紀安雄

紀安雄（きの やすお）

紀安雄は、平安時代前期に活躍した貴族であり、儒学者としても知られています。苅田首（かりたのおびと）を氏姓としていましたが、後に紀朝臣（きのあそん）に改めました。父は讃岐国の国人で、助教を務めた苅田種継です。

出自と家系

紀安雄は、讃岐国の苅田郡を拠点とする豪族、苅田氏の出身です。苅田氏は武内宿禰の孫である田鳥宿禰を祖とし、紀氏の一族を称していました。父の苅田種継は、讃岐国で助教を務め、従五位下に叙されています。

経歴

紀安雄は、若い頃から学問に励み、明経道（儒教の経典を研究する学問）の得業生となりました。天安2年（858年）には、明経試に及第し、従六位下に叙せられ、直講（学問を教授する役職）に任じられます。翌天安3年（859年）には、広宗安人の辞退を受けて領渤海客使に任ぜられ、渤海からの使節の応接を担当しました。

貞観4年（862年）には、一族と共に本拠を讃岐国から左京に移します。貞観5年（863年）には、外従五位下に叙され、この頃、公卿諸大夫に勅命が下され、貞観格式の編纂が開始されました。安雄もこの編纂作業に参画しています。儒学者としては、釈奠（せきてん、孔子を祀る儀式）において、貞観2年（860年）に毛詩、貞観4年（862年）に御注孝経、貞観8年（866年）には周易を講じています。

貞観9年（867年）には内位の従五位下に叙せられ、同年11月には武内宿禰の後裔であることを上奏し、苅田首から紀朝臣に改姓しました。貞観11年（869年）には勘解由次官兼下野介に任ぜられ、また、大納言・藤原氏宗らと共に進めてきた格式の編纂を完了し、貞観格を、貞観13年（871年）には貞観式を撰上しました。貞観16年（874年）には従五位上に叙せられています。

その後、主計頭を経て、貞観19年（877年）には武蔵守に任ぜられ、地方官に転じます。武蔵守として地方を治めるにあたっては、物事を簡素にし、民に恩恵を施すことを重視したため、官人や民衆から非常に満足されたと伝えられています。武蔵守の任期満了後に平安京に戻り、元慶6年（882年）には鋳銭長官兼周防守に任ぜられますが、武蔵守時代ほどの業績や評判は得られなかったようです。仁和2年（886年）5月28日に65歳で亡くなりました。最終官位は前周防守従五位上です。

人物像

紀安雄は、幼い頃から学業に秀でており、その才能は高く評価されていました。性格は広くゆったりとしており、物事に逆らわず従順でした。特に経学（儒教の経典の研究）に詳しく、詩歌や文章を巧みに表現する才能も持っていました。重陽の節句には、文人として召されたという記録も残っています。

官歴

天安2年（858年）9月15日：従六位下
天安2年（858年）日付不詳：直講
天安3年（859年）2月7日：存問兼領渤海客使
時期不詳：従六位上
貞観4年（862年）5月13日：本拠を讃岐国苅田郡から左京に変更
貞観4年（862年）日付不詳：正六位上
貞観5年（863年）1月7日：外従五位下
貞観9年（867年）1月7日：従五位下
貞観9年（867年）11月20日：苅田首から紀朝臣に改姓
時期不詳：助教
貞観11年（869年）2月16日：勘解由次官
貞観11年（869年）日付不詳：兼下野介
貞観12年（870年）2月21日：兼助教
貞観16年（874年）日付不詳：従五位上
貞観18年（876年）日付不詳：主計頭
貞観19年（877年）日付不詳：武蔵守
元慶6年（882年）日付不詳：鋳銭長官兼周防守
仁和2年（886年）5月28日：卒去（前周防守従五位上）

脚注

1. 武田祐吉 著、佐藤謙三 訳『読み下し 日本三代実録』 上下巻、戎光祥出版、2009年。

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