藤原清河

藤原清河：唐に生きた公卿

藤原清河（ふじわら の きよかわ）は、奈良時代の公卿であり、藤原北家の祖である参議・藤原房前の四男として生まれました。唐名は河清（かせい）といい、官位は従三位・参議、贈従一品にまで至りました。彼は遣唐大使として唐に渡り、阿倍仲麻呂と共に唐朝に仕えましたが、その生涯は波乱に満ち、故郷の土を踏むことなく異国の地で没しました。

官僚としての順調な道のり

清河は天平12年（740年）に従五位下に叙爵し、翌年には中務少輔に任じられます。その後も順調に昇進を重ね、天平18年（746年）には従四位下に至りました。孝謙天皇の即位に伴い、天平勝宝元年（749年）には参議に任じられ、兄である藤原永手に先んじて公卿の列に加わりました。この間、聖武天皇の治世下で着実にキャリアを積み重ねていったことがわかります。

遣唐大使としての使命

天平勝宝2年（750年）、清河は第12次遣唐使の大使に任命されました。副使には大伴古麻呂と吉備真備が選ばれ、一行は唐へ向かいます。出発にあたり、清河は節刀を拝し、正四位下に叙せられました。難波津を出航する前に詠んだ和歌が『万葉集』に残されており、彼の心情を今に伝えています。唐に到着後、長安で玄宗皇帝に謁見し、その才能を称賛されたと伝えられています。また、朝貢諸国の使節が集まる席上では、日本の席次が新羅よりも下位であったことに抗議し、席を入れ替えさせるなど、日本の威信を守る役割も果たしました。

帰国への長い道のり

天平勝宝5年（753年）12月、清河ら遣唐使一行は、長年唐に滞在していた阿倍仲麻呂を伴って帰国の途につきます。しかし、鑑真一行の乗船を巡ってトラブルが発生。清河は鑑真の乗船を拒否しましたが、副使の大伴古麻呂が独断で鑑真を乗せたため、一行は4隻に分かれて日本を目指しました。清河の乗る第一船は、沖縄本島付近で座礁し、その後、奄美島を目指すも逆風に遭い、現在のベトナム北部に漂着してしまいます。その地で土人の襲撃を受け、多くの船員が命を落としましたが、清河と仲麻呂は辛くも生き残りました。一方、鑑真を乗せた第二船を含む他の3隻は無事に帰国を果たしました。

唐での新たな生活と帰国への想い

天平勝宝7年（755年）、清河と仲麻呂は長安に戻り、清河は「河清」と名前を改め、唐朝に仕えることとなりました。秘書監という役職を得て、唐での生活を余儀なくされます。その後、高元度を大使とする迎入唐使が派遣されますが、安史の乱の影響で唐の混乱は続き、清河の帰国は許可されませんでした。この背景には、唐朝が清河を抑留することで、日本に兵器の補充を要請しようとする意図があったという見方もあります。日本では、清河を在唐大使のまま文部卿に任じ、さらに従三位に昇進させるなど、その功績を讃えましたが、彼は故郷に戻ることはできませんでした。

その後も、清河は故郷への想いを断ち切れず、渤海使や新羅使を通じて、家族への手紙や上表文を送りました。その中には、淳仁天皇への献上文や、親族への書信などが含まれており、彼の強い帰国への願いが伝わってきます。

帰国叶わぬまま異郷で没す

宝亀6年（776年）に遣唐使が派遣されることになり、佐伯今毛人が遣唐大使に任命されました。翌年、光仁天皇は清河への帰朝命令と、贈り物を与えましたが、彼はすでに唐で客死していました。遣唐使が長安に入った時、清河が既に亡くなっていたことが伝えられたのです。清河の死後、唐から潞州大都督の称号が贈られ、日本では従二位の贈位がなされました。また、清河には唐の女性との間に喜娘という娘がおり、彼女は遣唐使に伴われて日本へ渡っています。

その後も、清河の功績は忘れられることなく、延暦22年（803年）に正二位、承和3年（836年）には従一品の贈位がなされました。藤原清河の生涯は、国際交流の歴史の中で、多くの困難に直面しながらも、故郷への想いを持ち続けた一人の公卿の物語として、現代に語り継がれています。

官歴

時期不詳：正六位上
天平12年（740年） 11月21日：従五位下
天平13年（741年） 7月3日：中務少輔
天平15年（743年） 5月5日：正五位下、6月30日：大養徳守
天平17年（745年） 1月7日：正五位上
天平18年（746年） 4月22日：従四位下
天平勝宝元年（749年） 7月2日：参議
天平勝宝2年（750年） 9月24日：遣唐大使
天平勝宝4年（752年） 閏3月9日：正四位下
天平宝字4年（760年） 2月20日：文部卿
時期不詳：民部卿
天平宝字7年（763年） 1月9日：兼常陸守
天平宝字8年（764年） 1月7日：従三位
宝亀10年（779年） 2月4日：贈従二位
延暦22年（803年） 3月6日：贈正二位
承和3年（836年） 5月10日：贈従一品

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