B級戦法

B級戦法：プロも驚く、異色の将棋戦術

将棋の世界には、プロ棋戦ではほとんど見られない、しかしアマチュアの大会などでは時折現れる独特の戦法が存在します。それが「B級戦法」です。この名称は、B級グルメのように、メインストリームではないが、独特の面白さや意外性を持つ戦法を指しています。順位戦のB級とは関係ありません。

プロ棋士から見ると、定跡から外れたり、やや無理のある展開になったりする戦法も多いですが、だからこそ魅力的であり、侮ってかかると痛い目に遭う可能性があります。現代将棋は多様化しており、「B級」の定義を明確に定めることは難しいと言えるでしょう。

瀬川晶司六段と今泉健司四段の対談によれば、二人はアマチュア時代、B級戦法を指す側というよりも、食らう側だったといいます。初見の相手、特にB級戦法を得意とする相手と対戦するのは、何を仕掛けられるかわからないため非常に嫌だったそうです。B級戦法を巧みに操るプレイヤーは、自分のペースで試合を進められるという強みも持っています。また、B級戦法の目的の一つとして、相手の精神を乱し、平常心を失わせるという側面もあると指摘されています。

多くのB級戦法はアマチュアの間で生まれ、プロ棋士が理論的に分析することで洗練されていく傾向があります。つまり、発案はアマチュア、理論化はプロという役割分担があると言えるでしょう。

B級戦法は必ずしも奇襲やハメ手に限られません。棋書『B級戦法の達人』に掲載されている戦法の中には、後にプロの棋戦でも採用され、大きな成功を収めたものもあります。「平美濃返し」は飯島流引き角として、「逆襲！変幻飛車」は角交換四間飛車として進化し、プロの戦術に昇華しました。「平美濃」は対振り飛車左美濃において、2010年代後半以降、特に後手番角道不開の△2二玉型として天守閣美濃に変わって多く指されるようになっています。

また、升田幸三賞特別賞を受賞した立石流四間飛車も、かつてはB級戦法に分類されていましたが、現在では広く認められた戦法となっています。立石流は四間飛車の変化の中でも常に含みとしてあるため優秀であり、▲7六歩△3四歩▲7五歩スタートでも、立石流のように進むこともあることから、もはやB級ではなく市民権を得た戦法とみている。

「B級戦法」と類似した言葉としては「斜陽戦法」「マイナー戦法」などがあります。これらの言葉は、かつてはよく指されていたが、現在はあまり指されなくなった戦法を指す場合と、常に指されているものの、使う棋士が限られている戦法を指す場合の両方を含みます。復活する戦法もあるという点も特徴です。また、「珍戦法」は、通常の将棋から見て非常に珍しい戦法を指す言葉として使われます。

主なB級戦法の例

NHK将棋講座「阿久津主税の楽しく勝とうB級グルメ戦法」や『B級戦法の達人』、『将棋・B級戦法の達人プラス』などでは、多数のB級戦法が紹介されています。それらには、鬼殺し、新鬼殺し、角頭歩戦法、パックマン戦法、原始棒銀、相掛かりノーガード戦法、筋違い角、筋違い角棒銀、早石田、升田式石田流、ヒラメ、阪田流向かい飛車、アヒル囲い、横歩取り二枚角、後手番横歩取り、右四間飛車、メリケン向かい飛車、引き角銀冠穴熊、平美濃返し、右四間端棒銀、鳥刺しモドキ、ポンポン桂、端美濃囲い、偽装宗歩四間、逆襲！変幻飛車、矢倉崩し左美濃中飛車、難攻不落銀立ち陣、最短！ノーガード戦法、対藤井システム猫ダマシ、横歩取り素抜きトリックなど、多種多様な戦法が含まれます。これらのうち、一部は江戸時代に発明された戦法を現代風にアレンジしたものも含まれています。

『痛快！　ワンダー戦法』にも多くのB級戦法が掲載されており、新鎖鎌銀、カニ囲い型右四間飛車、角交換型菊水矢倉、矢倉・左美濃、6筋不突居飛車穴熊、中飛車左穴熊、▲7七角省略中飛車、地下鉄中飛車、対升田式・地下鉄飛車、右四間6筋位取り、四間飛車の逆襲端攻め、筋違い角向かい飛車、阪田流筋違い角、升田式角交換型向かい飛車、陽動相振り飛車、時間差陽動振り飛車、新玉頭銀、陽動石田流、陽動中飛車、古典流四間飛車破り、7八金型9筋飛車、新アヒル戦法、7七銀型四間飛車、5七銀型四間飛車、2枚銀向かい飛車など、様々な戦法が紹介されています。

珍戦法

さらに、通常の将棋から見て非常に珍しい戦法を「珍戦法」と呼びます。雲隠れ玉や袖飛車といった珍玉が有名です。書籍『神戸発 珍戦法で行こう』では、きんとうん戦法、タランチュラ戦法、大かまきり戦法、幻想四間飛車戦法、ザリガニ銀戦法、ドラゴンスペシャル戦法、かえるがピョン戦法、待てば海路の日和あり、対三間飛車急戦、なんでもかんでも銀冠戦法、秘剣　流星剣、急戦石田返し、対美濃編、対穴熊編、二枚落ち編、飛車落ち編、金開き、対中飛車「山彦返し」、対四間飛車、対三間飛車、対向かい飛車、ひねり飛車・持久戦編、ひねり飛車・急戦編など、ユニークな戦法が多数紹介されています。

このように、B級戦法は、プロの定跡からは外れた、しかし魅力的な戦法の宝庫と言えるでしょう。アマチュア棋士にとって、B級戦法は、実力差を埋める、あるいは意外性で勝利を掴むための強力な武器となりえます。

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