下毛野氏

下毛野氏について

下毛野氏（しもつけのうじ、しもつけぬうじ）は、「下毛野」を氏の名とする古代日本の氏族です。その出自は、第10代崇神天皇の皇子である豊城入彦命（とよきいりひこのみこと）の後裔とされ、皇別氏族に分類されます。当初は「下毛野君（きみ、公）」を称していましたが、後に「下毛野朝臣（あそん）」の姓を賜りました。

概要

下毛野氏は、大化の改新以降、中級貴族として朝廷に仕え、10世紀以降は公家の下級武官として活躍しました。国史には、初期から朝廷に仕えた氏族として記録されていますが、大化以前の詳しい動向は明らかになっていません。氏族名の「下毛野」から、元々は下毛野地域（現在の栃木県南西部）を拠点とする豪族であったと推測されていますが、その詳細は不明な点が多く残されています。

「毛野」とは、古代の群馬県と栃木県南西部を指す地域名で、都に近い側を「上毛野」（後の上野国、現在の群馬県）、遠い側を「下毛野」（後の那須地域を加えて下野国、現在の栃木県）と区別しました。

出自

文献上の記録

『日本書紀』には、崇神天皇が皇子の豊城命（豊城入彦命）に東国統治を命じた際、その豊城命が「上毛野君・下毛野君の祖」であると記されています。この記述は『古事記』にも見られます。平安時代初期に編纂された『新撰姓[[氏録]]』（815年）には、下毛野朝臣が「崇神天皇皇子の豊城入彦命の後」と明記されており、豊城入彦命の子孫であることが公に認められていました。

『新撰姓[[氏録]]』には、豊城入彦命を祖とする氏族が他にも多数記されていますが、特に下毛野朝臣、上毛野朝臣、大野朝臣、池田朝臣、佐味朝臣、車持朝臣の6氏は「東国六腹朝臣」と総称され、いずれも毛野地域（群馬県・栃木県南西部）をルーツとする同族とされています。

『続日本紀』には、707年に下毛野石代が「下毛野朝臣」から「下毛野川内朝臣」に改姓した記録があり、下野国河内郡との関係が指摘されています。また、『先代旧事本紀』「国造本紀」には、仁徳天皇の時代に豊城命の四世孫である奈良別が初めて下[[毛野国造]]に任じられたと記されています。ただし、奈良別については別の文献で「六世孫の下毛君奈良」と記述されており、下毛野氏の一族であると考えられています。

考古資料による考察

毛野地域には、古墳時代に数多くの古墳が築かれました。下毛野地域では、5世紀末から6世紀にかけて、小山市北部に最大規模の摩利支天塚古墳（墳丘長121メートル）と琵琶塚古墳（123メートル）が造営されました。

その後、やや北の壬生町南部に「下野型古墳」と呼ばれる独特の前方後円墳群が築かれました。これらの古墳群は、下毛野氏一族の墓と考えられています。古墳群は山王塚古墳（6世紀末から7世紀初頭）まで続いた後、円墳へと変化しています。この変化は、ヤマト王権の東国支配が完了し、下毛野氏一族が中央へ拠点を移したことを示唆していると考えられています。

下野薬師寺は、下毛野古麻呂が氏寺として建立したと伝えられており、この地域と下毛野氏の深い繋がりを示しています。また、古墳群付近には下野国庁や下野国分寺・国分尼寺も建立され、この地域が後世の下野国の中心地であったことが伺えます。

歴史

飛鳥時代以降、下毛野氏は天武天皇13年（684年）に、八色の姓において他の52氏とともに「下毛野君」から「下毛野朝臣」の姓を授けられました。

一族の中でも特に下毛野古麻呂は、『大宝律令』の編纂に携わったことで知られています。また、大学助教であった下毛野虫麻呂は、『懐風藻』に漢詩を残しており、学問的な活躍も目立ちました。しかし、その後は中央の中・下級貴族にとどまり、10世紀以降は近衛府の舎人や院・摂関家の随身として活躍しました。

特に藤原道長の時代から摂関家との関係を深め、家人として供奉や警固の任にあたりました。その関係から馬術、鷹飼、舞楽、調理に長けており、厩所、随身所、雑色所の長を務め、荘園の管理も担当していました。

その後も山城国乙訓郡の調子荘を本領として活動していましたが、室町時代中期以降に衰退しました。

主な下毛野氏一族

下毛野古麻呂：正四位下、式部卿大将軍。『大宝律令』の編纂に携わり、下野薬師寺を建立したとされる。
下毛野石代：従五位下。下毛野川内朝臣に改姓し、征夷副将軍に任じられた。
下毛野虫麻呂：大学助教、式部員外少輔。『懐風藻』に漢詩が残されている。
下毛野多具比：従五位上、遠江守。
下毛野稻麻呂：従四位下。
下毛野公時：近衛舎人、番長、藤原道長の随身。童話「金太郎」のモデルになったとされている。

他氏出身の下毛野氏

下毛野根麻呂：外従五位下。吉弥侯から下毛野公に改姓。

氏族・家

左右近衛府地下官人の調子家、富家が下毛野姓を称し、江戸時代まで存続しました。また、宇都宮[[氏]]など下野地域の社家や武家にも、下毛野氏の後裔と推測される氏族が存在します。

関連事項

東国六腹朝臣
下[[毛野国造]]
宇都宮二荒山神社
下野薬師寺跡 - 下毛野氏の氏寺として創建された。

脚注

注釈
原典
出典

参考文献

上田正昭 編『日本古代史大辞典』大和書房、2006年
川島茂裕『国立歴史民俗博物館研究報告』第45集、国立歴史民俗博物館、1992年
熊倉浩靖; 近藤義雄『群馬史再発見』あさを社、2001年
熊倉浩靖『古代東国の王者：上毛野氏の研究』（改訂増補）雄山閣、2008年
国史大辞典編集委員会 編『国史大辞典』吉川弘文館、1985年、1986年
「下毛野氏」『世界大百科事典』平凡社。
福田三男『光と風の大地から：下野古麻呂の生涯』随想舎、1998年
平凡社地方資料センター編『栃木県の地名』平凡社、1988年
山本博文監修『あなたの知らない栃木県の歴史』洋泉社、2013年
『栃木県の歴史』山川出版社。

もう一度検索