臨済義玄

臨済義玄(りんざい ぎげん)



臨済義玄は、中国時代に活躍した禅であり、臨済宗の開祖としてその名を歴史に刻んでいます。号は慧照禅師。俗姓は邢、現在の山東省菏沢市東明県にあたる曹州南華県出身です。

生涯



20歳で出家し、義玄と名乗るようになった臨済は、当初、仏教学の研究に励んでいました。しかし、律や経典の研究だけでは心の充足を得られず、それらを「世渡りの道具」と見なすようになります。その後、禅宗に転向し、黄檗希運に師事、厳しい修行の中で、有名な「黄檗三打」の機縁を経て悟りを開きました。

黄檗三打


悟りを開く前、臨済はひたすら坐禅に励む日々を送っていました。ある日、首座の和尚から「黄檗老師に参禅したことがあるか」と問われ、参禅したことのない臨済は、その理由を「何を尋ねれば良いかわからない」と答えました。首座和尚は、「仏法の限界を尋ねてみれば良い」と促し、臨済は黄檗に参禅します。しかし、質問を終える前に黄檗から三十棒で打たれてしまいます。首座和尚に報告すると、再度同じ質問をするように言われ、三度参禅し、三度とも棒で打たれました。

絶望した臨済は、黄檗山を下る決意をしますが、黄檗は臨済に高安の灘に住む大愚和尚を訪ねるように指示します。大愚に「私に落ち度があったのか」と尋ねたところ、「黄檗は親身になってお前のことを考えているのに、その上、私に落ち度があったかどうかなどと聞きに来るとは何事だ」と叱責され、この言葉で臨済は悟りを開きました。

大悟した臨済は、「黄檗の仏法など、こんなものか」と嘯きます。これに対し、大愚は臨済を問い詰め、臨済は大愚の脇腹を三度殴りました。大愚は臨済の悟りを認め、黄檗の元へ帰るように促しました。黄檗に事の顛末を報告すると、黄檗は「今度、あいつに会って一発お見舞いしてやりたい」と言います。すると臨済は黄檗を平手打ちにし、黄檗は臨済の悟りを認め、大笑しました。これが黄檗から臨済への印可(悟りの証明)となります。

大悟以降



悟りを開いた後、臨済は河北の有力軍閥、成徳軍節度使の王紹懿の帰依を受け、真定府の臨済院に住みました。多くの弟子を育て、その門流は後に臨済宗と呼ばれるようになります。その宗風は、馬祖道一に始まる洪州宗の禅風をさらに推し進め、中国禅の頂点を極めたとされています。峻烈な禅風で「喝」を多用することから、「臨済将軍」とも呼ばれました。

咸通8年(867年)正月10日、臨済は弟子の三聖慧然に「私が死んでも正法眼蔵(仏の教え)を滅ぼしてはならない」と述べ、慧然は「どうして老師の正法眼蔵を滅ぼすことができましょうか」と答えました。臨済は「では今後、人がお前に尋ねたらどう応えるのか」と問うと、慧然は一喝しました。臨済は「わしの正法眼蔵が、この馬鹿坊主のところで滅びてしまうとは、いったい誰が知るであろうか」と言い、静かに息を引き取ったと伝えられています。

語録



臨済の言行は、弟子の三聖慧然によって『臨済録』としてまとめられました。これは、北宋時代に印刷されて以降、広く流布し、「語録の王」と称されています。

臨済の言葉として、以下のようなものが伝えられています。

お前たちは祖仏に会いたいと思うか。いまわしの面前で説法を聴いているお前たちこそがそれなのだぞ。しかし、修行者がそれを信じきれないが故に、外に向かって求め回るのだ。たとえ得ることが出来たとしても、それは全て文字上のことであり、決して活きた達磨の意ではない。


仏に逢うては仏を殺せ。祖に逢うては祖を殺せ。羅漢に逢うては羅漢を殺せ。父母に逢うては父母を殺せ。親類に逢うては親類を殺せ。始めて解脱を得ん。


臨済と普化



『臨済録』には、普化という禅が登場します。普化は、臨済とは対照的な存在として描かれ、その奇抜な言動で臨済を翻弄します。普化を始祖とする宗派に普化宗があります。

ある日、臨済は普化と共にお斎に招かれた際、「一本の髪の毛が大海を呑み込み、一粒の芥子の中に須弥山を収める」という現象について尋ねます。普化は食卓を蹴倒し、「どこだと思って荒々しい穏やかだと言っているのか」と答えました。また別の日には、臨済が「今日の供養は昨日と比べてどうかね」と尋ねると、普化は再び食卓を蹴倒しました。

また、臨済が他の長老と普化について話していると、普化が現れました。臨済が「お前は凡人か聖人か」と問うと、普化は「まずお前が言ってみろ」と返答。臨済は一喝すると、普化は「河陽は花嫁、木塔はお婆々。臨済はこわっぱながら、いっぱしの目を持った子だ」と言い、その場を去りました。

普化は、街で生の野菜を食べていた際、臨済に「ロバそっくりだ」と言われると、「メー」と鳴き返しました。また、街でを鳴らし、「明で来れば明で始末し、暗で来れば暗で始末する」などと唱えていました。

ある日、普化は街で衣を施してくれるよう頼みましたが、誰も受け取ろうとしませんでした。臨済が桶一式を準備すると、普化はそれを持って「東門へ行って遷化する」と叫びました。しかし、誰も信じなくなり、普化は一人でに入り、通りがかりの人に蓋をしてもらい、その姿は消え、の音だけが聞こえたと伝えられています。

伝記



『宋高伝』巻十二
『景徳伝灯録』巻十二

関連作品



衣川賢次『臨済』「代の禅8」臨川書店、2021年。
『臨済一喝』 - 橋本雅邦筆、1897年

脚注



小川太龍「代禅の思想展開 : 空に回帰する黄檗の禅から既に空なる臨済の禅へ」『禪學研究』第96号、禪學研究會、2018年3月、1-31頁。

関連項目



臨済寺
会昌の廃仏
普化

もう一度検索

【記事の利用について】

タイトルと記事文章は、記事のあるページにリンクを張っていただければ、無料で利用できます。
※画像は、利用できませんのでご注意ください。

【リンクついて】

リンクフリーです。