（和歌山県）: 1936年、拝殿、幣殿、神門、廻廊など現在のほぼ全ての社殿が建設されました。
香取神宮（茨城県）: 1936年、拝殿・幣殿・神饌所などが新築され、本殿、楼門が修理されました。
吉備津彦神社（岡山県）: 1934年、火災からの復旧として現社殿群が建設されました。
平野神社（京都府）: 1937年、室戸台風による被害からの復旧工事（修復）が行われました。
水無神社（岐阜県）: 1939年、本殿、幣殿、拝殿、神饌所が建設されました。
平安神宮（京都府）: 1940年、角南隆、谷重雄の設計により、本殿、内拝殿、神庫、門及び廻廊などが建設されました。しかし、本殿と内拝殿は平安神宮放火事件で焼失しました。
近江神宮（滋賀県）: 1940年、角南隆、谷重雄の設計により建設されました。内務省神社局による集大成作品とも称されています。
霊山神社（福島県）: 1940年、本殿、祝詞殿、拝殿、神饌所が建設されました。
大宮氷川神社（埼玉県）: 1940年、紀元二千六百年記念造営として現在のほぼすべての社殿が建設されました。
気比神宮（福井県）: 1940年、拝殿、祝詞殿などが建設されましたが、敦賀空襲により焼失しました。
橿原神宮（奈良県）: 1940年、角南隆、上田萬次郎の設計により、本殿修理、内拝殿、外拝殿、祝詞殿、廻廊などが新築されました。
生島足島神社（長野県）: 1940年、本殿、幣殿、拝殿、渡廊、楼橋、脇橋などが建設されました。
志波彦神社・鹽竈神社（宮城県）: 1944年、志波彦本殿、東神門、廻廊などが建設されました。
阿蘇神社（熊本県）: 1945年頃、拝殿などが建設されました。終戦により直営が中止されましたが、工事は続行され竣工しました。しかし、2016年の熊本地震により倒壊しました。
熊野大社（島根県）: 1945年頃、工事は1946年に中止されましたが、奉賛会寄付金により続行されました。

未成となった計画

廣田神社（兵庫県）: 1946年竣工予定でしたが、完成間近の本殿が1945年の空襲により焼失し、中止となりました。
霧島神宮（鹿児島県）: 幣殿、内拝殿などが計画されていました。
白峯神宮（京都府）: 1947年予定で、本殿、拝殿、神饌所、廻廊などが計画されていました。
大山祇神社（愛媛県）: 1948年予定で、本殿、祝詞殿、拝殿、廻廊が計画されていました。
井伊谷宮（静岡県）: 1947年予定で、本殿、拝殿、神饌所、神門、翼廊が計画されていました。
常磐神社（茨城県）: 1947年予定で、本殿、拝殿、神饌所、神門、翼廊が計画されていました。

神祇院造営課は、角南隆をはじめとする多くの技術者によって支えられ、戦前の神社建築に大きな足跡を残しました。その業績は、近代神社建築史において重要な位置を占めています。

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