藤原常嗣

藤原常嗣（ふじわら の つねつぐ）は、平安時代初期から前期にかけて活躍した公卿です。藤原北家、中納言・藤原葛野麻呂の七男として生まれました。官位は従三位・参議にまで昇りつめました。

経歴

嵯峨天皇の治世、弘仁9年（818年）に昇殿を許されますが、その年の11月には父・葛野麻呂が亡くなります。その後、右京少進や式部大丞などを経て、弘仁14年（823年）に従五位下・右少弁に任じられました。淳和天皇の時代には、式部少輔を務める傍ら、天長3年（826年）には従五位上、天長5年（828年）には正五位下へと順調に昇進しました。天長7年（830年）には刑部少輔に左遷されますが、その年の8月には蔵人頭に抜擢、天長8年（831年）には従四位下・参議に叙任され、公卿の仲間入りを果たしました。議政官としては、勘解由長官や右大弁も兼任し、この間には『令義解』の編纂にも携わっています。

仁明天皇の時代に入ると、天長10年（833年）には従四位上に叙せられ、承和元年（834年）には、かつて父・葛野麻呂も務めた遣唐大使に任命されました。父子二代続けての大使任命は、「唯一門のみ」と評されるほどでした。しかし、承和3年（836年）と承和4年（837年）の二度にわたり渡航に失敗。この間、左大弁や大宰権帥にも任じられ、正四位下に叙されています。

承和5年（838年）の三度目の渡航の際、これまでの渡航失敗によって第一船が破損していたため、副使の小野篁が乗る予定だった第二船への乗り換えを試みたことで、篁と対立。篁は病気を理由に渡航を拒否してしまいます。結果的に三度目の渡航は成功するものの、その旅は非常に悲惨なものであったと、同行した円仁の『入唐求法巡礼行記』に記されています。承和6年（839年）に常嗣は長安で文宗に謁見し、その後、新羅船を手配して8月に帰国しました。これが実際に渡海した最後の遣唐使となりました。

帰国後の同年9月には、渡海の労によって従三位に昇叙されましたが、承和7年（840年）4月23日に45歳で亡くなりました。最終的な官位は参議左大弁従三位でした。

人物

若い頃から学問に励み、『史記』や『漢書』を読み込み、『文選』を暗誦するほどの知識人でした。文章を作成することを好み、隷書を得意としていました。生まれつき物事を見通し、取り仕切る能力に長け、その立ち居振る舞いは礼儀にかなっており、高く評価されました。遣唐大使としては、円仁の天台山留学のために尽力した一方で、副使の小野篁をはじめ、乗船を拒否した者が複数おり、処罰を受けた者もいたそうです。帰国時には渡航ルートを巡って准判官の長岑高名と対立し、高名の主張が認められるなど、トラブルが続発しました。これらのことから、常嗣の判断力や統率力に疑問を呈する見方もあります。

『経国集』には、彼の漢詩作品が収録されています。

官歴

弘仁9年（818年） 正月：昇殿
弘仁11年（820年） 2月：右京少進
弘仁12年（821年） 正月：蔵人
弘仁13年（822年） 日付不詳：式部大丞
時期不詳：正六位上
弘仁14年（823年） 正月7日：従五位下。正月11日：下野守。3月21日：山城介。4月18日：春宮亮（春宮・正良親王）。9月16日：右少弁
天長元年（824年） 4月9日：式部少輔、止弁。9月20日：勘解由次官
天長3年（826年） 正月7日：従五位上
天長5年（828年） 正月7日：正五位下
天長7年（830年） 正月22日：刑部少輔（座事左遷）。8月：蔵人頭。9月20日：兼勘解由次官
天長8年（831年） 正月4日：従四位下（越階）。正月23日：勘解由長官。7月11日：参議、勘解由長官如元
天長9年（832年） 正月11日：兼下野守。11月7日：兼右大弁、長官如元
天長10年（833年） 11月18日：従四位上
承和元年（834年） 正月12日：兼相模守。正月19日：遣唐大使。5月13日：備中権守。7月1日：近江権守
承和2年（835年） 12月25日：兼左大弁、近江守如故
承和3年（836年） 正月7日：正四位下
承和4年（836年） 2月13日：大宰権帥
承和6年（839年） 9月28日：従三位
承和7年（840年） 4月23日：薨去（参議左大弁従三位）

系譜

父：藤原葛野麻呂
母：菅野浄子（菅野池成の娘）
妻：藤原緒嗣の娘
男子：藤原興邦（821-863）
男子：藤原文弘
妻：伴真臣の娘
男子：藤原葛覧

もう一度検索