義県層

義県層：白亜紀前期の豊かな生態系を映す地層

遼寧省西部に広がる義県層は、下部白亜系に属する地層で、熱河層群を構成する主要な地層の一つです。この地層は、当時の活発な火山活動の影響を強く受けた陸成層であり、多種多様な生物化石が数多く発見されていることで知られています。特に、良好な保存状態の化石が多く産出することで有名です。

地質学的特徴

義県層の上位には九佛堂層、下位には土城子層、大北溝層が位置します。地層は、頁岩や泥岩を主体とし、火山活動による凝灰岩が頻繁に挟み込まれています。湖沼堆積物にも凝灰質成分が混在しており、これらの凝灰岩は高精度な放射性年代測定を可能にしています。

層序については、複数の研究グループによって異なる解釈が提示されています。Zhou et al. (2006)は、Lujiatun、Jianshangou、Dawangzhangzi、Jingangshanの4つの単層に区分する一方、Zhong et al. (2021)は、Lujiatunユニット、下部溶岩ユニット、Jianshangouユニット、上部溶岩ユニット、未区分のユニット、Huanghuashanユニットの6つのユニットに区分しています。各ユニットは、砂岩、礫岩、頁岩、凝灰岩、玄武岩、安山岩などから構成されています。

年代測定

義県層の年代測定には、カリウム-アルゴン法、ストロンチウム-ルビジウム法、アルゴン-アルゴン法などが用いられてきました。初期の研究では、測定方法の違いや層序情報の不正確さから、年代値にばらつきが見られました。しかし、近年の研究、特にZhong et al. (2021)によるジルコンを用いたU-Pb年代測定の結果により、義県層の堆積年代は約125.755±0.061 Maから124.122±0.048 Ma、期間にして約163万3300年と推定されています。これは従来の見積もりよりも短い期間となります。特に、陸家屯ユニットの堆積期間は最大でも15万7000年と推定されています。

生物相

義県層からは、多様な生物化石が産出しており、その多様性は熱河生物群を代表するものです。

恐竜: シノサウロプテリクス、カウディプテリクス、ディロングといった羽毛恐竜の発見は有名です。他にも、ベイピアオサウルス、ジアンチャンゴサウルスといったテリジノサウルス類、ティラノサウルス上科のユウティラヌスなども産出しています。これらを通じて、羽毛恐竜の進化や多様性について貴重な知見が得られています。

その他の脊椎動物: マンチュロケリス（カメ）、モンジュロスクス（コリストデラ類）、レペノマムス（哺乳類）などが知られています。レペノマムスとプシッタコサウルスの格闘化石の発見は、当時の生態系における哺乳類の役割を再考させる重要な発見です。

植物: コケ植物、シダ類、イチョウ類、球果植物など多様な植物群が確認されており、被子植物の出現も確認されています。これらは、当時の環境を復元する上で重要な手がかりとなります。

昆虫: 植物の進化と密接な関係を持つ昆虫の化石も多数発見されており、植物と昆虫の共進化を示唆する証拠も得られています。

環境

義県層は、活発な火山活動が特徴的な湖沼環境で形成されました。火山活動は、直接的な被害に加え、森林火災や有毒ガス発生による間接的な影響も及ぼしたと考えられます。一方、火山活動によって供給されたミネラルは湖沼の富栄養化を促進し、生物多様性の維持に貢献した可能性もあります。

気候は、乾季を伴う湿潤な亜熱帯から温帯気候と推測されており、年平均気温は約10℃であったと考えられています。堆積サイクルは、気候変動、特に地球の自転軸の傾きの変化と関連している可能性が指摘されています。

まとめ

義県層は、白亜紀前期の東アジアにおける生物進化や古環境を理解する上で極めて重要な地層です。多様な生物化石の発見と、近年の高精度な年代測定技術の進歩によって、その詳細な地質学的特徴や、当時の生態系、気候変動などが明らかになりつつあります。今後の研究によって、さらに多くの知見が得られることが期待されます。

もう一度検索