1967年の文学

1967年（昭和42年）は、日本の文学史において多様な動きが見られた年となりました。

画期的な絵本の誕生

この年は、後に世代を超えて読み継がれることになる優れた絵本が相次いで刊行されたことが特筆されます。年明けの1月には、中川李枝子（文）と大村百合子（絵）による絵本『ぐりとぐら』が福音館書店から世に出ました。愛らしい野ねずみの双子が活躍するこの物語は、子供たちの絶大な支持を得てロングセラーとなります。続いて4月には、馬場のぼる作の『11ぴきのねこ』（こぐま社）が登場し、とぼけたユーモアで人気を博しました。同月にはさらに、松谷みよ子（文）と瀬川康男（絵）が手がけた、乳幼児向け絵本の金字塔『いないいないばあ』（童心社）が刊行されています。そして秋の10月には、モンゴルの民話を再話した大塚勇三の文章と、赤羽末吉の情感豊かな絵による『スーホの白い馬』（福音館書店）が刊行され、小学校教科書にも採用されるなど、広く読まれるようになりました。

文学賞の動向

その年の文学的成果を測る重要な指標となる文学賞も発表されました。まず、1966年下半期を対象とする第56回芥川龍之介賞は、丸山健二の『夏の流れ』に授与されました。同じく第56回直木三十五賞は、五木寛之の『蒼ざめた馬を見よ』が受賞し、新しい時代を感じさせる受賞として注目を集めました。続く1967年上半期を対象とした第57回芥川龍之介賞には、沖縄出身の大城立裕による『カクテル・パーティー』が選ばれ、沖縄の文学が初めて芥川賞を受賞するという歴史的な出来事となりました。第57回直木三十五賞は、生島治郎の『追いつめる』に授与されました。

権威ある谷崎潤一郎賞の第3回は、安部公房の『友達』と大江健三郎の『万延元年のフットボール』という、戦後文学を代表する二人の作家の作品が同時受賞となりました。また、若手作家の登竜門である群像新人文学賞の第10回は、近藤弘俊の『骨』が受賞しています。

注目の刊行作品

1967年には、現代日本文学を代表する作家たちの重要な作品が多数刊行されました。安部公房は『燃えつきた地図』『人間そっくり』などを発表し、独特の世界観を展開しました。有吉佐和子の『華岡青洲の妻』は、歴史上の人物を描きベストセラーとなるなど大きな反響を呼びました。大江健三郎は谷崎賞受賞作『万延元年のフットボール』を、司馬遼太郎は『殉死』を、三島由紀夫は戯曲『朱雀家の滅亡』などを刊行し、精力的な創作活動を見せました。

海外文学では、後の世界文学に絶大な影響を与えることになるガルシア＝マルケスの『百年の孤独』や、リチャード・ブローティガンの『アメリカの鱒釣り』がこの年に原著で刊行されました（これらの邦訳は後年になります）。評論分野では、江藤淳の『成熟と喪失』や三島由紀夫の『葉隠入門』といった話題作が出版されました。

文学者たちの逝去

一方で、国内外の文学界から多くの才能が失われた年でもありました。日本からは、情緒豊かな作風で多くの読者を魅了した小説家の山本周五郎（享年63）、歌人・国文学者の窪田空穂（享年89）、小説家で壺井栄（享年67）といった大家が亡くなりました。海外では、『北京の路地』などで知られる中国の作家・翻訳家である周作人（魯迅の弟、享年82）、アメリカの詩人・小説家のラングストン・ヒューズ（享年65）、イギリスの児童文学作家アーサー・ランサム（享年83）、ソ連の作家イリヤ・エレンブルグ（享年76）、フランスの小説家マルセル・エイメ（享年65）など、各国を代表する文学者たちがこの世を去りました。

その他の出来事

文学界を揺るがす出来事として、2月には川端康成、三島由紀夫、安部公房、石川淳といった著名な作家たちが共同で、中国の文化大革命が学問や芸術の自由を抑圧していることへの抗議声明を発表しました。これは、文学者たちが政治に対して声を上げた重要な事例として記録されています。また、4月には日本の近代文学に関する資料の収集・保存・研究を行うための機関として、日本近代文学館が開館しました（名誉顧問は川端康成）。これは日本の文学研究の発展に大きな一歩を記す出来事でした。

1967年は、新たな才能の誕生と活躍、そして多くの偉大な文学者の喪失が交錯し、子供向けから純文学、評論に至るまで、多角的に動きを見せた一年でした。

もう一度検索