21世紀のクラシック音楽

21世紀のクラシック音楽

21世紀の音楽史

21世紀のクラシック音楽は、20世紀の音楽と比較して、より多様性を増しました。20世紀末に登場した「新しい複雑性」、「新しい単純性」、「ポストミニマリズム」といった前衛的な音楽的潮流は、21世紀においても継続され、発展を遂げています。さらに、グローバル化やインターネットの普及に伴い、作曲家の出身地に関わらず、様々な地域の文化や宗教的な影響を受けやすくなりました。

作曲史

21世紀に入ると、「Neuen Konzeptualismus（新概念主義）」という潮流が生まれ、音楽の素材だけでなく、政治やジャンルまでも攻撃対象とする動きが見られるようになりました。この「総コンセプチャル化」を推し進める代表的な作曲家として、ヨハネス・クライドラーが挙げられます。また、シュテファン・プリンスやシモン・ステン=アナ―センもこの流れに参加し、2010年代の現代音楽界は新概念主義が席巻する結果となりました。

ステン=アナ―センは、高さ8mからピアノを破壊するという過激なパフォーマンスを要求し、ニナ・フクオカはコンピュータゲームを題材にした作品を制作するなど、その表現方法は多岐にわたります。また、レミー・シウは中国の文化統制を皮肉った作品を発表しています。インターネットの普及により、Neuen Konzeptualismusは世界各地に広まり、国籍や大陸を問わず、多くの作曲家がこの潮流に影響を受けています。

2020年代以降は、「エクリチュール（記譜）」への関心が薄れたという見方もありますが、パリ国立高等音楽・舞踊学校のステファーノ・ジェルヴァゾーニのように、依然として記譜の豊かさを教え続けている作曲家もいます。朱一清やMithatcan Öcalのように、記譜による作品制作を行っている作曲家がいる一方で、ベンヤミン・ショイエルやテッド・ハーンのように、記譜とパフォーマンスの両方を使い分ける作曲家もいます。

トルコ、インドネシア、モロッコ、マレーシア、中国、ウクライナ、イラン、ペルー、チリ、メキシコ、カザフスタンなど、後進諸国や周辺諸国の台頭も目覚ましいです。また、母国の文化統制を嫌いカナダに国籍を移した香港人のように、複雑な出自を持つ作曲家も増えています。特に中国とトルコの作曲家の進出は著しく、四川音楽学院黄河杯学生対象国際作曲コンクールと武満徹作曲賞の総投函数が逆転しました。

少子化の影響で、30歳以下の作曲賞やオーケストラを公募する作曲賞は資金難に陥りつつあります。ガウデアムス国際作曲賞は、30歳以下という年齢制限を廃止し、35歳以下に変更しました。21世紀に入ってから、ガウデアムス音楽賞のノミネートや大賞受賞者に、アメリカ人やアメリカ合衆国で学ぶ後進諸国の学生が増加しています。

オペラ

オペラ分野においては、前世紀からのあり方が急激に変わったわけではありません。アレッサンドロ・メルキオーレの「碁の達人」、シルヴァーノ・ブッソッティの「和泉式部」、サルヴァトーレ・シャリーノの「フランツ・カフカの掟の門」、ハンス・ヴェルナー・ヘンツェの「ジゼラ!」、イザベル・ムンドリーの「Ein Atemzug — Die Odyssee」、一柳慧の「光」など、前世紀の音楽言語を踏襲した作品が多く見られます。

カールハインツ・シュトックハウゼンは、前世紀から作曲を進めていた7作からなる連作オペラ「光」の第3部「光から水曜日」と第7部「光から日曜日」を完成させました。ジョン・アダムズは、2008年にロバート・オッペンハイマーを題材にしたミニマリズムによるオペラ「原爆博士」を発表しました。

日本では、細川俊夫が東日本大震災による原発事故を題材にした「海、静かな海」や、難民問題を題材にした「二人静」など、オペラと能をコラボレーションさせた作品を発表しています。

演奏史

後進諸国の学生でも、演奏や作曲ともに質の高い成果を出すことが珍しくなくなり、安易な「現代音楽の否定」は先進国では少なくなりました。インターネット回線の普及により、音楽家の受賞歴は20世紀とは異なる形になっています。かつて国際コンクールへの出場には国家の許可が必要でしたが、現在はEメール一本で応募できるようになりました。

前衛的な作曲家たちは、80歳を超えるマエストロに進化し、名古屋フィルハーモニー交響楽団ですら、ハインツ・ホリガーの作品を世界初演後4年遅れで演奏するなど、以前は敬遠されていた前衛的な作品をプログラムに組み込むオーケストラが増えています。

演奏家の手の障碍も広く議論されるようになり、2021年には「左手のためのピアニスト」のためのコンクールや左手のみの作品の公募が行われました。また、アマチュアのピアニストに対する視線も温かくなり、一般大学を卒業後に就職した人物でも演奏機会やアルバム制作の機会が与えられるようになりました。ヴァン・クライバーン財団は、アマチュアのピアニストのためのコンクールも設けています。一方で、演奏家のデビューが容易になったことで、弊害も目立つようになりました。

楽器史

21世紀は、楽器製造や楽器演奏も既存の美学を揺るがしました。東西冷戦の終結により、チェコの老舗メーカーであるペトロフが復活しました。クリス・マーネは、スタインウェイ社が交差弦を主張していたのに対し、並行弦に戻したグランドピアノのリニューアルを提唱し、ユトレヒト・リスト国際ピアノコンクールの公式ピアノにまで上り詰めました。ショパン国際ピアノコンクールでは、優勝者のブルース・シャオユー・リウがファツィオリを使用し、スタインウェイ一強の時代に終止符を打ちました。チャイコフスキー国際コンクールでは、「長江」を弾いたアン・チャンズーが第4位を受賞し、中国の楽器製造のイメージを刷新しました。

ピアノを9オクターブにまで拡張したStuart & Sonsや、チェロの5弦化など、より良い音を求めるための進化も続いています。ヘンデルのオルガン協奏曲をグランドピアノで新録音したり、セドリック・ペシャが非12平均律でバッハのフーガの技法を録音するなど、モダン楽器へのアプローチにも新たな展開が見られます。

ポスト・コロニアル

21世紀のクラシック音楽について、2009年のBBCミュージック・マガジンでは、ジョン・アダムズ、ジュリアン・アンダーソン、アンリ・デュティユーなど、著名な作曲家に最新動向について語るよう依頼しました。その結果、特定のスタイルは好まれず、個性を尊重すべきだという意見で一致しました。デュティユーは、「音楽には良いものと悪いものしかない」と主張しています。21世紀の音楽は、ポスト・モダニズムの影響を強く受け、様々なスタイルを取り入れています。

音楽学者の沼野雄司は、21世紀のクラシック音楽において、「ポップ化」が起こっていると指摘しています。ポピュラー音楽の引用は、ダルムシュタット講習会やガウデアムス音楽祭でも広く見られます。カールハインツ・シュトックハウゼンは、自宅近郊で講習会を開き、自宅には自分の音楽を練習できる練習室も開設するなど、「ニューエイジ化」も進んでいます。

タン・ドゥンやチェン・イのような中国出身の作曲家がアメリカ合衆国に脱出して勉強せざるを得なかった時代から、クラシック音楽のポスト・コロニアルは始まっていました。Rohan Chanderは作曲家であると同時にタブラ奏者であり、Matius Shan-Booneはガムランのためにも作曲し、それをオランダで発表しました。歴史的に収奪された自らの民族の過去に向かう作曲家も増加しています。Mithatcan Öcalは留学歴抜きで鮮烈なデビューを飾りましたが、多くの学生は先進国への留学を余儀なくされています。

作曲ソフト

インターネットやコンピュータの普及により、FinaleやSibeliusといった楽譜制作ソフトが広く使われるようになりました。また、MuseScoreやGNU LilyPondのような無償ソフトや、IMSLPの創設により、楽譜の発表や利用が容易になりました。

世界情勢の影響

2001年9月11日のアメリカ同時多発テロを題材にしたスティーブ・ライヒの「WTC9/11」や、ユーゴスラビア内戦を題材にしたヴィンコ・グロボカールの「歴史の天使」、東日本大震災を題材にした細川俊夫の「冥想」、新型コロナウイルスの流行を題材にした藤倉大の「Longing from afar」など、社会的な変化を題材にした作品が多数作曲されています。プッシー・ライオットを題材にしたIlya Demutskyのような作曲家もいます。ミャンマーの民主化運動を支援するコンクールも開催され、アウン・サン・スー・チーのテキストへの作曲を呼びかけたり、アウン・サン・スー・チーグランドメダルを授与するピアノコンクールを支援したりしています。

女性作曲家

女性作曲家に対する態度は、この数十年で大きく変化しました。ロクサーナ・パヌフニクは、「女性がキャリアを積むようになってからも、作曲家として仕事を見つけられるまでには時間がかかったが、ジェディス・ウィアー、ニコラ・レファヌ、テア・マスグレイブなどのロールモデルのおかげで、最終的にはたどり着くことができた」と語っています。21世紀に活躍する重要な女性作曲家として、ソフィア・グバイドゥーリナ、カイヤ・サーリアホ、ウンスク・チンなどが挙げられます。「女流作曲家」という表現も、「女性作曲家」と呼ばれるのが推奨されるようになりました。また、博士号を持つ女性作曲家も増え、ハヤ・チェルノヴィンとオルガ・ノイヴィルトのように、作曲の正教授に就任した作曲家もいます。

関連項目

20世紀のクラシック音楽
ポストモダン音楽

脚注

注釈

出典

参考文献

沼野雄司『現代音楽史 闘争し続ける芸術のゆくえ』中公新書、2021年。
BBC Music Magazine. Vol.18, 2009.

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