逸見氏

逸見氏の概要

逸見氏（へみし、へんみし）は、日本の武家氏族です。主に以下の二つの流れがあります。

源姓逸見氏: 清和源氏甲斐源氏の一族。
平姓逸見氏: 桓武平氏房総平氏の一族。

また、「いつみし」と読む姓氏も存在します。例えば、逸見政孝などが挙げられます。後述する逸見氏（へんみし）の末裔の一族も存在すると言われています。

源姓逸見氏

起源と平安後期・鎌倉時代の逸見氏

甲斐源氏は、1130年に源義清（武田冠者）と清光（逸見冠者）が常陸国から甲斐国市河荘に配流され、甲斐各地に土着した一族です。清光は、現在の北杜市域（旧北[[巨摩郡]]域）にあたる逸見郷に進出し、その長男である光長が逸見姓を名乗りました。

平安時代末期、光長は一時的に甲斐源氏の惣領であったと考えられていますが、その後、現在の韮崎市域に拠った弟の信義が始祖となった武田氏が主流となりました。武田氏は甲斐源氏一族を率いて源頼朝の挙兵に参加し、治承・寿永の乱で活躍しました。

『尊卑分脈』には直系子孫の系図が見られますが、『吾妻鏡』などの記録には光長一族の動向はあまり見られません。

鎌倉時代には、『吾妻鏡』によると、1213年の和田合戦において、逸見五郎・次郎・太郎らが和田義盛方に属して討死したとされています。また、『承久兵乱記』によれば、1221年の承久の乱では「へん見のにうだう（入道）」が東山道軍に属して上洛しています。

『尊卑分脈』によると、光長の孫にあたる惟義とその子の義重も承久の乱に従軍しており、惟義は摂津国三条院を、義重は美濃国大桑郷を与えられたとされています。惟義は和泉国守護となり、義重の子孫は大桑氏を称しました。

逸見氏の直系子孫は、摂津や美濃などの西国や、若狭国・上総国など、武田氏が守護職を得た諸国に移り、被官化したと考えられています。一部の庶流子孫は甲斐に残留していたと考えられています。

また、光長の系統とは別に、『吾妻鏡』によると、平宗盛の家人である源季貞の子の宗季（宗長）が光長の猶子となり、逸見氏を称したとされています。宗季は後に「宗長」と改名し、比企能員の変に際して大江広元の従者として名が見られますが、その後の動向は不明です。

さらに、『一本武田系図』によると、武田信義の四男の有義も一時期逸見氏を称し、『浅羽根本武田系図』によると、光長の弟である安田義定の子の定長（四郎）も逸見姓を称したとされています。有義の子孫は吉田氏・小松氏・万為氏を称したとされています。

南北朝・室町時代の逸見氏

南北朝時代には、安芸国守護である武田信武・氏信に従い、軍忠状を与えられた逸見有朝が見られます。また、武蔵野合戦に参加した者もいます。

秋山敬の研究によると、有朝の逸見氏は鎌倉期の逸見氏とは別系統であり、元は甲斐国深沢荘を領していた深沢氏の一族である深沢（逸見）信経が安芸武田氏に従って秋町（安芸町）もしくは逸見を称し、有朝は信経の嫡男であったとされています。深沢氏は秋山氏の末裔とされているため、逸見光長・武田信義の弟である加賀美遠光の子孫ということになります。

信経・有朝は武田信武に従って安芸国で功績を挙げ、武田一族の有力な家であった逸見の名字を与えられたと推測されています。なお、有朝（法名は大円）は子に恵まれなかったため、隣国備後国の三吉秀明に所領を譲っています。

また、紀伊国には、正平年間（1346-1369）に日高郡矢田庄を治めた豪族もいました。

室町時代の甲斐国では、1416年に上杉禅秀の乱が起こり、守護の武田信満が禅秀方に加担して滅亡し、守護不在の状態となりました。これにより甲斐では国人衆が台頭し、有義系の子孫と言われる逸見有直は室町幕府と対抗する足利持氏の支援を受け、甲斐守護の座を幕府に要求しました。

秋山説では、逸見信経が甲斐にも所領を持っており、甲斐に残留した有朝の兄弟がそれを継承したと推測されることから、逸見有直が信経の子孫である可能性を指摘しています。

室町幕府は、将軍の足利義持が高野山に隠棲していた武田信元、次いで武田信重を甲斐守護として派遣しました。

戦国時代には、武田一族の今井氏が逸見姓を称しています。

戦国時代・近世の逸見氏

戦国時代の逸見氏としては、小弓公方足利義明の家臣である逸見祥仙や、若狭武田氏の重臣で後に独立し、織田信長に下った逸見昌経などが知られています。また、逸見氏の一族として、甲斐武田家重臣の飯富虎昌の飯富氏や、安土桃山時代に活躍し、昌経の没後にその遺領の一部を継承した溝口秀勝がいます。

江戸時代には、逸見四郎義年（1747年 - 1828年）が多摩三大流派の一つである甲源一刀流を興しました。逸見四郎義年は甲斐源氏の逸見家19代目当主にあたります。

平姓逸見氏

千葉介常兼の八男である常広が逸見氏を称したことに始まります。常広の子孫は匝瑳党として発展しました。

系図

出典: 『寛政重修諸家譜』

脚注

参考文献

秋山敬「上杉禅秀の乱後の甲斐国情勢」『甲斐武田氏と国人 戦国大名成立過程の研究』（高志書院、2003年、初出は『戦国大名武田氏』（名著出版、1991年）所収）
秋山敬「安芸逸見氏の系譜」西川広平 編著 『甲斐源氏一族』（戒光祥出版〈シリーズ・中世関東武士の研究 第二二巻〉、初出は『武田氏研究』八、1991年所収）

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