聖岳

聖岳（ひじりだけ）

聖岳は、赤石山脈（南アルプス）の南部に位置する標高3,013mの山で、静岡市葵区と長野県飯田市の境界にそびえ立ちます。日本百名山にも選定されており、その秀麗な山容と豊かな自然から多くの登山者に愛されています。

概要

南アルプス国立公園内に位置し、主峰の聖岳（前聖岳と表記されることもあります）を中心に、東に奥聖岳、南に小聖岳を従えています。3,000m峰の中では最も標高が低い山ですが、南アルプスの中では最南端の3,000m峰となります。山頂周辺や標高2,300m付近の聖平には、大規模な高山植物の群生地が広がっています。

山名の由来は、南東を流れる聖沢が肘を曲げたような形をしていることから、「ひじ折る」や「へずり」が転じたとされています。別名として「日知ヶ岳」（ひじりがたけ）とも呼ばれます。南面にはカール地形が見られ、南西斜面には大規模な崩落地と赤色チャートの露出地があります。

環境

梅雨時期には降水量が多く、山頂部は5月下旬まで積雪が見られます。6月初旬頃まで登山道に残雪が残ることもあります。11月に入ると本格的な冬山となり、厳しい環境となります。

東側の斜面は特種東海製紙の社有林で、針葉樹林の植林地が広がっています。山頂周辺は森林限界を超えたハイマツ帯の花崗岩の岩山で、高山植物が自生し、ライチョウが生息しています。山腹は針葉樹林に覆われており、ニホンカモシカやニホンジカなどの動物も生息しています。

近年、聖平周辺ではニホンジカによる高山植物の食害が深刻化しており、ライチョウの餌となる高山植物が減少しています。環境省は、シカの防護柵を設置するなど、対策を講じています。また、周辺の南アルプス南部では、高山植物の保護対策のため、「南アルプス高山植物保護ボランティアネットワーク」が発足しています。

周辺には民家はなく、かつて長野県側の西沢渡に営林署がありましたが、現在は荒廃しています。山麓の飯田市下栗の里からは、その雄大な山容を望むことができます。

歴史

1905年（明治38年）7月、陸地測量部の測量官が三角点を選定したことが、初登頂とされています。

1912年（明治45年）7月には、日本山岳会の中村清太郎らが南アルプス南部を縦走した際に登頂しました。

1919年（大正8年）には、冠松次郎が聖岳南西の遠山川西沢を初遡行しています。

その後も、多くの登山家がこの山に挑み、1944年（昭和19年）に遠山川沿いの森林軌道が開通したことで、登山者が増加しました。1957年（昭和32年）の静岡国民体育大会の登山競技をきっかけに、一般の登山者が入山するようになりました。

1964年（昭和39年）には、南アルプス国立公園の特別保護地区に指定され、1991年（平成3年）には、聖平に新しい小屋が建設されました。

登山

日本百名山に選定されていることもあり、多くの登山者が訪れます。複数の登山道があり、早朝に標高差2,000m以上の登山口を出発して日帰りで山頂を往復する人もいますが、山小屋やキャンプ指定地を利用して数日かけて登頂するのが一般的です。

山頂西面は巨大な崩壊壁となっており、E稜とF稜が岩稜登攀の対象となっています。山頂から奥聖岳への登山道もあります。聖岳東尾根は、バリエーションルートとして冬期に利用されることがあります。山頂からは、南アルプスをはじめ、中央アルプス、北アルプス、富士[[山]]など、360度のパノラマが楽しめます。

登山道

南アルプス縦走路: 赤石岳 - 大沢岳 - 中盛丸山 - 小兎岳 - 兎岳 - 聖岳 - 小聖岳 - 聖平 - 南岳 - 上河内岳と、南アルプスの主稜線を通るルートです。
便ヶ島からのルート（長野県側）: 便ヶ島（聖光小屋） - 西沢渡 - 薊畑 - 聖平 - 小聖岳 - 聖岳 （ - 奥聖岳）と、西側から登るルートで、一部は遠山森林鉄道の跡地を通ります。西沢渡には、渡渉点と荷物運搬用の籠渡しがあります。
聖沢からのルート（静岡県側）: 東俣林道（聖沢登山口）- 聖沢吊橋 - 聖平（聖平小屋） - 小聖岳 - 聖岳 （ - 奥聖岳）と、東側の大井川から聖平を結ぶルートです。

周辺の山小屋

登山口や稜線上には、山小屋とキャンプ指定地があります。登山シーズン中の一部期間に有人の営業を行っています。最寄りの山小屋は聖平小屋で、キャンプ指定地も併設されています。南アルプス国立公園内では、キャンプ指定地を除き、全山幕営禁止です。椹島には、東海フォレストが管理・運営する椹島ロッヂがあり、宿泊者のみリムジンバスを利用できます。

水場

聖岳小屋の脇の沢、小聖岳の下部の稜線鞍部、西沢渡の渡渉点、椹島ロッヂで水を得ることができます。

地理

赤石山脈（南アルプス）の南部の主稜線上に位置し、東側に聖岳東尾根が延びています。周辺には、赤石岳、荒川岳、上河内岳などの山々がそびえています。

源流の河川

山頂から東5.5kmの地点には赤石ダム、東3.3kmには聖沢大滝があります。これらの河川は太平洋へと流れ込みます。

赤石沢、聖沢（大井川の支流）
遠山川（天竜川の支流）

交通・アクセス

長野県側（便ヶ島）

公共交通機関: JR飯田線の飯田駅か平岡駅からタクシーを利用するか、路線バスに乗り換えた後にタクシーを利用する必要があります。
マイカー: 三遠南信自動車道の喬木インターチェンジが最寄りで、国道474号の矢筈トンネルを利用します。聖光小屋と易老渡（いろうど）に駐車場があります。

静岡県側（畑薙第一ダム）

公共交通機関: 静岡駅から畑薙第一ダム行きのバスが利用できます。
マイカー: 新東名高速道路の新静岡インターチェンジが最寄りで、畑薙第一ダムの先にゲートがあります。東俣林道には一般車両は乗り入れできず、指定された駐車場を利用する必要があります。また、県道は土砂崩れで通行止めになる場合があります。

聖岳の風景と展望

山頂からの眺望は素晴らしく、周囲の山々や遠くの山脈まで見渡すことができます。天候によっては、雲海や夕焼けなど、美しい景色を楽しむことができます。

テレビ番組

『日本百名山 聖岳』NHK衛星第2テレビジョン（1994年12月12日放送）
『深山誘う 南アルプス・聖岳』小さな旅 - NHK総合テレビジョン（2005年9月18日放送）
『美しき日本の山々「開聞岳、聖岳、鳥海山」』NHK総合テレビジョン（2018年1月21日放送）

関連書籍

白簱史朗・大森弘一郎『北岳・甲斐駒・赤石―10コース』山と溪谷社〈空撮登山ガイド 6 南アルプス編〉、1981年1月。ISBN 4635020061。
『南ア・中ア・八ガ岳』山と溪谷社〈諸国名山案内〉、1994年8月。ISBN 4635021459。
『アルペンガイド10 南アルプス』山と溪谷社〈ヤマケイ・アルペンガイド〉、2010年6月。ISBN 9784635013581。

関連項目

赤石山脈（南アルプス）、南アルプス国立公園
日本百名山
日本の山一覧 (高さ順)・第21位、日本の山一覧 (3000m峰)
高山植物
尾州不二見原 - 葛飾北斎の『富嶽三十六景』のひとつ、現名古屋市内から富士[[山]]を望む設定による。ただし実際には富士[[山]]でなく聖岳であろうといわれる。
* 小島聖 - 名前の由来。彼女の父親が聖岳が好きなことで名付けられたという。

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