オイラト語

オイラト語とは

オイラト語（Өөрд келн）は、アルタイ諸語のモンゴル語族に分類される言語であり、オイラト系諸部族によって話されています。話者は主に、ロシア連邦のカルムイク共和国、モンゴル国西部、中国の新疆ウイグル自治区、青海省、甘粛省に分布しています。書き言葉としては、カルムイク共和国で使用されるカルムイク語と、中国新疆ウイグル自治区で使用されるオイラト文語があります。Redbookに記載されている危機に瀕した言語の一つです。

名称について

オイラト語は、「オイラット語」とも表記されます。特に、カルムイク共和国で使用されているオイラト語を指して「カルムイク語」と呼ぶことがあります。中国語では「衛拉特語（Wèilātèyŭ）」と表記されます。

話者の分布

オイラト語の話者は、主にロシア連邦カルムイク共和国、モンゴル国西部（ホブド・アイマクおよびオブス・アイマク）、中国新疆ウイグル自治区、青海省、甘粛省に居住するオイラト族です。

カルムイク共和国では、人口の半数をカルムイク人が占めています。彼らは17世紀に内戦を避けてボルガ川流域に移住したオイラト族トルグート部の末裔です。ロシア連邦では、オイラト族とオイラト語は、それぞれ単一の民族と言語として認識され、カルムイク人、カルムイク語と呼ばれています。カルムイク共和国では、オイラト語はロシア語と並んで公用語であり、キリル文字による書き言葉を持っています。

モンゴル国と中国では、オイラト族はモンゴル民族の一部として扱われ、独立した民族とは見なされていません。しかし、オイラト族の文化や習慣は、本来モンゴル民族とは異なる点が多く存在します。オイラト語も、それぞれの国の標準語（モンゴル国ではモンゴル語のハルハ方言、中国ではモンゴル語のチャハル方言）の方言として扱われており、実際にはそれぞれの標準語の影響を受けた中間的な言語に変質しています。モンゴル国と中国のオイラト語話者は、書き言葉としてはそれぞれの国の標準語を使用しますが、新疆ウイグル自治区のオイラト族のみが、17世紀にモンゴル文字を基に作成されたトド文字を用いたオイラト語の書き言葉、すなわちオイラト文語を使用しています。現在、学校教育ではオイラト文語の教育は行われなくなり、モンゴル文字によるモンゴル語の文語が教えられていますが、新聞、雑誌、書籍などでは現在もオイラト文語が使用されています。

言語の現状

オイラト語派はRedbookに記載されている危機に瀕した言語であり、日常会話で耳にする機会は稀です。ロシアの構成共和国であるカルムイク共和国の首都にあるカルムイク大学には、カルムイク語・文化学科があり、オイラト語を学ぶ学生を育成していますが、彼らの日常会話でもオイラト語を聞くことは少ないのが現状です。

カルムイク共和国、モンゴル国、中国におけるオイラト語は、文化的に統一された言語圏を形成しているとは言えず、発音、文法、語彙の面で差異が見られます。

標準語と方言

オイラト語の標準語を定めているのはカルムイク共和国のみであり、モンゴル国および中国（内モンゴル）では、オイラト語はモンゴル語の方言とみなされているため、標準化されていません。カルムイク共和国のオイラト語標準語は、基本的にトルグート方言に基づいていますが、ドルベト方言の要素も含まれています。

カルムイク共和国の主要な方言は、トルグート方言とドルベト方言です。これらの方言間では、音声と語彙にわずかな差が見られます。

その他の方言については、調査が不十分であり、詳しい分類は行われていません。

ブザワ方言 (Buzawa)
ドルベト方言 (Dörböt)
オイラト方言 (Oirat)
サルト・カルマク方言 (Sart Qalmaq)
* トルグート方言 (Torgut)

音韻

ここでは、カルムイク共和国におけるオイラト語、すなわちカルムイク語の音韻について解説します。

母音

カルムイク語の短母音には、/a, o, u, æ, ø, e, y, i/ の8つがあります。

短母音は、第一音節においては8つが音素として区別されますが、第二音節以降では単一の音素/ə/に中和されます。長母音は、それぞれの短母音に対応する形で、/aː, oː, uː, æː, øː, eː, yː, iː/ の8つが音素として存在します。二重母音は存在せず、モンゴル文語のayi, uyi, oyi には /æː, yː, øː/ が対応します。

母音調和

母音は、短・長に関わらず、後舌母音 /a, o, u/ と前舌母音 /æ, ø, e, y, i/ に分類されます。第一音節の母音が後舌母音である場合、第二音節以降の長母音は /aː, uː, iː/ のいずれかに限定され、第一音節の母音が前舌母音である場合、第二音節以降の長母音は /æː, øː, iː/ のいずれかに限定されます。第二音節以降の短母音は、音素としては一つに中和されるため、母音調和とは無関係です。

このような母音調和は、一つの形態素内のみならず、接尾辞にも影響を与えます。そのため、接尾辞の中には /a/~/æ/ および /u/~/ø/ の母音交替による異形態を持つものが多く存在します。

子音

/b/ は、語頭および /m/ の直後では [b]、語中・語末では摩擦音として現れ、無声子音の前では [ɸ]、それ以外では [β] となります。

表記

オイラト族は元来文字を持たず、モンゴル帝国時代にはモンゴル文語を使用していました。17世紀にザヤ・パンディタがモンゴル文字を改良したトド文字を考案してからは、トド文字によって書き表されるオイラト文語を書き言葉としていました。ただし、このオイラト文語はオイラト語の口語に完全に立脚したものではなく、それまで使用していたモンゴル文語の影響を強く受けています。

現在、オイラト文語を使用しているのは中国新疆ウイグル自治区のオイラト族のみです。中国のその他の地域では内モンゴル語が、モンゴル国ではモンゴル語が書き言葉として使用されており、オイラト語を表記する標準化された正書法は存在しません。

カルムイク共和国においては、1924年にキリル文字による正書法が定められ、1931年にはモンゴル人民共和国、カルムイク共和国、ブリヤート共和国共通のセレンゲ方言を基礎としたラテン文字による正書法に転換しましたが、1937年にはソ連内のラテン字化運動の路線変更の影響もあり、他の共和国とは異なるカルムイク共和国独自のキリル文字による正書法を定めました。この正書法は、オイラト語のトルグート方言を基礎としています。

文法

名詞の曲用には、複数、格、再帰所属語尾、人称所属語尾の4つがあります。格には、ハルハ・モンゴル語には見られない連帯格が存在します。

動詞の活用には、活用語尾（命令形、終止形、形動詞形、副[[動詞]]形）があります。

基本的な語順はS-O-Vであり、修飾語は被修飾語の前に置かれるため、語順は日本語と非常によく似ています。

述語には人称語尾が付与されます。人称語尾は主語の人称と数を表すもので、ハルハ・モンゴル語には見られない文法要素です。

語彙

カルムイク語は、モンゴル語族の基本語彙の他、ロシア語から多くの語彙を借用しています。

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