JR九州811系電車

811系電車

811系電車は、九州旅客鉄道（JR九州）が製造した交流近郊形電車です。北九州・福岡都市圏における快速列車の増発と、老朽化した421系電車の置き換えを目的として開発され、1989年7月に開催されたアジア太平洋博覧会「よかトピア」に合わせて営業運転を開始しました。

1993年までに4両編成28本、合計112両が製造されました。

車両概要

ここでは、0番台落成時の仕様について解説します。

車体

軽量ステンレス構造で、両開き扉が片側3箇所に設置されています。全扉または中間扉のみの選択開閉（ドアカット）が可能です。扉間には、任意の位置で窓の開口が調整できるバランサ付きの一段下降窓が3枚配置されています。窓ガラスの寸法は415系1500番台と共通のため、座席と窓の配置は揃っていません。

車体は無塗装ですが、側面窓下部に青色と赤色の帯が互い違いに配されています。前頭部は白色塗装の普通鋼およびFRP製です。211系などの三面折れ形にカーブ面を取り付け、スピード感のあるデザインとなっています。運転台直下には「NEW RAPID TRAIN 811」の赤いロゴが配置されています。先頭車前面には貫通扉がありますが、非常用のため幌や幌枠は設置されていません。そのため、他編成や他形式（813系・817系・821系）との連結時に編成間の通り抜けはできません。

車両番号にはイタリック体フォントが使用されています。このフォントは登場当時の783系と同様でしたが、783系はリニューアルにより四角囲みとなったため、現在もイタリック体フォントで表記されているのは811系のみとなっています。（リニューアル車は四角囲み）車両番号の前にはJRロゴが描かれています。

内装

快速列車を中心に、臨時急行列車にも使用されることを想定して、座席は転換クロスシートが採用されました。モケットの色は青色（サニーブルー）と紫色（レイニーパープル）の2色で、各席とも左右で異なる色とされ、頭当ての部分は独立しています。その後、座席モケットは紫色と黒の市松模様に張り替えられました。優先席は頭当ての色がグレーとなっています。視認性を高めるため、2006年末より「優先席」表示の枕カバー（白色）が装着されています。

当初喫煙車であった門司港方先頭車のクモハ810形では、座席横の肘掛に灰皿が内蔵されていましたが、1995年にJR九州管内の普通列車が全面禁煙となったため、現在は塞がれています。各座席には指定席とするための席番号表示器があり、指定席として使用することも可能です。乗務員室にはオルゴールチャイム装置が備えられています。

運転台左側には簡易的なモニター装置があり、各車の故障の発見、ユニットカットやモーター開放などといった故障時の対応が運転台から行えるようになっています。運転台にはATS-DKの装置も搭載されています。

冷房装置は集中式のAU403K (42,000 kcal/h) が各車両の屋根上中央部に1基設置されています。ラインフローファンによる配風方式です。

トイレは下り方（荒尾・宇佐方）先頭車のクハ810形に設置されています。便器は和式です。従来の近郊形電車には設置されていなかった大型くずもの入れが車端部（先頭車1箇所、中間車2箇所）に設置されています。

運転台後ろには温度計が設置されています。

主要機器

主回路制御方式は、サイリスタ位相制御です。架線からの交流20000 Vを主変圧器で降圧した後、サイリスタで構成された複数のブリッジ回路により、整流制御された直流電源で直流電動機のMT61QAを駆動します。主幹制御器(マスコン）で力行の1-4ノッチ投入時は95 %弱め界磁を行い、5ノッチ投入時に70 %弱め界磁制御を行います。主回路接続は、4基の電動機をすべて直列に接続したものを1回路として、これを2回路並列させた（4S2P）。25 ‰上り勾配でMM'カットにより1Mでも勾配起動できる能力を持ちます。

MM'ユニットを採用し、M車（モハ811形）には主制御器と発電ブレーキ用の抵抗器が搭載されています。M'c車（クモハ810形）には主変圧器（TM401K）・サイリスタ・補助電源装置・集電装置が搭載されます。

デビュー当初はTAc車を開発し2両編成にする構想や閑散時にT車を抜き3両編成とする構想もありました。

電気ブレーキは発電ブレーキが採用されました。回生ブレーキを採用した783系の実運用時に、交流電化区間の閑散線区において回生ブレーキを使用した場合、沿線にある変電所の力率を落とす現象が発覚し、電力会社から受けるペナルティが回生ブレーキによる節電効果を上回ってしまったことが理由です。コストの兼ね合いから電気ブレーキ制御は783系のような無段階制御ではなく従来の415系などと同じカム軸制御となりました。120 km/h運転に対応するため、100 km/h以上からブレーキを掛けた際に制動力を増加させる増圧ブレーキを備えます。

サイリスタ（RS401KA）は主シリコン制御整流装置とも呼ばれます。1つのブリッジ回路に使用されているサイリスタ半導体素子 (2,500 V、4,000 A) は4つ使用しており、8基の主電動機が接続されます。冷却方式としてフロン沸騰冷却方式を採用していますが、今後はフッ化炭素冷却方式を採用予定です。

空気圧縮機（MH1084-C2000MQ）はレシプロ式です。補助電源は主変圧器の2次側にある3次巻線により冷房装置や制御関係機器に給電するほか、富士電機が開発した静止形インバータ（SC400K）により安定化交流電源と直流電源を供給します。装置は交流電車特有のセクション区間通過時には、蓄電池からの給電により停電の発生しない無停電電源装置となっており、単相交流400 Vを入力電圧とし、インバータにより単相交流100 Vを、コンバータにより直流100 Vを出力します。

集電装置は菱形パンタグラフ（PS101QB）を上り方（門司港方）先頭車のクモハ810形の連結面寄りに搭載します。

台車はヨーダンパが付いた、軸箱支持装置が円錐積層ゴム式の空気ばね式の軽量ボルスタレス台車 DT50QA（電動車）、TR235QA（制御車・付随車）が採用されています。

非常時の救援用として全段読替式のブレーキ読替装置およびジャンパ連結器を搭載し421系・423系・415系・783系などの車両と併結し相互に制動および力行が可能です。

1両あたりの消費電力は、415系を「100」とした場合、811系（登場時）は「約70 %」（理論値）です。

形式

クモハ810形 (Mc')：上り方先頭車。主制御整流装置・パンタグラフを設置。
モハ811形 (M)：中間電動車
クハ810形 (Tc')：下り方先頭車。トイレ・SIV・電動空気圧縮機を設置。
サハ811形 (T)：付随車。200番台のみトイレを設置。

編成は門司港方からクモハ810形 - モハ811形 - サハ811形 - クハ810形の4両固定編成です。サハ811形を抜いて3両編成を組むことも可能であるほか、機器類を若干変更してクモハ810形 - クハ810形の2両編成を組むことも可能な設計とされましたが、2両・3両編成を組成したことはありません。

車両番号は基本的に編成ごとに同じ番号で揃えられています。また編成自体にも「P xxx」の番号が与えられています。「P」は本系列を示し、「xxx」は車両番号に対応しています。車両に表示される編成番号は「P xxx」ですが、正式な編成番号は「PMxxx」です。「M」は南福岡車両区所属であることを表します。先頭車前面に編成番号が表示されますが、他系列と異なりアルファベットと数字の間にはスペースが挿入されます。

番台区分

0番台

1989年にPM1 - PM4編成、1990年にPM5 - PM15編成、1991年にPM16編成、1992年にPM17編成の4両編成×計17本が製造されましたが、PM2編成は2002年に発生した列車衝突事故により電動車2両（クモハ810-2・モハ811-2）が大破し、復旧されることなく制御車・付随車（サハ811-2・クハ810-2）も含めて全て廃車されました。その後、クハ810-2（大牟田側先頭車）は九州鉄道記念館にある本系列の運転シミュレーターに転用されました。

PM17編成の座席仕様は次節の100番台と同一です。

100番台

1992年7月15日のダイヤ改正を前に製造されたマイナーチェンジ車です。扉寄りにある座席を固定式に変更したことで扉周辺の空間が拡がり混雑時の乗客の流動が改善され、定員が増加しましたが、座席数は変更されていません。つり革も増設され、0番台より座席の厚みが薄くなりました。

同改正までにPM101 - PM109編成の4両編成×9本が製造され、1993年3月18日ダイヤ改正前にPM110・PM111編成の4両編成×2本が増備されました。

サハ811形200番台

サハ811形のみの番台区分で、201・202の2両が存在します。団体臨時列車や臨時急行列車などの長距離運用に使用することを考慮して車端部にトイレを設置しています。その関係で定員は140人に減り、座席定員は52名となっていますが、その他の構造は他車と同一です。201はPM105編成、202はPM106編成に組み込まれ、この2本はクハ810形と合わせて編成中に2箇所のトイレを有します。PM105編成はPM8105編成にリニューアルされた際、サハ811-201はサハ811-8201となり、トイレが撤去され、同時に検測機器室となりました。

サハ811-105・106は存在せず、PM107以降はサハ811-107のように編成番号と車両番号は一致しています。

改造

リニューアル車

新造から30年弱が経過したことを受け、車両の延命を目的に2016年7月に入場したPM4編成を皮切りにリニューアル工事が開始されました。改造は小倉総合車両センターにて実施されています。

機器類等はすべて刷新されており、制御方式はサイリスタ位相制御から、JR九州では初となる、日立製SiC素子とIGBT素子のハイブリッドモジュール適用のVVVFインバータ制御装置を内蔵した主変換装置に変更されました。それに伴い主電動機も直流電動機から誘導電動機に変更され、給電装置もシングルアーム式パンタグラフに変更されました。電気ブレーキは発電ブレーキから回生ブレーキに変更されています。車内照明もLED化され、徹底的な省電力化が行われました。結果、811系従来車に対し3割の消費電力削減、415系と比較して消費電力が49 %となり、省電力化に成功しました。

デザイン監修は水戸岡鋭治氏が行いました。「Old is New ～伝統と革新の電車～」のコンセプトのもと、従来のデザインを大きく変えたデザインとしており、最新機器を搭載した新しい車両であることを表現しています。車体は前面白色・側面ステンレス無塗装を維持しつつも、前面貫通扉および側面にはJR九州の近郊系・通勤形で定着したCTロゴを新規に配し、側面帯は青一色に白線および、白抜き文字で"Commuter Train 811"と表記され、811系では表記されていなかった英字社名も追加されています。排障器の色も濃いグレーに変更されたほか、行先表示器はフルカラーLEDを使用したものに交換されています。

車内は、座席が転換式クロスシートからロングシートへ変更されました。これは、ラッシュ時の混雑が激しくなってきたことに対応するためです。座席生地は「博多織や小倉織などのような九州の伝統的な織物」 をイメージしたデザインの青いモケットとなりました。優先席のみ赤いモケットとなっています。天井照明はLED照明に変更され、環境にやさしい設計となっています。窓ガラスはスモークガラスに変更され、カーテンは廃止されました。連結部の仕切り戸にはシリンダーが取り付けられ、 乗降扉にドアチャイムと鴨居下部に開閉ランプが設置されました。また、ガラスとボディーとの隙間を平らにする加工が施されています。LEDスクロール式案内表示器を設置、トイレは洋式化され、向かい側に介助者用のジャンプシート付の車椅子スペースが配置されました。吊革も増設され、車両連結面には、転落防止幌も設置されました。さらに、クハ810形を除いて車椅子スペース設置改造を行われた編成があり、クハ810形を除く車両の車番および編成番号が+500された「2000番台」となった編成も存在します。

リニューアル第1号はPM1504編成となり、2017年3月31日に本線試運転並びにデータ収集のため小倉工場を仮出場しました。南福岡駅 - 肥前浜駅間での本線試運転を繰り返した後再度入場し、4月15日に本出場しました。その後、4月27日より営業運転が開始されました。

2028年までに、現存する全27編成がリニューアルされる予定です。改造費用は27編成で81億円です。

検測装置搭載改造車（『RED EYE』）

2018年10月および2019年3月に、1500番台相当の改造内容に加え、営業列車検測装置を搭載した編成が2編成登場しています。該当編成は元PM105編成と元PM109編成で、「RED EYE」と名付けられ、車両先頭の811のロゴの横にRED EYEロゴが付加され、先頭のCTロゴが赤いものに変更されています。これらの編成は2020年4月1日から運用を開始しました。

両編成共通で、先頭車前方に鉄道総合技術研究所が開発した線路周辺画像解析エンジンを採用してNECグループが開発した、線路の状態を自動判定する「列車巡視支援システム」を搭載しています。

PM105編成には上記に加え、サハ811形200番台のトイレスペースを機器室として活用し、日立製作所と日立ハイテクファインシステムズが開発協力し、国内初となる車上4Kカメラを設置した「電車線路モニタリング装置」を設置しています。

なお、クハ810以外の3両に車椅子スペースが追加されています。

改造に伴い、営業列車検測装置を搭載した車両には+6000番の番号変更が行われ、リニューアル改造（+1500番）、車椅子スペース設置（+500番）と合わせて以下の車号変更が行われています。

PM109：クハ810-109 - サハ811-109 - モハ811-109 - クモハ810-109 → PM7609：クハ810-7609 - サハ811-1609 - モハ811-1609 - クモハ810-7609
PM105：クハ810-105 - サハ811-201 - モハ811-105 - クモハ810-105 → PM8105：クハ810-7605 - サハ811-8201 - モハ811-2105 - クモハ810-8105

その他

2008年現在では、全編成の排障器が813系と同様の乗務員室昇降ステップ組込み大型に交換されています。一部の編成では客室側窓の一部固定化改造も施工されています。
2005年春以降、車外スピーカーの設置が進められています。また、落成当初はドア周辺のみであったつり革がドア間の座席部分にも増設されています。

広告車両

スペースワールド号

PM11編成はスペースワールドのPR車両として落成され、ラッピングのまま甲種輸送で近畿車輛より出場しました。当初、車体には水色の帯が全体にわたって配され、側面中央には「スペースワールド」のロゴが描かれていました。

1996年秋にリニューアルされ、側面はロゴの代わりに「スペースワールド」のマスコットキャラクターなどのステッカーが貼付され、前頭部は白色から赤色に変更され、座席モケットも張り替えられました。

当初は快速「スペースワールド号」に優先的に使用されていましたが、当列車が消滅したことにより、ほかの編成と共通運用となりました。

2009年1月に標準色に戻され、スペースワールド色は消滅しました。2017年に内外装ともにPM4→PM1504編成と同様の仕様にリニューアルされてPM1511編成となりました。

三井グリーンランド号

1995年7月21日、三井グリーンランドのPRを目的に外装が変更されました。対象編成はPM8・PM9編成で、車体全体に緑色の帯が配され、「三井グリーンランド」のPRステッカーが貼付されました。内装は変更されていません。

当初は快速「三井グリーンランド号」に優先的に使用されていましたが、当列車が消滅したことにより、他の編成と共通運用となりました。2007年7月に「グリーンランド」に名称変更された際、2編成とも車体側面の緑色の帯を廃し従来のオリジナルの塗装に戻され、広告・イラストステッカーも撤去されました。

日本テレコム広告車両

2006年、PM101編成に日本テレコム（現：ソフトバンク）のラッピング広告を施したものでした。福岡ソフトバンクホークスの選手が描かれていました。運用は他編成と共通で2007年にラッピングが撤去され、元の塗装に戻っています。

門司港レトロ号

九州鉄道記念館の開館5周年を記念し、PM8編成にラッピングを施したもので、2008年3月29日から運行されていました。主に九州鉄道記念館をはじめとする門司港レトロ地区の建物のイラストが描かれています。2015年12月の全般検査出場時に標準色に戻されています。

わたせせいぞうラッピングトレイン

2019年3月10日、門司港駅グランドオープンに合わせて運行を開始しました。北九州市にゆかりのある漫画家・イラストレーターのわたせせいぞうが描き下ろしたイラストをPM110編成の車体にラッピングしました。

日立物流ラッピングトレイン

2022年11月より運行を開始したラッピングトレイン。PM106編成に施行され上からピンク・白・水色の順でドアを除く側面の窓下に貼られました。車内も広告が全て日立物流のものとなりました。2023年3月に解除されました。

上記の他にも、「どーもくん」『CATS』『ドラえもん のび太の恐竜2006』『ポケモン』シリーズなど期間限定でラッピングが行われた事例があります。

運用

2024年10月1日現在、全車南福岡車両区に配属されています。2022年9月現在、以下の路線で運用されています。

鹿児島本線（門司港駅 - 荒尾駅）
日豊本線（小倉駅 - 中津駅）
長崎本線（鳥栖駅 - 肥前浜駅）
佐世保線（全線）

基本的に、鹿児島本線門司港駅 - 荒尾駅間の快速列車・普通列車としての運用が大半を占めています。朝夕のみ日豊本線や長崎本線での運用も存在します。過去には臨時急行「ひのくに」の運用末期に、小倉駅・博多駅 - 熊本駅・八代駅間での急行列車としての運用に充当されていた事もあります。

2022年9月のダイヤ改正以降、日豊本線での運用の南限は中津駅までとなっています。以前は佐伯駅までの運用も存在していましたが、運用区間は次第に縮小され、同改正までのしばらくの間、宇佐駅が南限となっていました。2016年には大分地区でも代走運転した実績があります。

2022年9月23日以降より、佐世保線（江北駅 - 佐世保駅）での定期運用が開始され、長崎県内にも定期運用で乗り入れるようになりました。

編成表

2024年10月1日現在

凡例

近車：近畿車両
日立：日立製作所
小倉：九州旅客鉄道小倉工場（現：小倉総合車両センター）

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