モンゴル・金戦争

モンゴル・金戦争（1211年 - 1234年）

モンゴル・金戦争は、13世紀前半にモンゴル帝国が金朝を滅ぼした一連の戦争です。23年間に及ぶこの戦争は、大きく以下の3つの時期に分けられます。

1. 第一次侵攻（1211年8月 - 1216年）： チンギス・カン自身が指揮。
2. ムカリによる経略（1217年 - 1224年、1227年）： チンギス・カンの部下であるムカリが担当。
3. 第二次侵攻（1227年 - 1234年3月9日）： 第2代皇帝オゴデイが指揮。

戦争の背景

第一次侵攻の段階では、モンゴルは金朝の完全な征服を目的としていませんでした。しかし、金朝側の失策が重なり、モンゴル軍は首都の中都（現在の大興府）周辺を制圧するに至ります。その後、金朝は南の開封へ遷都し、黄河以北は事実上無政府状態となりました。チンギス・カンはムカリに東方地域の経営を委ね、ムカリは現地の漢人有力者（後の漢人世侯）を通じた間接支配体制を確立しました。オゴデイが皇帝に即位すると、金朝への第二次侵攻が行われ、金朝は滅亡しました。

第一次侵攻（1211年 - 1216年）

1211年、モンゴル軍は金朝への侵攻を開始しました。モンゴル軍はゴビ砂漠を越え、現在のシリンゴル草原一帯に広がる金朝の国営牧場と、そこに住む多数の契丹人を制圧しました。この地域での抵抗はほとんどなく、モンゴル軍は順調に勢力を拡大しました。この成功には、モンゴル帝国成立以前からチンギス・カンに仕えていた耶律阿海・耶律禿花兄弟の貢献が大きかったとされています。

さらに南下したモンゴル軍は、金朝軍の主力部隊と野狐嶺で激突しました。3日間にわたる激戦の末、モンゴル軍はこの戦いに勝利し、金朝は機動部隊を失い、モンゴルに対抗する術を失いました。この時点で、両国の勝敗はほぼ決したと言われています。

1212年、モンゴル軍の損害も大きかったため戦線は膠着しましたが、1213年、モンゴル軍は再び南下を開始しました。首都の中都を守る居庸関を避け、紫荊関を攻め、華北平野に侵入しました。華北平野に展開したモンゴル軍は、全軍を3つの軍に分け、各地を侵略しながら中都を包囲しました。モンゴル軍は占領地の拡大よりも、略奪と金軍の弱体化に重点を置きました。1214年、モンゴル軍は中都に集結し、モンゴルの威圧の下、両国は和議を結びました。

しかし、金朝はモンゴル軍を恐れて開封への遷都を強行し、モンゴルに加わった契丹人将軍たちは、この和約違反を理由に再出兵を主張しました。チンギス・カンはこれを受け入れ、再び金朝へ出兵し、中都を陥落させました。中都は燕京と改名され、モンゴル帝国の華北支配の拠点となりました。

ムカリによる経略（1217年 - 1224年、1227年）

チンギス・カンはホラズム遠征を計画しており、1218年に金朝侵攻に見切りをつけ、ムカリに東方地域の経営を委ねました。ムカリは左翼軍団を率い、チンギス・カンの代理人として振る舞い、「太師国王」「権皇帝」の称号で知られました。

金朝領華北では、モンゴル軍の略奪と遷都により治安が悪化し、各地で自衛組織が組織されました。金朝はこれらの集団を「義軍」と呼び、河北回復の足掛かりにしようとしましたが、これらの集団はモンゴルに降伏し、「漢人世侯」と呼ばれる軍閥を形成するようになりました。史天沢、張柔、張栄らは「バアトル」の称号を与えられ、モンゴル人と同様の扱いを受けました。

ムカリ軍は各地を転戦し、1218年には張柔、1220年には武仙、厳実らを降伏させ、モンゴルの勢力圏を拡大しました。1222年には河中府が陥落しましたが、アルチャルの活躍により奪還に成功しました。1223年、ムカリは病死しましたが、息子のボオルが後を継ぎました。

1225年、武仙が反乱を起こしましたが、史天沢がこれを鎮圧しました。ムカリの経略と漢人軍閥の活躍により、河北には史氏、張氏、厳氏といった漢人世侯による分割支配体制が確立しました。逆に、金朝は河北での支配権を失い、河南のみを支配する地方政権に転落しました。

第二次侵攻（1227年 - 1234年）

1229年、オゴデイは金朝の完全征服を宣言しました。金朝は弱体化していたものの、兵力の集中が容易になっており、モンゴル軍にとっても容易な戦いではありませんでした。モンゴル軍は3つの軍に分かれ、それぞれトルイ、テムゲ・オッチギン、オゴデイが率いました。

テムゲ・オッチギン率いる左翼軍は、山東方面に進軍し、ほとんど実戦を交えることなく遠征を終えました。彼の任務は、河北の民を恐慌に陥れ、河南への人口流入を促し、金朝領内での食料不足を引き起こすことにあったと考えられています。オゴデイ率いる中央軍は黄河北岸に到達しましたが、正面から金軍と戦おうとせず、黄河を渡りませんでした。中央軍の目的は、金軍主力を黄河南岸に引き付け、おとりにすることでした。

最も困難な道を進んだのは、トルイ率いる右翼軍でした。右翼軍は陝西方面から金朝領深く侵攻し、京兆を攻め落としました。河南方面の守りが堅いのを見ると南宋領を経由する大迂回を行い、南方から河南一帯に入りました。金軍は主力軍を南下させましたが、1232年1月、オゴデイ軍も黄河を渡り、金軍は危機的状況に陥りました。そして、三峰山の戦いにおいて、トルイ率いる軍団が金朝軍を壊滅させました。

1232年3月、オゴデイ軍とトルイ軍は合流し、スブタイ、グユクら4将に開封の包囲を命じました。すでに多くの避難民が逃げ込んでいた開封では、食糧不足と疫病により悲惨な状況に陥りました。金朝は皇族を人質として差し出すことで一時モンゴル軍と停戦を結びましたが、1233年1月、哀宗は開封を捨てて帰徳に逃れました。

開封では残された宰相がモンゴルへの抗戦を続けましたが、崔立がクーデターを起こしてモンゴルに投降し、開封は陥落しました。一方、哀宗は蔡州に逃れましたが、モンゴル軍に包囲されました。1234年1月、哀宗は皇帝位を譲りましたが、その最中にモンゴル軍が城内に侵入し、哀宗と末帝は殺され、金朝は滅亡しました。

重要な戦役

野狐嶺の戦い - 1211年
懐来の戦い - 1213年
貞祐の乱 - 1214年
中都の戦い - 1214年-1215年
大昌原の戦い - 1228年/1230年
倒回谷の戦い - 1231年
三峰山の戦い - 1232年
開封攻囲戦 - 1231年-1232年
* 蔡州の戦い - 1233年-1234年

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