エチオピア正教会

エチオピア正教会

エチオピア正教会は、エチオピアで独自に発展したキリスト教の教会です。その歴史は古く、4世紀にアクスム王国でキリスト教が公認されたことに始まります。エチオピアでは、イシス信仰、ユダヤ教、キリスト教が融合し、独自の信仰体系が形成されました。この教会は東方諸教会の中でも非カルケドン派に分類され、特にサハラ以南では植民地時代以前から存在する唯一の教会として知られています。世界中に約3600万人の信徒を擁し、東方諸教会の中で最大の規模を誇ります。

沿革と特徴

キリスト教の受容と独自の発展

4世紀、フルメンティウスによってアクスム王国にキリスト教が伝えられ、333年頃に公認されました。この地では、イシス信仰やユダヤ教の要素がキリスト教と融合し、エチオピア独自のキリスト教が発展しました。451年のカルケドン公会議で単性論が排斥された際、エチオピア教会は会議の決定を承認せず、主流のキリスト教から分裂しました。ただし、エチオピアからの参加者はなく、決定が直接伝えられたわけではありません。

カトリックとの接触と独立

16世紀には、エチオピア帝国がポルトガルの支援を受けてムスリム勢力と戦い、イエズス会の宣教師がエチオピアに訪れました。一時、皇帝の中にはカトリックに改宗する者も現れましたが、1632年に皇帝スセニョスが退位し、後を継いだファシラダスがエチオピア正教会を復興させました。1959年には、長らく関係のあったコプト正教会から独立し、独立教会となりました。エチオピア帝国時代には国教として扱われました。1993年のエリトリア独立後、一部がエリトリア正教会として分離しました。

独自の聖典と教義

エチオピア正教会の聖書は81巻で構成され、旧約聖書と新約聖書の他に、第4バルク書、エノク書、ヨベル書、第1-3メカビアン書など、エチオピア独自の聖書のみに含まれる外典が含まれています。旧約聖書は46巻、新約聖書は35巻であると主張しています。教義においては、原罪や煉獄の概念がなく、聖体の儀式はドラム、スズ、ダンスなどを用いて念入りに行われます。

非カルケドン派としての立場

エチオピア正教会は、しばしば単性論を採る教会とされますが、自身は単性論とみなされることを拒否しています。カルケドン公会議の決定を承認しないことで分離した教会であるため、「非カルケドン派」として分類されることが適切です。非カルケドン派に属するアルメニア使徒教会、シリア正教会、コプト正教会とは完全な相互聖餐関係にあります。ギリシャ正教系の正教会との関係も改善が進んでいます。

教会内の階級と聖遺物

教会内には、アブナ（大司教）、アッバ（聖職者）、リャコヌ（聖職者予備軍）、ヤコブ・タマリ（学生）といった階級があります。各教会には、「タッボット」と呼ばれる契約の箱のレプリカが聖遺物として安置されており、教会内で最も神聖な物とされています。

特徴的な習慣

聖堂内では靴を脱ぎ裸足になる習慣があります。これは、旧約聖書の出エジプト記にあるモーセが神から命じられた場面に由来し、神への畏怖を表しています。

聖墳墓教会を巡る問題

オスマン帝国などイスラム教勢力が強かった時代、エチオピア正教会は聖墳墓教会を守護しました。しかし、カトリック教会や東方正教会の勢力が回復すると、教会の管理をめぐって対立が生じ、現在も問題は解決していません。

建国伝承

エチオピア正教では、エチオピア帝国の建国者は古代イスラエル王ソロモンとエチオピア女王の間に生まれたメネリク1世であるとされています。

脚注

[参考文献]

川又一英『エチオピアのキリスト教―思索の旅』山川出版社、2005年。ISBN 9784634640184
島崎晋『名言でたどる世界の歴史』PHP研究所、2010年。ISBN 978-4-569-77939-3

[関連項目]

ラリベラの岩窟教会群
エチオピア十字 - エチオピア正教会で用いられる、意匠が凝らされ独特の形状をした十字架。
エチオピア暦 - エチオピア正教会で用いられている教会暦。
エノク書
ゲエズ語

[外部リンク]

Ethiopian Orthodox Tewahedo Church Directory - アメリカにあるエチオピア正教会の一覧とリンク集
* エチオピア正教会 - コトバンク

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