HDBaseT

HDBaseTとは

HDBaseTは、HDBaseT Allianceによって策定された、家電製品や業務用の接続規格です。カテゴリ5e以上のLANケーブルを用いて、非圧縮の高品質な映像・音声、電源、100BASE-TXイーサネット、USB、各種制御信号をまとめて伝送・通信できます。

歴史

- 2010年6月14日：Valens社が開発したHDBaseT規格を推進するため、サムスン電子、ソニー・ピクチャーズエンタテインメント、LGエレクトロニクス、ValensによってHDBaseT Allianceが設立され、HDBaseT 1.0の仕様が策定されました。
- 2010年：HDBaseT機能を持たないドングルなどの外部アクセサリーが出荷開始。
- 2013年：Consumer Electronics ShowでHDBaseTの実製品がデモ展示されました。
- 2013年：HDBaseT Allianceは2.0の仕様を策定。業務用AV市場との連携を強化し、家庭用市場ではホームネットワークの多機能化を目指しました。2.0ではOSI参照モデルの全レイヤーで必要とされる機能を規定し、特に遅延の影響を受けやすい高解像度映像や音声の伝送に最適化されています。また、メッシュトポロジー、分散ルーティング、エンドツーエンドのエラー処理、ネットワーク機能、スイッチング機能、制御ポイント機能が追加され、複数の機器を接続してマルチストリーミングが可能になりました。さらに、USB 2.0の伝送機能も組み込まれ、タッチスクリーンやKVMを使用した高解像度オーディオ・ビデオの遅延のない送信が可能になりました。
- 2014年12月10日：IEEEはHDBaseTをIEEE 1911の標準規格として承認しました。
- 2017年：ISE 2017で、10Gbpsのスイッチングハブ経由でIP伝送するデモが実施されました。

特徴

HDBaseTは、最大4K解像度の非圧縮ビデオ、オーディオ、最大100Wの電源、イーサネット、USB、およびRS-232やIRなどの制御信号を、カテゴリ5e以上のツイストペアケーブル（8P8Cモジュラコネクタ）を使用して最大100メートルまで伝送できます。

HDBaseTは、HDMIなどの標準規格を補完する役割を果たし、従来の無線周波数、同軸ケーブル、コンポジット映像信号、S端子、SCART端子、コンポーネント映像信号、D端子、VGA端子といった伝送規格に代わるものとして位置づけられます。セットトップボックス、DVDプレーヤー、Blu-rayプレーヤー、PC、ゲーム機、ビデオスイッチチャーなどの映像ソース機器を、互換性のあるデジタルオーディオアンプ、PC用液晶モニター、デジタルテレビに接続可能です。

ビデオ

HDBaseTは、非圧縮の高品質映像（最大4K解像度）を、デバイスのネットワークまたはポイント・ツー・ポイント接続で伝送します。非圧縮コンテンツは、従来のビデオソースをすべてサポートし、ゲーム映像や配信映像を正確に伝送可能です。また、ビデオ品質の低下やレイテンシの増加を防ぐように設計されています。SD、HD、フルHD、4K解像度に加え、3Dビデオなど、幅広いテレビおよびPCのビデオフォーマットに対応しています。HDBaseT 2.0は、HDMI 2.0の仕様である18Gbit/sには満たない最大10.2 Gbit/sの帯域幅を持つため、YCbCr 4:4:4では30Hzまでの非圧縮4K、または4:2:0では60Hzの4Kをサポートしますが、4:4:4の60Hz表示はサポート対象外です。

オーディオ

オーディオはビデオと同様に、HDMIなどで採用されている標準形式にすべて対応し、パススルーで伝送されます。ただし、HDBaseTはHDMI 1.4のオプション規格であるオーディオリターンチャネル（ARC）機能はサポートしていません。

イーサネット

オプション機能として、100Mbpsのイーサネット伝送をサポートします。これにより、テレビ、ステレオ、コンピュータなどのCEデバイスが相互にTCPで通信したり、ネット配信などのマルチメディアコンテンツにアクセスできます。

電源

オプション機能として、ツイストペアケーブルを通じて接続先のデバイスに電源を供給できます。HDBaseTは、Power over Ethernet (PoE)規格のバリエーションである「Power over HDBaseT」として、Blu-rayプレーヤー、モニタ、テレビなどのHDBaseTデバイスに最大100Wの電力を供給できます。

制御信号

HDMI規格のCEC、RS-232、USB、赤外線（IR）信号の伝送に対応しています。

利点

- LANケーブルは同軸ケーブルに比べて加工や入手が容易で施工がしやすい
- 高解像度映像の非圧縮信号伝送による高品質な映像体験
- 既存のIPエンコーダーに比べてレイテンシーが非常に少ない
- 家電メーカーや映像機器メーカー製品で広く採用されている
- 認証規格化されており、認証製品であれば他社製品との組み合わせでも動作が保証される（独自機能は対象外）

欠点

- 規格内のすべての機能を網羅しているわけではなく、製品によっては映像のみの対応の場合もある
- メーカー独自の機能が搭載されている場合があり、必ずしも完全な互換性が保証されない
- 技術仕様では、パッチケーブルの使用は想定されていない。機器はケーブル直結での数値がスペックに記載されており、パッチパネル使用時の保証はされない。
- 信号は独自規格であるため、ネットワーク機器と組み合わせての敷設はできない
- 通信はイーサネットではなく非対称プロセスで行われるため、ネットワークケーブルテスターでは正確な診断ができず、専用の診断デバイスが必要になる
- 高解像度伝送はケーブル品質と敷設方法に依存し、ノイズ対策が必要
- 高信頼性を要求する環境では、HDBaseT認証ケーブルの使用が推奨される

応用分野

映像業界

5つの機能を1本のケーブルで伝送できる「5Play」というキーワードで、非圧縮映像、オーディオ、イーサネット、制御信号、USB 2.0、最大100Wの電力を伝送可能。

自動車業界

シールドされていないメタルケーブルで15m以上、フルHD解像度の映像を含むデータ伝送が可能であり、車内配線に採用。

コンシューマー市場

スマートホームやホテルなどの室内設備で、基幹映像配信サーバーから各部屋の端末への伝送手段として採用。

産業用途

USB延長機能を利用して、別の部屋からシステム画面の監視や表示操作（KVM）が可能。

脚注

外部リンク

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