臨済録

臨済録（りんざいろく）

『臨済録』は、中国唐代の禅僧である臨済義玄（りんざいぎげん）の言行をまとめた語録であり、禅宗、特に臨済宗において非常に重要な文献とされています。正式名称は『鎮州臨済慧照禅師語録（ちんしゅうりんざいけいしょうぜんじごろく）』といい、一巻（または編纂によっては二巻）で構成されています。この語録は、禅の思想を直接的に伝えるものとして、「語録の王」とも称されています。

成立と構成

『臨済録』は、臨済義玄の弟子である三聖慧然（さんしょうえねん）によって最初に編纂されました。その後、円覚宗演（えんがくそうえん）によって増補され、1120年に印刷されました。この増補によって広く流布し、多くの人々に読まれるようになりました。

『臨済録』は、主に以下の要素で構成されています。

序: 北宋の馬防（ばぼう）による序文。
上堂語: 臨済義玄が弟子たちに行った問答集。
示衆: 弟子たちへの講義録。
勘弁: 他の禅僧との問答集。
行録: 臨済義玄の伝記。
塔記: 「眞定十方臨濟慧照玄公大宗師道行碑」と「臨濟正宗碑銘」という二つの碑文。

本文の一部

『臨済録』には、禅の核心を突くような言葉が多く含まれています。以下にその一部を紹介します。

「示衆」より

你欲得識祖佛麼。 祇你面前聴法底是。

「君たち、その祖仏に会いたいと思うか。今わしの面前でこの説法を聴いている君こそがそれだ。」（入矢義高訳）

これは、仏は遠い存在ではなく、今この瞬間に目の前にいる自分自身の中に存在するという禅の根本的な考えを示しています。

問、如何是眞佛眞法眞道、乞垂開示。師云、佛者心清浄是。

「問い、『真実の仏、真実の法、真実の道とはどんなものですか、どうぞお示しください。』師は言った、『仏とは心の清浄さがそれ。』」（入矢訳）

ここでは、仏とは特別なものではなく、私たちの心が清らかである状態を指していると述べられています。内なる心のあり方が重要であることが強調されています。

道流、約山僧見處、與釋迦不別。今日多般用處、欠少什麼。六道神光、未曾間歇。若能如是見得、祇是一生無事人。

「弟子たちよ、わしの見地からすれば、この自己は釈迦と別のものではない。現在のこの日々のはたらきに何の欠けているものがあろうか。この六根を通じての自由な輝きは、一瞬でもとぎれたことはない。もし、このように徹見できれば、これこそ一生大安心の人だ。」

この言葉は、自己の本質は仏と変わらず、日常のあらゆる活動の中に仏の輝きがあることを示唆しています。この真理を理解すれば、人生において迷うことがなくなると説いています。

現代への影響

『臨済録』は、禅宗の思想を学ぶ上で欠かせない文献であり、現代においても多くの人々に読まれています。その教えは、自己探求や心の平和、日々の生活における気づきを与えてくれるでしょう。

版本と訳注

『臨済録』には多くの版本と訳注が存在し、研究者や読者の間で様々な形で読まれています。以下に主なものを挙げます。

『続古尊宿語要』
『古尊宿語録』
「五山版 臨済録」
「古活字版 臨済録」
『臨済録 全』貝葉書院 手摺和綴本
『臨済録 大正新脩大蔵経 巻47』
『臨済録』（朝比奈宗源訳注、岩波文庫）
『臨済録』（柳田聖山訳、中央公論新社・中公クラシックス）
元版『世界の名著 18　禅語録』（中央公論社）
『臨済録』（古田紹欽訳註、角川文庫）
『佛典講座 30　臨済録』（柳田聖山、大蔵出版）
『禅の語録 10　臨済録』（秋月龍珉訳著、筑摩書房）
『臨済録』（入矢義高訳注、岩波文庫）
『臨済録』（山田無文著、禅文化研究所）
『六祖壇経・臨済録 新国訳大蔵経 中国撰述部』（齋藤智寛、衣川賢次訳注、大蔵出版）
『臨済録訳注』（衣川賢次訳著、大法輪閣）

関連書籍

『臨済録』に関する研究書や解説書も多数出版されており、より深く理解するための手助けとなります。

釈宗活『臨済録講話』（光融館、1924年）
間宮英宗『臨済録 - 聖典講話』（新興出版社、1935年）
陸川堆雲『臨済及臨済録の研究』（喜久屋書店、1949年）
足利紫山『臨済録提唱』（大法輪閣、1954年）
古田紹欽『臨済録の思想』（春秋社、1956年）
平田精耕『提唱臨済録』（上・下、柏樹社、1984年）
中村文峰『臨済録物語』（大蔵出版、1992年）
『臨済録一字索引』（ウルス・アップ編、花園大学国際禅学研究所、1993年）
里道徳雄『臨済録 - 禅の神髄』（NHKライブラリー、1995年）
大森曹玄『臨済録講話』（春秋社、1980年、新装版2005年）
西村惠信『臨済録をめぐる断章 - 自己確立の方法』（禅文化研究所、2006年）
小川隆『臨済録 - 禅の語録のことばと思想』（「書物誕生」岩波書店、2008年）
『臨済録のことば　禅の語録を読む』講談社学術文庫、2024年
町田宗鳳『生きてるだけでいいんだよ -『臨済録』自由訳による-』（創美社、2009年）
有馬頼底『『臨済録』を読む』（講談社現代新書、2015年）
中村文峰『臨済録提唱』（春秋社、2016年）
『「臨済録」国際学会　論文集』(禅文化研究所編、臨済宗黄檗宗連合各派合議所・花園大学、2016年)
『柳田聖山集 第4巻　臨済録の研究』（法蔵館、2017年）
衣川賢次『臨済　外に凡聖を取らず、内に根本に住せず』（「唐代の禅僧 8」臨川書店、2021年）

参考文献

『禅の歴史』（伊吹敦著、法蔵館、2002年）
『禅学大辞典』（大修館書店、1978年）

外部リンク

コトバンク>臨済録
* 花園大学>国際禅学研究所>禅籍データベース>臨済録

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