アルゼンチンの歴史

アルゼンチンの歴史

アルゼンチンの歴史は、先コロンブス期から現代まで、複雑で多岐にわたる出来事が織りなす壮大な物語です。ここでは、その主要な出来事を時代ごとに整理し、詳細に解説します。

先コロンブス期（先史時代 - 1516年）

先インカ期（先史時代 - 15世紀）

アルゼンチンの最初の住民は、紀元前11000年頃にアジアからベーリング海峡を渡ってやってきた人々でした。彼らはパタゴニアに「手の洞窟」として知られる遺跡を残しています。15世紀以前には、アンデス山脈地域にはケチュアやアイマラ系の先住民が、パンパやチャコといった草原地帯には狩猟や原始的な農耕を行う部族が居住していました。

インカ帝国による征服（15世紀 - 16世紀）

15世紀から16世紀にかけて、インカ帝国は現在のアルゼンチン北西部に進出し、その一部をコジャスーユという州に組み込みました。しかし、インカ帝国の影響は限定的で、アルゼンチンは帝国の辺境地でした。16世紀のスペイン人到来直前には、草原地帯と山岳地帯合わせて約34万人の先住民が暮らしていたと推測されています。特に北西部のアンデス地域が最も発展していました。

スペイン植民地時代（1516年 - 1810年）

1492年のクリストーバル・コロンによるアメリカ大陸「発見」後、南北アメリカはヨーロッパ列強による植民地化の対象となりました。現在のアルゼンチンにあたる地域は、トルデシリャス条約に基づきスペインの優先権が認められ、1516年にフアン・ディアス・デ・ソリスによって「発見」されました。1536年にはペドロ・デ・メンドーサによってブエノスアイレスが建設されましたが、先住民の抵抗と食料不足のために一時放棄されました。その後、1553年にサンティアゴ・デル・エステロが、1580年にブエノスアイレスが再建され、スペインによる定住植民地が確立しました。

この地域には、ポトシのような鉱物資源や熱帯のプランテーション作物に適した気候がなく、開発は遅れました。しかし、16世紀中に放牧された牛馬が自然繁殖し、その皮革や肉が重要な商品となり、ブエノスアイレスを支えました。1680年にはポルトガルがコロニア・ド・サクラメントを建設し、現在のウルグアイにあたる地域は、スペインとポルトガルの勢力衝突の最前線となりました。

1759年、カルロス3世によるボルボン改革によってイエズス会が追放され、先住民に対する布教村落は解体されました。1776年には、ペルー副王領から切り離され、リオ・デ・ラ・プラタ副王領が成立。ブエノスアイレスは副王領の首都となり、ヨーロッパとの直接貿易によって急速に発展しました。啓蒙思想やアメリカ独立革命、フランス革命の影響は、クリオーリョ（植民地生まれのスペイン系住民）にも広がり、自治意識を高めました。

1806年にはイギリスがブエノスアイレスに侵攻しましたが、クリオーリョ民兵隊がこれを撃退。これにより、クリオーリョの自治拡大への意識がさらに高まりました。

解放戦争と内戦（1810年 - 1829年）

1810年、ナポレオン戦争によってスペイン本国が混乱すると、クリオーリョたちは五月革命を起こし、自治委員会を設立。しかし、都市と地方の対立は激化し、新たな国家のあり方を巡って混乱が続きました。独立派の間でも、君主制か共和制か、中央集権か連邦制かなど、様々な意見が対立しました。

1816年7月9日には、トゥクマン議会でリオ・デ・ラ・プラタ連合州の独立が宣言されました。この宣言はスペイン語とケチュア語で発表され、インカ皇帝の復活が決定されました。しかし、ブエノスアイレス主導の中央集権主義は地方諸州の困窮を招き、1814年にはホセ・ヘルバシオ・アルティーガス率いる連邦同盟が成立。ブエノスアイレスと連邦同盟の内戦は激化しました。

1820年、中央政府が崩壊し、アルゼンチンは無政府状態に陥りましたが、ポルトガルによるシスプラチナ州（現在のウルグアイ）への侵攻が契機となり、再統一の動きが生まれました。1825年、アルゼンチンは国名をアルヘンティーナと改め、ブラジル戦争を経て1828年にはウルグアイが独立しました。

ロサス時代（1829年 - 1852年）

ブラジル戦争後、連邦派のフアン・マヌエル・デ・ロサスが権力を握り、1832年には全アルゼンチンを事実上統一しました。ロサスは、大土地所有制を拡大し、自身の牧場主としての立場を強めました。1833年には、南部の先住民討伐作戦を行い、多くの先住民が犠牲となりました。1835年からは独裁権を握り、保護関税政策を導入しましたが、1845年の英仏連合艦隊の攻撃により、保護貿易政策を放棄せざるを得なくなりました。1851年には、ウルキーサ率いる反ロサス勢力によって、ロサス政権は終焉を迎えました。

土着主義の敗北と国家統一（1853年 - 1880年）

ロサス失脚後、アルゼンチンは近代化と西欧化の道を歩み始めました。1853年には、フアン・バウティスタ・アルベルディが起草した憲法が制定され、ヨーロッパからの移民の受け入れが奨励されました。しかし、1857年の法律でロサスが「傷ついた祖国の罪人」と規定されたことは、この時期の国粋主義からの転換を象徴しています。

1862年には、ブエノスアイレスが指導権を確立し、アルゼンチン共和国が成立しました。バルトロメ・ミトレが大統領に就任し、先進国との協調政策が推進されました。一方、内陸部の国内産業は衰退し、アルゼンチンは世界市場に組み込まれていきました。

1870年には、三国同盟戦争が終結し、パラグアイが滅亡しました。1877年には、フリオ・アルヘンティーノ・ロカ将軍による「砂漠の征服作戦」が開始され、多くの先住民が虐殺されました。1880年、首都が正式にブエノスアイレスに定められ、この対立は終結しました。

急速な近代化と「移民の洪水」（1880年 - 1916年）

1880年以降、アルゼンチンは急速な近代化を遂げました。ヨーロッパからの移民が急増し、経済は大きく成長しました。鉄道が建設され、畜産物の貿易が活発化しました。しかし、この発展は、外国資本への依存と、大地主による寡頭支配を招きました。1914年には外国人比率が29.9％に達し、人種構成までもが変わりました。

急進党の時代（1916年 - 1930年）

1916年、イポリト・イリゴージェンが大統領に就任し、急進党による民主化政策が始まりました。しかし、イリゴージェン政権には具体的な経済政策が欠如しており、1928年に再び大統領に就任しますが、世界恐慌により政権は混乱し、1930年のクーデターで失脚しました。

「忌まわしき十年間」（1930年 - 1943年）

1930年のクーデター後、アルゼンチンは保守派による支配下に入りました。1933年のロカ＝ランシマン協定によってイギリスへの従属が強まり、選挙不正が横行しました。この時代は「忌まわしき十年間」と呼ばれ、民族主義的な思想が台頭しました。

ペロニスモの時代（1943年 - 1955年）

1943年のクーデターで、フアン・ドミンゴ・ペロンが台頭。ペロンは労働者保護政策を打ち出し、国民の支持を集めました。1946年には大統領に就任し、「社会正義、経済的自由、政治的主権」を掲げました。しかし、ペロン政権は外貨を使い果たし、1955年のクーデターで追放されました。

暴力と衝突の時代（1955年 - 1982年）

ペロン追放後、アルゼンチンは混乱と暴力の時代に入りました。軍部とペロニスタの対立が激化し、テロが頻発しました。1976年には軍事政権が成立し、「汚い戦争」と呼ばれる弾圧が行われました。経済も低迷が続きました。1982年のマルビナス戦争は、軍事政権の終焉を早めました。

敗戦と民政移管から経済崩壊まで（1982年 - 2003年）

マルビナス戦争敗北後、1983年に民主化が実現し、ラウル・アルフォンシンが大統領に就任しました。しかし、アルフォンシン政権は経済問題を解決できず、カルロス・メネム政権は新自由主義政策を導入しましたが、格差を拡大させ、債務を増大させました。2001年の経済危機で、デ・ラ・ルア大統領が失脚し、2003年にネストル・キルチネルが大統領に就任するまで、混乱が続きました。

現在のアルゼンチン（2003年 - ）

キルチネル政権下で、アルゼンチンの経済は安定を取り戻し、南米諸国との連携を強化しました。2007年には、クリスティーナ・フェルナンデス・デ・キルチネルが女性大統領に就任しましたが、現在も債務問題や貧困問題など多くの課題を抱えています。

日本との関係

1886年に初の日本人移民がアルゼンチンに定住し、1898年に外交関係を樹立。1952年に国交を回復し、経済、文化、技術など、幅広い分野で協力関係を築いています。

この歴史概要は、アルゼンチンの複雑でダイナミックな歴史を理解する上で不可欠な要素を提供します。

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