エクアドルの歴史

エクアドルの歴史は、先コロンブス期からスペイン植民地時代、独立、そして現代に至るまで、複雑で多様な変遷を遂げてきました。この地は、古代文明の興亡、インカ帝国の支配、スペインによる植民地化、そして独立戦争を経て、現在の国家へと形成されてきました。

先コロンブス期

エクアドルにおける人類の活動は、約1万年前から始まったとされています。紀元前6000年頃にはトウモロコシやヒョウタンの栽培が始まり、紀元前4000年頃には土器の製作が開始されました。この時期は、紀元前4000年から紀元前300年頃までを形成期、紀元前300年から紀元700年頃までを地方発展期、紀元700年頃からスペインによる征服が始まる16世紀前半までを統合期と区分されます。

形成期（紀元前4000年頃 - 紀元前300年頃）

この時期には、バルディヴィア文化がエクアドルの南海岸グァヤス地方で栄えました。バルディヴィア文化の特徴は、平たくのっぺりとした女性の土偶や、幾何学的な文様が刻まれた土器です。特に、土器の文様の一部が日本の縄文土器と類似していることから、「太平洋横断伝播接触説」が提唱されました。この説には賛否両論がありますが、土器の類似性が日本の研究者をエクアドルの歴史研究に引き込むきっかけの一つとなりました。また、この時期には茅葺の住居跡や祭祀用の建造物も確認されています。

バルディヴィア文化の後には、マチャリーリャ文化が興り、鐙型注口土器や大型の中空土偶が登場しました。さらに、チョレーラ文化がマチャリーリャ文化の伝統を受け継ぎ、大型の中空土偶を発達させました。高地では、ナリーオ文化やコトコリャオ文化が栄え、方形の住居跡や土器、石製の道具などが確認されています。

地方発展期（紀元前300年頃 - 紀元700年頃）

この時期には、階層社会や祭祀センターが成立しました。中部海岸では、ネガティブ技法の土器や、頭部に装飾を施した土偶が特徴的なバイーア文化、写実的な土偶が特徴のハマ・コアケ文化が栄えました。ハマ・コアケの土偶は、鮮やかな彩色が施され、着せ替え人形のように装飾を取り外せるものもありました。北端部の海岸では、ラ・トリータ文化が興り、人物や超自然的な存在を表現した土偶や、金、トゥンバガ、プラチナを用いた金属加工技術が発達しました。高地では、トゥンカワン文化が栄え、幾何学文を施した土器が作られました。

統合期（紀元700年頃 - 16世紀半ば）

この時期には、シエラ（高地）でパンサレオ文化、海岸地帯でマンテーニョ文化が栄えました。マンテーニョ文化は、「石の座席」と呼ばれる独特な石彫で知られています。また、この時期には、サランゴと呼ばれる強力な首長を戴いた首長制社会が成立していました。

タワンティンスーユ（インカ帝国）の支配

15世紀後半には、インカ帝国の皇帝トゥパク・インカ・ユパンキによって、現在のエクアドルに成立していた文化は征服されました。インカ帝国は、南北4000kmに及ぶ大帝国を築き上げましたが、ワイナ・カパックの死後、後継者争いにより内乱が起こりました。この内乱は、後にスペインによる征服を容易にする要因の一つとなりました。

スペイン植民地時代

1526年、フランシスコ・ピサロ率いるスペイン人がエクアドル海岸部に上陸し、インカ帝国を征服しました。1534年にはサン・フランシスコ・デ・キートが建設され、現在のエクアドルに相当する地域はペルー副王領の一部に編入されました。植民地時代には、先住民がレドゥクシオンに強制的に集められ、ミタ制による強制労働が強いられました。また、メスティーソが増加し、アフリカから黒人奴隷も連れてこられ、人種主義的な社会構造が形成されました。1717年にはヌエバ・グラナダ副王領が成立し、キトのアウディエンシアは一時廃止されましたが、後に復活し、ペルー副王領に再び組み入れられました。18世紀後半には、クリオーリョ（土着のスペイン人）とペニンスラール（本国から派遣されたスペイン人）の対立が深まりましたが、エクアドルでは自治運動は大きく発展しませんでした。

独立戦争

1808年、ナポレオン戦争の影響でスペイン本国が混乱すると、各地でクリオーリョによる自治運動が起こりました。1809年8月10日には、キトでイスパノアメリカ初の独立宣言がなされました。しかし、この運動は鎮圧されました。1820年、ホセ・デ・サン＝マルティン率いる解放軍がペルーに上陸すると、エクアドル各地で独立運動が再燃し、1822年5月24日のピチンチャの戦いで、アントニオ・ホセ・デ・スクレ将軍が副王軍に勝利し、エクアドルは解放されました。

エクアドルは、グラン・コロンビアの一部として統合されましたが、1830年に独立を宣言し、フアン・ホセ・フローレス大統領の下でエクアドル共和国として誕生しました。

保守主義の時代

独立後、フローレス政権は専制政治を行いましたが、ペルーやヌエバ・グラナダとの紛争、国内での内戦が相次ぎました。1845年には、三月革命が勃発し、ビセンテ・ラモン・ロカが政権を握りました。その後も、フローレス派と反フローレス派の抗争が続きました。1859年にはペルーとの戦争が勃発し、エクアドルはアマゾン地域を割譲しました。1860年には、ガブリエル・ガルシア・モレノがカトリック教会の支援の下、政権を握り、保守的な政治を行いました。モレノは、カトリックを国教に定め、公共教育に対する教会の特権を認めましたが、一方で軍隊、鉄道、大学などの整備も行いました。また、インディオの土地を私有地化することを拒否し、土地を奪われることを防ぎました。1875年にモレノは暗殺されました。

自由主義革命の時代

19世紀後半には、カカオの需要が高まり、エクアドルはモノカルチャー国家として世界経済に組み込まれていきました。モレノの暗殺後、地方間の対立が深まり、自由党派のイグナシオ・デ・ベインテミージャ将軍が政権を握りました。しかし、1895年に「国旗売却事件」をきっかけに、民衆の不満が爆発し、ベインテミージャ政権は崩壊しました。その後、エロイ・アルファロ将軍が政権を握り、自由主義革命が始まりました。アルファロは、公教育の世俗化や教会財産の没収などの改革を行いました。1908年にはキトとグアヤキルを結ぶ鉄道が建設されました。1912年にアルファロは暗殺されましたが、1925年までグアヤキルの自由主義者＝金融業者による政治が続きました。

政治的不安定とアマゾン国家の悲劇

1925年、軍の青年将校がクーデターを起こし、グアヤキルの自由主義者を政権から排除しました。その後、エクアドルは世界恐慌の影響を受けて混乱し、1933年にはホセ・マリア・ベラスコ・イバラが大統領に就任しました。ベラスコ・イバラはポプリスモ政治家として民衆から支持を集めましたが、独裁的な政治を行い、何度も失脚しました。1941年には、ペルーとの間でアマゾン地域の領土問題を巡りエクアドル・ペルー戦争が勃発しました。エクアドルは敗北し、アマゾン地域をペルーに割譲することになりました。この敗北は、エクアドルの民族主義を刺激し、エクアドルは「アマゾン国家」であることを標榜するようになりました。

軍政とポプリスモ

1944年、民衆蜂起によりベラスコ・イバラが再び大統領に就任しましたが、腐敗政治とインフレが深刻化し、1947年に失脚しました。その後、自由党系のガーロ・プラサが大統領に就任しましたが、地震や軍の反乱に見舞われました。1952年にベラスコ・イバラが再び大統領に就任し、バナナが最大の輸出品目となりました。バナナブームにより、コスタに新たな富裕層が生まれ、農村部では階層分化が進みました。1960年にベラスコ・イバラは再び大統領に就任しましたが、経済の衰退に対処できず、1961年に失脚しました。1963年には軍部がクーデターを起こし、ラモン・カストロ・ヒホン提督が政権を握りましたが、国内の混乱は収まらず、1966年に政権は崩壊しました。1968年には、再びベラスコ・イバラが大統領に就任しましたが、インフレと対外債務が増大し、1972年に軍事クーデターにより失脚しました。

革新的軍事政権

1972年、軍部のギジェルモ・ロドリゲス・ララ将軍が大統領に就任し、民族主義的な政策を進めました。エクアドルのアマゾン地域で石油開発が進み、石油輸出国機構（OPEC）に加盟しました。また、農地改革や税制改革も行われましたが、軍内部の保守派と革新派の対立が深まり、1976年にロドリゲス将軍は失脚しました。その後、アルフレド・ポベダ・ブルバーノ海軍中将が政権を握り、再び外資導入が進められました。

民政移管以降

1979年に民政移管が行われ、ハイメ・ロルドス・アギレーラが大統領に就任しましたが、1981年に飛行機事故で急死しました。その後、オスバルド・ウルタードが後を継ぎましたが、ハイパーインフレなどの経済危機に直面しました。1984年にはレオン・フェブレス・コルデーロが大統領に就任しましたが、1987年に大地震が発生し、経済が混乱しました。1988年にはロドリゴ・ボルハが大統領に就任し、財政赤字の削減に取り組みましたが、国民の不満が高まりました。1992年にはシスト・ドゥラン・バジェンが大統領に就任し、新自由主義政策を進めましたが、ペルーとの紛争で敗北しました。1996年にはアブダラ・ブカラムが大統領に就任しましたが、腐敗政治により1997年に失脚しました。1998年にはハミル・マワが大統領に就任し、ブラジリア議定書によりアマゾン地域の放棄を正式に認めました。2000年にはエクアドルは通貨として米ドルを採用しました。

2003年にはルシオ・グティエレスが大統領に就任しましたが、情勢不安と経済不況が続き、2005年に罷免されました。2006年にはラファエル・コレアが大統領に就任し、反米左派政権との関係を深めました。コレアは新憲法を制定し、大統領再選を果たしましたが、より強権的な政治運営を進めました。2017年にはモレノが大統領に就任し、経済の立て直しを図りました。2021年にはギジェルモ・ラッソが大統領に就任し、国際協調を重視する姿勢を示しています。

エクアドルの歴史は、多様な文化が交錯し、政治的な変動を繰り返しながら形成されてきました。この歴史を理解することは、現代エクアドルを理解する上で不可欠です。

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