クトゥルフ神話の文献

クトゥルフ神話における禁断の書物たち：神秘と恐怖の文献群

クトゥルフ神話の世界観を彩る要素の一つに、数々の禁断の書物が存在する。これらの書物は、物語に深みと謎を与え、読者に想像を掻き立てる重要な役割を担っている。本稿では、クトゥルフ神話の主要な文献を詳細に解説し、その魅力と謎に迫る。

クトゥルフ神話における文献は、架空の書物であることがほとんどである。そのため、本稿では便宜上、各文献の「著者」と「創造者」を区別して記述する。「著者」とは、作品世界における作者であり、「創造者」とは、クトゥルフ神話を創作した作家を指す。

多くのクトゥルフ神話関連書籍において、これらの文献は重要な解説項目として扱われ、その存在感は非常に大きい。特に、TRPGサプリメントである『キーパーコンパニオン』などは、これら文献の設定集として重要な役割を果たしている。初期の試みとしては、フランシス・T・レイニーの『クトゥルー神話小辞典』（1943）や、リン・カーターの『クトゥルー神話の魔道書』（1959）などが挙げられる。これらの古典的な設定集は、後のクトゥルフ神話研究に多大な影響を与えた。

主要な文献群とその特徴

以下、クトゥルフ神話における代表的な文献について、詳細に見ていこう。

ネクロノミコン（アル・アジフ）：クトゥルフ神話を代表する禁断の書物。アブドル・アルハズラット（創造者：H・P・ラヴクラフト）が西暦730年頃にアラビア語で著したとされる「アル・アジフ」が、翻訳を経て「ネクロノミコン」と呼ばれるようになった。ミスカトニック大学付属図書館をはじめ、世界各地の図書館に数冊が現存すると言われるが、いずれも不完全な写本である。ヨグ＝ソトースやクトゥルフに関する記述が含まれるとされている。
エイボンの書：ハイパーボリアの魔術師エイボン（またはその弟子、創造者：クラーク・アシュトン・スミス）が著したとされる書物。ミスカトニック大学に所蔵されている。ゾタクァやウボ＝サスラといった存在に関する記述があるとされる。
無名祭祀書：フリードリヒ・ヴィルヘルム・フォン・ユンツト（創造者：ロバート・E・ハワード）が著したとされる書物。ミスカトニック大学に所蔵されている。
妖蛆の秘密：ルートヴィヒ・プリン（創造者：ロバート・ブロック）が著したとされる書物。ミスカトニック大学に所蔵されている。
ルルイエ異本：ルルイエにおけるクトゥルフ崇拝に関する書物。創造者はオーガスト・ダーレス。ミスカトニック大学に所蔵されている。
黄衣の王：19世紀に刊行された、呪われた2幕構成の戯曲。ハスター崇拝に関連すると言われている。もともとクトゥルフ神話とは関係のない作品だったが、ラヴクラフトとダーレスによってクトゥルフ神話に取り込まれた。
ナコト写本：クトゥルフ神話における最古の書物の一つとされ、イースの大いなる種族の知識を一部含んでいるとされる。ドリームランドに完全版が存在するとされ、ミスカトニック大学にも断片が残されている（創造者：H・P・ラヴクラフト）。
屍食教典儀（Cultes des Goules）：ダレット伯爵（創造者：ロバート・ブロックと推測される）が1702年頃に著したとされる書物。人肉嗜食や屍姦行為を行う邪教に関する詳細な記述が含まれるとされる。フランスで出版されたが、すぐにカトリック教会によって禁止された。ミスカトニック大学に1部が現存する。
セラエノ断章（Celaeno Fragments）：プレアデス星団の恒星セラエノの第四惑星にあった石板の写し。ラバン・シュリュズベリイ博士が英語に翻訳した自筆写本がミスカトニック大学に所蔵されている（創造者：オーガスト・ダーレス）。オーガスト・ダーレスの『永劫の探究』において重要な役割を担う。
水神クタアト（Cthaat Aquadingen）：著者不明の書物。海や水の魔物に関する詳細な記述があるとされる（創造者：ブライアン・ラムレイ）。
イステの歌（Song of Yste）：太古の魔術師「ディルカ一族」が伝承した書物。アドゥムブラリ種族に関する記述が含まれる（創造者：ロバート・A・W・ロウンデズ）。
エルトダウン・シャーズ（Eltdown Shards）：1882年にイギリスで発見された粘土板の破片（創造者：リチャード・F・シーライト）。ナコト写本と関連があるとされる。
告白録（Confessions）：発狂した修道士クリタヌス（創造者：オーガスト・ダーレス）による告白。旧神召喚の呪文などが記されているとされる。
イオドの書（Book of Iod）：神イオドに関する記述が含まれるとされる書物（創造者：ヘンリー・カットナー）。
サセックス稿本（The Sussex Manuscript）：ネクロノミコンの異本（創造者：フレッド・ペルトン）。
グラーキの黙示録（Revelations of Glaaki）：グラーキ教団に関する書物（創造者：ラムジー・キャンベル）。
ポナペ経典（Ponape Scripture）：クトゥルフとガタノソアに関する文献。ムー大陸のナアカル語で書かれていたとされる。
ザントゥー石板（Zanthu Tablets）：イソグサの神官ザントゥーが記した黒翡翠の石板。
ガールン断章（G'harne Fragments）：地底都市ガールンに関する記述を含む粘土板の翻訳（創造者：ブライアン・ラムレイ）。
ネクロノミコン新釈：フィ―リーによるネクロノミコンの注釈付き英訳版（ブライアン・ラムレイの作品にしばしば登場）。
玄君七章秘経：中国漢代の道士が記したとされる書物。
秘教古伝：明智呈三（無崎岑喬）が著したとされる書物（創造者：朝松健）。
アッツォウスの虚言：ドイツ人魔術師が悪魔アッツォウスから受け取った託宣を記した本（創造者：朝松健）。
ヴォイニッチ手稿：実在する未解読の古文書。ネクロノミコンの原型になった可能性が指摘されている。
ネクロノミコン・エクス＝モルテス（死者の書）：ネクロノミコンとは別の書物。
ネクロノミカン：映画『ネクロノミカン』に登場する書物。
黒の断章：ネクロノミコンラテン語版から欠落した部分とされる。
屍龍教典：ネクロノミコンの中国語訳とされる。
妙法蟲聲經：アル・アジフが仏典となったものとされる。
アル・アジフ（擬人化）：ゲーム『斬魔大聖デモンベイン』に登場する美少女擬人化されたネクロノミコン。
* ダークホールド：マーベル系アメコミに登場する書物。ネクロノミコンのさらに原本となった本とされる。

これらの文献は、ミスカトニック大学付属図書館などに所蔵されているとされ、クトゥルフ神話の世界観を理解する上で重要な役割を担っている。それぞれの文献に秘められた謎を解き明かすことは、クトゥルフ神話研究の重要な課題の一つと言えるだろう。 各文献の詳細については、個別の記事を参照のこと。

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