2006年の文学

2006年の文学界：ベストセラーと話題作、そして文学賞の動向

2006年（平成18年）の日本文学界は、ベストセラー作品が次々と生まれ、大きな盛り上がりを見せた一年でした。特に、特定の作品が短期間で驚異的な売れ行きを記録したことが注目されます。

記録的なベストセラーと話題の書物

年明け早々、小川洋子の新潮文庫版『博士の愛した数式』が発売からわずか2ヶ月で100万部を突破するという、新潮文庫史上最速のペースで売上を伸ばしました。また、リリー・フランキーの自伝的小説『東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜』も100万部を突破し、これは扶桑社にとって2000年の『チーズはどこへ消えた?』以来の快挙となりました。この『東京タワー』は、その後の第3回本屋大賞にも選出され、幅広い読者層に支持されました。新書ジャンルでも目覚ましい動きがありました。藤原正彦著『国家の品格』（新潮新書）は発売から190日で200万部を突破し、同じく大ヒットとなった養老孟司著『バカの壁』を凌ぐ速さでベストセラーリストを駆け上がりました。さらに、坂東眞理子著『女性の品格』（PHP新書）も刊行され、翌2007年の年間ベストセラーで総合1位を獲得する大ヒットを記録するなど、「品格」を冠した新書が大きな話題となりました。

文学界の出来事と議論

作品の売れ行きだけでなく、文学界内部での出来事も注目されました。3月発売の『文藝春秋』には、村上春樹が『ある編集者の生と死――安原顯氏のこと』と題したエッセイを寄稿しました。この中で村上氏は、故人となった編集者・安原顯氏が生前に担当作家の直筆原稿を無断で売却していた事実や、それらの原稿が高額で取引されている状況を公にし、文学界に一石を投じました。また、作家の坂東眞砂子は「日本経済新聞」連載のエッセー「プロムナード」で、子猫を殺めた体験について綴り、「子猫殺し」と題されたこの文章は、読者やインターネット上で大きな反響と論争を巻き起こしました。

権威ある文学賞の発表

2006年には、国内の主要な文学賞も次々と発表されました。第134回芥川賞（2005年下半期）は絲山秋子『沖で待つ』に、直木賞は東野圭吾『容疑者Xの献身』に贈られました。第135回（2006年上半期）では、芥川賞に伊藤たかみ『八月の路上に捨てる』、直木賞には三浦しをん『まほろ駅前多田便利軒』と森絵都『風に舞いあがるビニールシート』の二作が選出されました。その他の国内賞では、日本推理作家協会賞に恩田陸『ユージニア』と平山夢明『独白するユニバーサル横メルカトル』、江戸川乱歩賞に鏑木蓮『東京ダモイ』と早瀬乱『三年坂 火の夢』が輝きました。野間文芸賞は黒井千次『一日 夢の柵』、谷崎潤一郎賞は小川洋子『ミーナの行進』、吉川英治文学新人賞は今野敏『隠蔽捜査』、三島由紀夫賞は古川日出男『LOVE』、山本周五郎賞は宇月原晴明『安徳天皇漂海記』、柴田錬三郎賞は小池真理子『虹の彼方』、伊藤整文学賞の小説部門は島田雅彦『退廃姉妹』がそれぞれ受賞しました。第3回本屋大賞は前述の通りリリー・フランキー『東京タワー』に決定しました。

海外に目を向けると、ノーベル文学賞にはトルコの作家オルハン・パムクが選ばれました。また、村上春樹がフランツ・カフカ賞や世界幻想文学大賞（『海辺のカフカ』）を受賞するなど、日本作家の国際的な活躍も報じられました。

注目された作品群と失われた才能

2006年には、浅田次郎『中原の虹』、奥田英朗『ガール』、東野圭吾『赤い指』、宮部みゆき『名もなき毒』、村上龍『盾』、森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』、渡辺淳一『愛の流刑地』など、著名作家による意欲的な新作が多数刊行されました。海外からはダン・ブラウン『ダ・ヴィンチ・コード』、J・K・ローリング『ハリー・ポッターと謎のプリンス』といったベストセラーの翻訳版が登場し、話題を呼びました。

一方で、文学界から惜しまれつつ多くの才能が失われた年でもありました。詩人の茨木のり子（享年79）、吉行理恵（享年66）、清岡卓行（享年83）、宗左近（享年87）、歌人の近藤芳美（享年93）、小説家の日下圭介（享年66）、久世光彦（享年70）、村上元三（享年96）、吉村昭（享年79）、小林久三（享年70）、小島信夫（享年91）、劇作家・作家の青島幸男（享年74）、児童文学作家の灰谷健次郎（享年72）といった日本の文学者が次々と世を去りました。海外でも、『ソラリスの陽のもとに』で知られるポーランドのスタニスワフ・レム（享年84）、『マイク・ハマー』シリーズのアメリカのミッキー・スピレイン（享年88）、ピューリッツァー賞作家のウィリアム・スタイロン（享年81）、ノーベル文学賞作家のエジプトのナギーブ・マフフーズ（享年94）などが生涯を終え、文学界は多くの巨星を失いました。

2006年は、ミリオンセラーの続出、新書ブーム、そして文学界を揺るがす出来事や論争など、活発な動きと同時に、多くの重要な文学者の逝去にも直面した、多様な側面を持つ一年として記憶されるでしょう。

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