1999年の文学

1999年の文学

1999年（平成11年）の文学界は、多様な動きが見られた一年でした。多くの著名な作家や批評家が作品を発表する一方、文学賞の選考や、文学に関連する施設の開館、そして惜しまれつつこの世を去った文学者たちの存在など、様々な出来事が重なりました。

主な出来事

年明けの1月14日には、前年1998年下半期の優れた作品を選出する第120回芥川龍之介賞および直木三十五賞の選考委員会が開催されました。また、この年は大野晋による『日本語練習帳』（岩波書店刊）がベストセラーとなり、トーハン発表の年間総合ベストセラーランキングで2位を記録するなど、学術書・教養書が広く読まれたことも特筆されます。夏には、三島由紀夫の文学世界を紹介する「三島由紀夫文学館」が山梨県南都留郡山中湖村に開館しました。初代館長には佐伯彰一氏が就任し、三島由紀夫の作品や生涯に触れる新たな拠点となりました。

文学賞の動向

年間を通じて、日本の主要な文学賞が発表されました。

芥川賞・直木賞

第120回（1998年下半期）
芥川賞：平野啓一郎『日蝕』が受賞。
直木賞：宮部みゆき『理由』が受賞。
第121回（1999年上半期）
芥川賞：この回は「該当作なし」となりました。
直木賞：佐藤賢一『王妃の離婚』と桐野夏生『柔らかな頬』が共同受賞。

その他の主要文学賞

第35回谷崎潤一郎賞は、髙樹のぶ子氏の『透光の樹』に贈られました。
第27回泉鏡花文学賞は、吉田知子氏の『箱の夫』と、種村季弘氏の『種村季弘のネオ・ラビリントス 幻想のエロス』などが受賞しました。

注目の作品

1999年には、多くの作家から話題作が発表されました。小説分野では、村上春樹氏の『スプートニクの恋人』、桐野夏生氏の直木賞受賞作『柔らかな頬』、新井素子氏の『チグリスとユーフラテス』、筒井康隆氏の『わたしのグランパ』、天童荒太氏の『永遠の仔』、殊能将之氏のデビュー作『ハサミ男』などが読まれました。評論分野では、三島由紀夫の未公開原稿や資料をまとめた編著書が出版され、再評価の動きが見られました。

その他の分野でも、小川洋子氏の『深き心の底より』、丸谷才一氏の『思考のレッスン』、森嶋通夫氏の『なぜ日本は没落するか』といった、様々なジャンルの書籍が注目を集めました。

文学界の損失

この一年は、多くの著名な文学者が鬼籍に入った年でもありました。日本からは、フランス文学者の井上究一郎氏、哲学者の久野収氏、評論家の瀬戸川猛資氏や江藤淳氏、小説家でフランス文学者の辻邦生氏、児童文学作家の土家由岐雄氏などが逝去されました。海外に目を向けると、アイルランド出身でブッカー賞作家のアイリス・マードック氏、絵本『おおきな木』で知られる米国の作家シェル・シルヴァスタイン氏、小説『ゴッドファーザー』のマリオ・プーゾ氏、フランスの小説家ナタリー・サロート氏など、国際的に影響力を持った作家たちが惜しまれつつこの世を去り、文学界は多くの才能を失いました。

1999年は、新たな作品の誕生と評価、文学施設の整備といった前向きな動きと同時に、多くの偉大な文学者の旅立ちがあった、記憶に残る一年と言えるでしょう。

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