フィン・ウゴル語派

フィン・ウゴル語派とは

フィン・ウゴル語派（Finno-Ugric languages）は、ウラル[[語族]]に属する言語群です。ハンガリー語、フィンランド語、エストニア語など、ヨーロッパ北部から東部にかけて分布する様々な言語が含まれます。この語派には、ロシア連邦などに住む多くの少数民族の言語も含まれていますが、その中にはすでに絶滅した言語や、消滅の危機に瀕している言語も少なくありません。

話者人口は合計で約2300万人と推定されています。フィン・ウゴル語派は、シベリア北部のサモエード語派とともにウラル[[語族]]を構成しますが、話者の人種構成には違いが見られます。サモエード語派の話者がほぼモンゴロイドであるのに対し、フィン・ウゴル語派の話者はモンゴロイドとコーカソイドの混合であり、特にバルト・フィン諸語の話者はほぼコーカソイドです。

起源

フィン・ウゴル語派の起源については、いくつかの説があります。

イングリア説: ウラル山脈より西のロシア中央部・北部、サンクトペテルブルク付近のイングリア（インゲルマンラント）を故地とする説。
ウラル山脈中南部説: ウラル山脈の中南部を起源とする説。
アルタイ・サヤン地域説: さらに東方のアルタイ・サヤン地域を起源とする説。

語族としての形成は紀元前3千年紀に遡るとされ、再建された祖語にはインド・イラン語派からの借用語（「蜜蜂」「蜂蜜」など）も含まれています。これは、インド・イラン系民族（スキタイなど）がユーラシア・ステップに住んでいた時代の影響を示唆しています。

スラヴ語派の人々が現在のロシアに広がる以前、これらの言語はすでにウラル山脈からバルト海にかけての広範囲に広がっていたと考えられています。この分布範囲は、新石器時代の櫛目文土器文化の範囲と重なり、紀元前4200年から2000年頃のフィン・ウゴル語派の文化に対応すると考えられています。

フィン・ウゴル語派は、ウゴル諸語（ウラル山脈東側のユグラ地方［現在のハンティ・マンシ自治管区］の言語とハンガリー語からなる）と、フィン・ペルム諸語（ロシアのウラル以西、フィンランド・バルト海沿岸まで）に大きく分けられます。さらに、フィン・ペルム諸語は多数のグループに細分化されます。ウゴルという名称は、マンシ族の旧名である「Voguls」に由来し、地名「ユグラ」とともに「ハンガリー」という国名と語源的なつながりがあるという説もあります。

バルト・フィン諸語（フィンランド語、エストニア語など）の語彙には、他のフィン・ウゴル語派の言語と共通しないものがあり、これは古い基層言語（バルト語派と共通の可能性あり）に由来すると考えられます。また、サーミ語（ラップ語）に関しては、その祖先は元々別の言語を話しており、後にフィン・ウゴル語を受け入れた可能性が高いとされています。

特徴

フィン・ウゴル語派には、約200の共通基礎語彙が確認されています。これには、親族名称や人体に関する語彙のほか、漁労、狩猟・牧畜（特にトナカイ）、技術・建築、天候などに関する語彙が含まれます。これらの語彙は、祖語に遡ると考えられています。

構造的な特徴としては、以下のような点が挙げられます。

母音調和: 母音の音質が語の中で調和する現象。
格変化: 日本語の格助詞に似た接尾辞によって格を表す。格の種類が多い（フィンランド語は15格、ハンガリー語は18格）。
動詞の活用: 動詞は主語の人称・数によって活用する（一部の言語では目的語によっても活用）。
文法的な性がない: 代名詞に「彼」と「彼女」の区別がない。
所有表現: 一般に所有形容詞がない。代わりに、被所有物名詞に所有者の人称接尾辞を付けたり、人称代名詞の属格で表したりする。
語順: 基本的にはSOV型（主語-目的語-動詞）だった可能性が高いが、フィンランド語ではSVO型（主語-動詞-目的語）が一般的。ハンガリー語では語順が比較的自由で、SOV、SVO、VOSなど多様な語順が見られる。

分類

フィン・ウゴル語派は、以下のような言語グループに分類されます。ウラル[[語族]]の中でのフィン・ウゴル語派という分類についてはほぼ意見が一致していますが、下位諸語間の分類についてはまだ確定していません。

フィン・ウゴル語派

ウゴル諸語
オビ・ウゴル諸語
ハンティ語（旧称：オスチャーク語）
マンシ語（旧称：ボグール語）
ハンガリー語（マジャル語）
ペルム諸語
ウドムルト語（旧称：ボチャーク語）
コミ語（旧称：ジリエーン語）
コミ・ペルミャク語
コミ・ヤズヴァ語
コミ・ジリエーン語
ボルガ・フィン諸語
マリ語（旧称：チェレミス語）
モルドヴィン諸語
エルジャ語
モクシャ語
サーミ諸語（ラップ語とも呼ばれる）
バルト・フィン諸語
フィンランド語（スオミ語）
エストニア語
カレリア語
ヴェプス語
イジョール語
ヴォート語
リヴォニア語

各諸語の系統関係については複数の説があり、まだコンセンサスが得られていません。有力な説としては、フィン・ペルム諸語、フィン・ヴォルガ諸語、フィン・サーミ諸語という分類があります。

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