ハンフリー・オブ・ランカスター

ハンフリー・オブ・ランカスター：波乱に満ちた生涯と文芸への貢献

ハンフリー・オブ・ランカスター（1390年10月3日 - 1447年2月23日）は、イングランドのランカスター朝の王族であり、グロスター公としてその名を知られています。イングランド王ヘンリー4世とメアリー・ド・ブーンの間に生まれた四男で、兄にはヘンリー5世、クラレンス公トマス、ベッドフォード公ジョンがいます。1414年にはグロスター公とペンブルック伯に叙爵され、1422年から1429年には護国卿の任も務めました。

生涯

ハンフリーは1415年のアジャンクールの戦いに参戦し負傷しました。1422年に兄であるヘンリー5世が急逝すると、甥であるヘンリー6世の摂政代理として、護国卿の地位に就きました。しかし、ヘンリー6世を補佐する諮問会議は、ハンフリーの権力を制限する方針を決定しました。三兄のベッドフォード公ジョンが摂政となり、ハンフリーは兄がイングランドを不在にする間の代理に過ぎず、政策への関与も諮問会議の同意を必要とするなど、大幅な制限を受けることとなりました。さらに、この決定には叔父であるヘンリー・ボーフォート枢機卿が深く関わっており、彼との間に激しい対立関係が生じました。

1424年10月、ハンフリーは妻であるエノー・ホラント・ゼーラント女伯ジャクリーヌの権利を主張し、ネーデルラントに侵攻しました。この行為は、イングランドと同盟関係にあったブルゴーニュ公フィリップ3世との対立を招き、1425年4月には敗退しイングランドに帰国しました。この遠征はブルゴーニュとの同盟を危うくする行為であり、ハンフリーの独断専行に怒った兄の勧告を無視し、12月に再度遠征軍を派遣しましたが、ブルゴーニュ軍に撃破されました。最終的に1428年、ローマ教皇マルティヌス5世からジャクリーヌとの婚姻の無効を受け入れ、ネーデルラントへの介入を諦めざるを得ませんでした。

イングランド国内では、ハンフリーはボーフォート枢機卿一派の排除を画策しました。兄の調停により、1426年のバット議会で一時的に矛を収めたものの、兄が1427年にフランスへ向かうと、枢機卿への讒言やボーフォート派の更迭を行いましたが、いずれも諮問会議の反対により失敗しました。1435年に兄が亡くなり、1437年にヘンリー6世が親政を宣言すると、国王の信任が厚いボーフォート派がイングランドの支配を確立しました。政争に敗れたハンフリーは、百年戦争の対応を巡り、抗戦派としてヨーク公リチャードらと結託し、和平派のボーフォート派と対立しました。

和平派がヘンリー6世の周辺を固めると、ヨーク公らが大陸派遣の命令で遠ざけられ、ハンフリーは孤立しました。1440年には、和平派がフランスとの交渉進展策として実行した捕虜であるオルレアン公シャルル・ド・ヴァロワの釈放に反対しましたが、受け入れられませんでした。さらに、1441年には2番目の妻であるエレノア・コブハムがヘンリー6世を黒魔術で呪詛したという疑いで逮捕され、ハンフリーは大きな面目を失いました。その後、王妃マーガレット・オブ・アンジューやボーフォート枢機卿、サフォーク伯ウィリアム・ド・ラ・ポールら和平派の策略により、1447年に逮捕され、同年2月23日に急死しました。一説には暗殺されたとも言われています。同年4月に枢機卿も死去し、政界はサフォーク伯を中心に動いていくこととなりました。

ハンフリーは軽率な行動が多く、不遇な生涯を送りましたが、オックスフォード大学で学んだ経験から文芸の保護に熱心でした。彼の蒐集した書籍は大学に寄贈され、現在のボドリアン図書館の基礎となるハンフリー公図書館が創設されました。また、イングランドの商人に対して免税を推進したため、商人層やロンドン市民から人気が高く、善良公（Good Duke）と呼ばれていました。

結婚

1422年、ハンフリーはエノー・ホラント・ゼーラント女伯ジャクリーヌと結婚しました。ジャクリーヌは1子を死産した後、子供を授かることはありませんでした。ジャクリーヌは先夫であるブラバント公ジャン4世と離婚しての再婚でしたが、1428年にローマ教皇マルティヌス5世の勅書により、先夫との結婚が有効であり、ハンフリーとの結婚は無効であるとされました。同年、ハンフリーは愛人でジャクリーヌの侍女であったエレノア・コブハムと再婚しましたが、1441年にエレノアは呪詛容疑で逮捕され、終身刑の判決が下り、1452年に死ぬまで釈放されることはありませんでした。嫡子が生まれなかったため、グロスター公位は断絶しました。しかし、ハンフリーには2人の庶子がいるとされています（母はエレノア）。

アーサー（? - 1447年）- 父の死後5ヶ月後に反逆罪で逮捕
アンティゴネ（? - ?） - タンカーヴィル伯ヘンリー・グレイと結婚

参考文献

森護『英国王室史話』大修館書店、1986年。
尾野比左夫『バラ戦争の研究』近代文芸社、1992年。
松村赳・富田虎男編『英米史辞典』研究社、2000年。
城戸毅『百年戦争―中世末期の英仏関係―』刀水書房、2010年。
トレヴァー・ロイル著、陶山昇平訳『薔薇戦争新史』彩流社、2014年。

関連項目

イングランド・フランス二重王国
ウィリアム・シェイクスピアの史劇に登場する。
ヘンリー四世 第2部
ヘンリー五世 (シェイクスピア)
ヘンリー六世 第1部
* ヘンリー六世 第2部

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