久松氏 (長崎町年寄)

久松氏（ひさまつし）

概要

久松氏は、江戸時代の長崎において、地役人として重要な役割を担った家系です。その祖は、出島の築造に尽力したとされる豪商、久松新兵衛に遡ります。『長崎名家略譜』には、西浜町に屋敷を構え、高禄を得ていた長崎町年寄の名家と記されています。

久松家の先祖は、武蔵国大串を領し、源頼朝に仕えた武士でした。しかし、4代目が肥前国に移り、大村氏の家臣となります。その後、実子に恵まれなかったため、讃岐国丸亀藩主・生駒帯刀の末子である堀尾作十郎を養子に迎えました。さらに、作十郎にも実子がなかったため、長崎町年寄・高木作右衛門の子を養子とし、その人物が初代久松善兵衛となります。

久松家の屋敷があった西浜町（現在の長崎市銅座町・浜町周辺）は、かつては長崎町年寄筆頭の高木彦右衛門の屋敷でしたが、深堀事件によって高木家が断絶した後、久松家のものとなりました。

本家

久松家の本家は、以下の通りです。

初代 - 久松善兵衛忠辰
高木作右衛門宗利（4代目）の三男を養子に迎えました。
元禄10年（1697年）に常行司に就任し、同12年（1699年）に町年寄に就任しました。
宝永6年（1709年）に隠居しました。
2代目 - 松永市右衛門忠昭
高島四郎兵衛茂村（3代目）の次男を養子に迎えました。
宝永6年に町年寄に就任しましたが、同7年（1710年）に奉行と同姓のため、松永と改姓しました。
享保7年（1722年）7月22日に亡くなりました。
3代目 - 久松善兵衛茂政
高島四郎兵衛茂程（4代目）の次男を養子に迎えました。
享保4年（1719年）に家を継ぎ、同11年（1726年）に町年寄見習に就任しました。同12年（1727年）に久松姓に復し、同14年（1729年）に町年寄に就任しました。
延享4年（1747年）9月18日に亡くなりました。
4代目 - 久松喜兵衛忠廉
高木作右衛門忠栄（7代目）の末男を養子に迎えました。
延享4年に町年寄に就任しました。
宝暦4年（1754年）4月19日に亡くなりました。
5代目 - 久松善兵衛忠衹
3代目善兵衛茂政の次男で、別名半右衛門とも呼ばれていました。
宝暦4年に町年寄見習に就任し、同8年（1758年）に町年寄に就任しました。
天明5年（1785年）には、「御奉公筋出精」により、帯刀を許され、長崎会所調役に任命されました。
寛政元年（1789年）に権限の一部を剥奪され、同2年（1790年）9月に隠居しました。同12年（1800年）4月19日に亡くなりました。
6代目 - 久松善兵衛定寿
寛政元年（1789年）10月に町年寄見習に就任し、同2年（1790年）10月に町年寄に就任しました。
享和元年（1801年）に隠居しました。
天保12年（1841年）5月4日に亡くなりました。
7代目 - 久松善兵衛忠恒
長崎町年寄・後藤家10代目である後藤五郎左衛門貞郁の次男を養子に迎えました。
寛政12年（1800年）に町年寄見習に就任し、享和元年（1801年）2月に町年寄に就任しました。
文化12年（1815年）11月に隠居しました。
天保13年（1842年）12月29日に亡くなりました。
8代目 - 久松碩次郎定碩
高島四郎兵衛茂紀（9代目）の次男で、高島秋帆の次兄を養子に迎えました。詳細は久松碩次郎の項目を参照してください。
9代目 - 久松新兵衛定益
7代目善兵衛忠恒の四男です。
弘化3年（1846年）7月25日に高島秋帆の疑獄事件に連座し、50日間の押込処分を受けました。同4年（1847年）に亡くなりました。
10代目 - 久松喜兵衛忠恒
8代目碩次郎定碩の子です。
文久2年（1862年）に31歳で亡くなりました。
11代目 - 久松若三郎
文久3年（1863年）に町年寄に就任しました。

分家

久松家の分家は、以下の通りです。

初代 - 久松土岐太郎忠真
久松善兵衛茂政（本家3代目）の三男です。
明和3年（1766年）3月に町年寄末席に任じられ、天明7年（1787年）正月に一代町年寄に就任しました。
寛政元年（1789年）7月に隠居し、同年11月29日に亡くなりました。
2代目 - 久松平三郎忠倫
寛政元年に町年寄末席見習に就任し、同4年（1792年）11月に町年寄末席に就任しました。同12年（1800年）正月に一代町年寄に就任しました。
享和3年（1803年）2月18日に亡くなりました。
3代目 - 久松嘉兵衛忠豊
享和3年4月に町年寄末席に就任し、文政5年（1822年）7月に町年寄に就任しました。以後、世襲となりました。
4代目 - 久松金之助忠篤
久留米藩士・今井清右衛門の次男を養子に迎えました。
天保2年（1831年）に町年寄見習に就任し、同4年（1833年）に退職しました。
5代目 - 久松蜂次郎忠清
薬師寺久左衛門種茂の三男を養子に迎えました。
天保5年（1834年）5月に町年寄に就任しましたが、同8年（1837年）に退職しました。
6代目 - 久松土岐太郎忠功
高島秋帆の次男を養子に迎えました。詳細は久松土岐太郎の項目を参照してください。
7代目 - 久松土岐太郎忠誨
久松新兵衛定益（本家9代目）の次男を養子に迎えました。詳細は久松寬三郞の項目を参照してください。

参考文献

有馬成甫著 『高島秋帆 人物叢書』 吉川弘文館 ISBN 4-642-05155-4
石山滋夫著 『評伝 高島秋帆』 葦書房 ISBN 4-7512-0057-7
江越弘人著 『<<トピックスで読む>>長崎の歴史』 弦書房 ISBN 978-4-902116-77-9
木村直樹著 『長崎奉行の歴史 苦悩する官僚エリート』 角川選書 ISBN 978-4-04-703574-4
鈴木康子著 『長崎奉行の研究』 思文閣出版 978-4-7842-1339-9
簱先好紀著 『天領長崎秘録』 長崎文献社 ISBN 4-88851-024-5
簱先好紀著 『長崎地役人総覧』 長崎文献社 ISBN 978-4-88851-189-6
広瀬隆著 『文明開化は長崎から』上巻 集英社 ISBN 978-4-08-789002-0
広瀬隆著 『文明開化は長崎から』下巻 集英社 ISBN 978-4-08-789003-7
森岡美子著 『世界史の中の出島 日欧通交史上長崎の果たした役割』 長崎文献社 ISBN 4-88851-088-1
『長崎県の地名 日本歴史地名大系43』 平凡社 ISBN 4-582-49043-3
『長崎県の歴史』 山川出版社 ISBN 978-4-634-32421-3
長崎古地図集『享和二年 肥州長崎図』 長崎文献社
『日本人名大辞典』 講談社 ISBN 4-06-210800-3
『日本人名大事典』第5巻 平凡社

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