薛綜

薛綜（せつ そう）

薛綜は、後漢末期から三国時代の呉にかけて仕えた政治家であり、字は敬文といい、豫州沛郡竹邑県（現在の安徽省宿州市埇橋区）の出身です。彼は、戦国時代の斉・魏・秦の宰相を務めた孟嘗君（田文）の末裔であるとされています。

生涯

若い頃から弁舌と文章に優れていた薛綜は、戦乱を避けて一族と共に交州へ移住し、儒学者の劉熙に師事しました。建安15年（210年）頃、士燮が孫権に帰順したのを機に孫権に仕え始め、五官中郎将、合浦太守、交阯太守などを歴任しました。

延康元年（220年）には、呂岱が交州刺史として赴任すると、その配下として転戦し、海を渡って九真郡まで従軍しました。その功績が認められ、謁者僕射に任じられました。呂岱が中央に戻る際、薛綜は交州の事情を詳細に報告する上疏文を提出し、後任者の役に立てました。この上疏文は正史にも収録されており、後漢末期から三国時代初期の交州の様子を知る上で貴重な資料となっています。上疏文には、士燮・劉表・呉巨などの動向や、士氏の滅亡、地元の民心の様子などが記されています。

黄龍3年（231年）には、孫慮に招かれて長史に任命され、書物を自由に学べる環境を与えられました。嘉禾元年（232年）に孫慮が亡くなると中央に戻り、賊曹尚書、尚書僕射を歴任しました。公孫淵の態度に激怒した孫権が遼東遠征を計画した際には、薛綜がこれを諌めたため、遠征は中止されました。

孫権は薛綜に対し、短期間で全く新しい祝詞を作成するよう命じましたが、薛綜は見事にこれを果たしました。さらに、三篇一組とするために二篇の祝詞を追加で作成するよう命じられると、これもやり遂げ、その出来栄えは孫権から大いに称賛されました。

赤烏3年（240年）には選曹尚書に任じられましたが、一度は固辞し、顧譚を推挙しました。赤烏5年（242年）には太子少傅も兼任し、皇太子である孫和の補佐役を務めました。『呉書』によると、孫権は固辞する薛綜に対し、紫綬と嚢袋を与えることを願い出たとされています。翌年の春に死去しました。

薛綜は数万言に及ぶ詩・賦・議論を著し、それらは『私載』としてまとめられました。また、『五宗図述』を著した他、後漢の張衡の「二京の賦」に対する注釈である「二京解」は、『文選』の李善注に取り入れられ、現代にまで伝えられています。

陳寿は薛綜を「深い学識を有して主君に対する適切な諫言を行い、呉における有能な臣下になった」と高く評価しています。

三国志演義における薛綜

小説『三国志演義』では、孫権が呉の国主になった際に配下となった武将の一人として登場します。赤壁の戦いの場面では、曹操への降伏を主張する家臣の一人として描かれ、諸葛亮との論戦に敗れる場面があります。

逸話

蜀漢の使者である張奉が、孫権の御前で闞沢の姓名を分解し、意地悪く解釈して笑いものにした際、闞沢はやり返すことができませんでした。この時、薛綜は自ら酒を酌してまわり、酒を勧めるついでに「蜀とは、犬（犭へん）がいると獨（独りという字）になり、犬がいないと蜀となりますな。よく見ると目を横につけて（罒）身をかがめ（勹）、腹には虫が入っております」と述べました。張奉が「呉という字についても分解し解釈してみてくれないか」と尋ねると、薛綜は即座に「口がなければ天となり、口があると呉になります。万邦に君臨しており、天子の都なのです」と答えました。これを聞いた孫権や群臣は大いに喜び、張奉は返す言葉もなかったと言われています。

この逸話は『江表伝』にも記されていますが、話の内容と登場人物が一部異なっています。蜀の費禕が呉を公式訪問した際、費禕は諸葛恪を相手に呉と蜀の優劣について言い争いをしていました。費禕が「蜀の字はいかなる意味か」と尋ねると、薛綜は「水があれば濁り、水がないのが蜀である。目を横にし（罒）身をかがめ（勹）、腹には虫が入っておる」と答えました。さらに費禕が「呉という字はどういう意味か」と尋ねると、薛綜は「口がなければ天で、口があれば呉である。下々は青海原に臨んでおり、まさに天子の帝都です」と述べたとされています。

家系図

(家系図に関する情報が提供されていません。)

伝記資料

* 『三国志』「呉志」薛綜伝

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