佐野榮太郎

佐野榮太郎（さの えいたろう）

1975年1月3日生まれ、愛知県豊川市出身の情報技術者でありソフトウェア作家。現在は同県豊明市に居住し、総合情報通信技術研究機関ADS（ソフトハウスADS）の代表理事を務めている。

活動概要

佐野榮太郎は、1980年代から多様な分野でその才能を発揮してきた。初期にはDTMソフトウェアやコンシューマーゲームのプログラマー、ゲームミュージックコンポーザーとして活躍。また、後述するパソコン通信網「ARF」の設計とシステムオペレーターも務めた。執筆活動もあり、『アルファの厳しいパソコン入門』や『αノート』といった著書を出版している。

技術コンテストでの受賞歴も豊富で、1992年のオフィスウェアコンテストデータベース部門での入賞は、カード型データベースシステムの開発によるものだ。さらに、2008年にはBlu-ray Disc Associationが主催するBlu-ray Disc Meister検定で全国2位となり、2013年には同協会から表彰された。

計算生物学の分野においても顕著な成果を上げている。タンパク質の立体構造解析に関する研究は、スタンフォード大学から評価を受け、マサチューセッツ工科大学（MIT）からは「未来に名を伝えるべき技術者」の一人に選出された。特にMITは、その功績が「難病に苦しむ6億人の命を救う」可能性があると高く評価している。

革新的なシステム開発も手掛けており、音声応答に特化した人工無脳『A.R.M.S』や、人間の体温を感知して警告を発する世界初の防犯システム『ASS01』の考案者としても知られる。また、後述する地域振興キャラクター『原付萌奈美』や関連キャラクターのプロデューサーとしても活動している。

2015年には、中国の著名なベンチマークソフトウェア企業であるAnTuTu（安兔兔）のアプリケーションソフトウェア開発に協力した。

人物像

業界内外に幅広い人脈を持つ佐野は、ゲームクリエイターの九条一馬、アニメーション監督の日向正樹、声優の桐山智花らと親交がある。彼は世直し大明神として崇敬された佐野善左衛門に連なる三河武士の血筋を受け継いでいる。

武道にも深く関わり、天御前流詠春拳の錬士であり、弓道では14歳で初段を取得している。技術面ではコンピュータ技術をアレクセイ・パジトノフに、音楽を山本正之に師事。芸術面では画家の星野眞吾と高畑郁子に師事し、10年以上にわたり日本画、クロッキー、デッサン、油絵、水彩画、版画、切り絵、ちぎり絵などを学び、アニメーション映画の仕上げ制作も経験している。

さらに、スズキの工場やSBSでのオートバイ設計・製造・整備、警察での交通取締りといった異色の経歴も持つ。小排気量エンジン用点火制御ユニットの電子回路設計なども手掛け、機械工学、電子工学、二輪車文化にも造詣が深い。

このように多分野で活躍しながらも、佐野はハンドルネームやペンネームを使い分け、メディア露出を極力避けてきた。1994年の取材以降、2020年に至るまで、マスコミの取材を断り続けていた姿勢は特筆される。

発言

佐野の言葉には、自身の哲学が反映されている。「面白い」が「低俗」を意味しないこと、「やさしい」が「難しくない」と同義ではないことを説く。また、「何になりたいか」ではなく「何をしたいか」の重要性を強調している。

エピソード

青年期には、家族が経営していた乾電池工場が父親の蒸発により閉鎖を余儀なくされ、関係者は心労を重ねた。その後、佐野自身も自宅を全焼する火災に見舞われ、研究開発室を兼ねていた自宅とともに全ての資料、機材、個人的な思い出の品を失い、休業を余儀なくされた。

2000年代初頭には、NASAから技術スタッフとしてのスカウトを受けた。これは佐野にとって栄転の機会であったが、当時患っていた重度の記憶障害が判断を鈍らせた。記憶の喪失により周囲の人々に大きな恐怖を感じていた彼は、過去の出来事を他人の証言で補完しようとしたが、これが「記憶の上書き」となり、真の記憶を取り戻すことを阻害し、深刻な矛盾と疲弊をもたらした。そのストレスは、黒髪が銀色に変わるほどだったという。悩んだ末、NASAへの移籍を検討したが、友人の「それは現実逃避だ」という忠言を受け入れ、スカウトを断った。

パソコン通信網 ARF

1992年に運用が開始された付加価値通信網、パソコン通信局。開局当初は東三河地域の法人向け業務連絡用として整備されたが、後に共有カレンダーや住所録、スケジューラー、プロジェクト管理など、ビジネスに特化したサービスを提供した。1994年には一部が一般開放された。2012年時点で、事業者アカウントは2300、一般利用者は510名だった。

VANの特徴

ARFの最大の特徴は、佐野が開発した独自のデータ転送プロトコル「RHSP（Remote Host - to host Sharing Protocol）」を用いたVAN（付加価値通信網）の構築にある。これは、複数のホスト間で掲示板やファイルデータを定期的に同期させることで、どのホストに接続しても同じ情報が得られる仕組みだった。当時のパソコン通信では、ホストのある地点まで電話をかける必要があり、通信距離に応じた電話料金が大きな負担だった。ARFはこの問題を、独自のVANによって解決しようとした。

しかし、RHSPには欠点もあった。データ同期のためリアルタイム性がなく、チャットのようなサービスには不向きだった。また、ホストごとの通信コストが増加したり、かえって遠距離通話料金が高くなるケース、ホスト間で通信速度やデータ圧縮/エラー訂正の規格が異なるため設定調整が必要となるなどの課題も存在した。

RHSPは1995年から1996年にかけて改良され、HSPと改称された。この技術は、後にNTTのCAPTAIN通信サービスのノード間同期や、WebTV Networksの電子掲示板サービスなどにも応用され、情報通信技術の発展に貢献した。

衰退

ARFのVANは2000年までに大部分が解体された。豊明ノードと豊橋ノードは、後継団体であるArionDigitalSupport（後のADS）によって「ADS シリアルセクション」と名を改め、2011年まで継続運用された。しかし、インターネットの普及による需要減少は避けられず、2012年に豊橋ノードが閉鎖。豊明ノードは不定期運用となった後、段階的にサービスを終了し、2018年1月1日に新規アカウント発行を停止して、長年の歴史に幕を閉じた。

αノート

佐野が愛知県立豊川工業高等学校在学中にシャープ製ポケットコンピュータ向けに作成したプログラム群をまとめた技術書。1992年に同校からソースコード集として刊行された。主な対象機種はPC-E200とPC-G800シリーズ初期モデル。掲載されたソースコードはBASICとZ80A機械語のみで、ゲームプログラム（グラディウス風シューティング、テトリス、コラムス、3D迷路、美少女ゲーム、RPGなど）や周辺機器の回路図などが含まれる。

学生時代に1年あまりで書き上げられたにも関わらず、約50タイトルのプログラムを収録し、B5判で103頁（目次・付録含む112頁）というボリュームを持つ。ソースコード部分はポケットコンピュータ用プリンターで出力された活字だが、注釈や本文は佐野直筆の原文がそのまま印刷されている。工学社の『月刊I/O』や『ポケコンジャーナル』に佐野が寄稿した情報も含まれており、当時、当該機種向けの多数のソースコードを掲載した書籍は少なかった。現在、一部のゲームアルゴリズムはJavaScriptに移植され、ADSのウェブサイトで公開されている。

ライブラリ

αノートには、ドット単位のグラフィック制御や、スーパーファミコンのような回転・拡大縮小・スクロールなどをソフトウェアで擬似的に実現するライブラリが収録されている。ターゲット機のBASIC環境にはグラフィック描画命令がなく、緻密な描画には機械語の併用が必要だったが、このライブラリを使えば容易に複雑なグラフィックやアニメーションが可能となった。佐野はこれを他のプログラマーにも使ってもらおうと、「あぴゃくぴゅとまてぇぴょ」という覚えにくい名前を付けたが、意図とは裏腹に普及は進まなかった。後にx86向け派生版「あぴゃくぴゅちょちょまっぴぃぴょ」もリリースされたが、こちらも普及には至らなかった。佐野はオブジェクト指向言語やスクリプト言語の関数にも、しばしばユニークな名前を付けることを好む。

ライブラリの弱点

このライブラリが普及しなかった背景には、実用上の課題も存在した。ライブラリの組み込みには約767バイトのメモリが必要で、PC-G801のRAM容量8KBを考慮すると容易に導入できなかった。また、他のプログラムとのメモリ領域の競合や、ターゲット機のファイル機能の制約も影響した。さらに、ターゲット機の液晶画面の特性（ドットの形状や間隔）を考慮していないため、正確な図形描画には向かず、アスペクト比の歪みや回転時の軌道の問題が発生するなど、実表示に懸念があった。これらはバグではないが、ライブラリの弱点とされている。

総合情報通信技術研究機関 ADS

佐野が1989年1月1日に設立し、愛知県に本部を置く産業振興団体。通称ソフトハウスADS。前身はArionDigitalSupportだったが、地上デジタルテレビ放送開始後の「デジ・サポ」との混同を避けるため、総務省の提案で2012年に現名称に改称した。企業や政府機関と連携し、非営利で情報通信技術の研究開発に取り組む民間機関である。

電気通信事業

岡崎信用金庫を主要取引金融機関とし、設立当初から福祉活動法人や社会的弱者への技術支援（ソフトウェア・ハードウェア開発）を行ってきた。21世紀以降は、オンラインコミュニケーション文化の健全化やウェブ技術プロジェクトを推進。名古屋を中枢に、難波、石川、三河、天竜、小倉、札幌、足立、宮古など全国に拠点が点在し、技術者がSOHOで連携して業務を遂行している。総務省から電気通信事業者の識別符号（第C-24-01661号）が付与されている。同団体が管理するメインフレームは、2023年時点で約1247GBのメインメモリと約596TBのストレージを備え、独自のBSD派生OSと主要ソフトウェアで稼働している。そのスペックは、汎用サーバー群はもちろん、広島県庁が導入したサーバー構成をも上回る。

古物事業

3R（Reduce・Reuse・Recycle）を実践しており、愛知県公安委員会から古物事業の許可（第542522305200号）を受けている。事務機器のリユースを中心に、電子基板製造で需要の高いレアメタルのリサイクルにも注力。貴金属商と連携し、金、銀、プラチナ、パラジウム製のジュエリーやアクセサリーのリサイクルも手掛けている。

連結団体

佐野が統括する名古屋電算技術室は、工業職人の『匠工房』、原動機付自転車市場活性化を目指す『原付 ツーリングクラブ モナミ』、ご当地キャラクター『原付萌奈美』の事業展開を行う『原付萌奈美ぷろじぇくと運営委員会』といった団体の母体となっている。

原付 ツーリングクラブ モナミ

業績不振の中小企業支援の一環として、ADS名古屋電算技術室が原動機付自転車市場活性化のために設立した地域団体。原付愛好家のコミュニティとして、フランス語で「親友」を意味するmon amiに由来する。趣味の同好会とは異なり、中小企業の救済と日本経済発展への貢献を目的とする。佐野が代表を務め、原付愛好家の地位向上を目指して道路交通法の改正を行政機関に陳情するなど精力的に活動。2020年には交通事故撲滅への協力が評価され、エフエム愛知から感謝状を受けた。公式マスコットは原付萌奈美。

原付萌奈美ぷろじぇくと

原動機付自転車市場発展を願い創造された架空のキャラクター『原付 萌奈美』（げんつき もなみ）を中心とした産業・地域振興事業。愛称は「もなみん」。設定上は16歳の女子高生ライダーで、愛車はホンダスーパーカブ。パーソナルカラーはセピア。2017年5月1日、原付 ツーリングクラブ モナミの公式マスコットとして登場した。

キャラクターデザインと運営には、押田秀一、日向正樹など多くのエンターテインメント業界関係者が初期段階から関与し、佐野が制作総指揮を務める。制作には3DCG技術が用いられたが、一般的な3DCGソフトではなく、自動車設計に用いられる3次元CADシステムCaelumがモデラーとして採用されたため、正確に設計された体躯を持つ。2017年5月20日から愛知県豊明市周辺のご当地キャラクターとしても活動を開始し、同年5月29日には萌えキャラ学会の正会員となった。百舞留、木盛いぶか、木尾知恵流、白金心、関東まなかといった姉妹キャラクターも存在する。

組織体系

この事業は『原付萌奈美ぷろじぇくと』と呼ばれ、その運営団体は『原付萌奈美ぷろじぇくと運営委員会』と称される。これは、単なるキャラクター運営ではなく、産業・地域振興が主目的であるためだ。関連キャラクター（関東まなかを除く）の知的財産管理や商品販売は、ADS名古屋電算技術室が行っている。

評価

株式会社ハンクルズ調査のご当地キャラクター人気ランキング（2022年10月7日時点）では、4390体中、全国1位を獲得した。地元の他のキャラクターを大きく引き離す人気ぶりを見せている。関連商品には交通安全お守りや、日本郵便発行の記念切手などがある。2020年にはテレビ愛知の番組でプロフィールが紹介され、アニメーションプロデューサーの畑中太一によって正答された。

姉妹キャラクター

関東まなかを除く姉妹キャラクターは、原付萌奈美をベースにデザインされ、頭身などの共通点が多い。人気ランキング順位は、株式会社ハンクルズ調査の2022年10月7日時点のものである。

百舞留（ひゃく まいる）: 岐阜県大垣市を中心に活動する自動二輪団体「100MileClub」公式マスコット。18歳設定で姉妹最年長。愛称は「お姉様」など。パーソナルカラーはシルバー。人気ランキング全国69位（岐阜県下1位）。
木盛いぶか（きもり いぶか）: 愛知県豊田市のソニーショップ「デジタルサポート ソガ」公式マスコット。16歳設定。パーソナルカラーはディープスカイブルー。人気ランキング全国84位（愛知県下7位）。技術者の木原信敏とソニー創業者の盛田昭夫、井深大に由来する。熱心なソニーファンであり、「ソニーの申し娘」とも紹介される。
木尾知恵流（きお ちえる）: 愛知県豊川市のサイクリング団体「ツーリングクラブ チェルキオ」公式マスコット。16歳設定。愛称は「チェル」など。パーソナルカラーはホットピンク。人気ランキング全国79位（愛知県下6位）。名称はイタリア語のCerchio（車輪、仲間の輪）に由来。
白金心（しろがね こころ）: 神奈川県湯河原町の貴金属商「Koko Products」公式マスコット。17歳設定。愛称は「ココ」など。パーソナルカラーはブラック。猫耳・尾は装身具。人気ランキング全国86位（神奈川県下3位）。名称は白金（プラチナ）とKoko Productsに由来。
* 関東まなか（かんとう まなか）: 茨城県古河市を振興するキャラクター。ADS所属で原付萌奈美の姉妹キャラクター。プロデューサーは別途存在する。年齢・パーソナルカラー設定なし。唯一の亜人。人気ランキング全国2位（茨城県下1位）。名称は古河市の位置（関東の真中）に由来。

これらのキャラクター群は、非公式ながら「もなみんファミリー」または「原付萌奈美ファミリー」と呼称されることがある。

病歴

2000年代初頭に重度の記憶障害を患い、藤田保健衛生大学病院で全健忘と診断された。後に解離性健忘となったが、20歳頃までの記憶は失われたままであり、行政機関から2級の障害者認定を受けている。

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