和気真綱

和気真綱（わけのまつな）は、平安時代初期に活躍した公卿であり、民部卿を務めた和気清麻呂の五男として生まれました。その生涯は、学問への情熱と、官吏としての献身、そして仏教への深い信仰心に彩られています。最終的な官位は従四位上・参議にまで昇り、贈正三位を追贈されています。

若き日の研鑽と官界での活躍

真綱は幼少の頃から学問に励み、特に史伝を深く読み解きました。20歳で文章生に選ばれ、804年には内舎人に任じられ官吏としての第一歩を踏み出します。平城朝では治部少丞や中務少丞を歴任し、その才能を徐々に開花させていきました。

嵯峨天皇の時代に入ると、真綱は播磨少掾、大掾、蔵人、春宮少進と順調に昇進し、815年には従五位下・春宮大進に叙任されます。その後も、左右少弁、左右少将を歴任し、822年には従五位上、そして824年には正五位下に昇進しました。また、この年には父・清麻呂が建立し、桓武天皇が定額寺とした神願寺の寺域が荒廃していたため、弟の仲世と共に、高雄山寺の寺域との交換を願い出て、新たに神護国祚真言寺として定額寺にすることを認められました。

淳和朝から仁明天皇の時代にかけては、大弁や中弁など数々の重要な官職を歴任し、その手腕を発揮します。828年には従四位下、837年には従四位上・左近衛中将兼右大弁に叙任され、840年には参議に任命され、公卿の仲間入りを果たしました。左近衛中将在任中には、俸禄と私財を投じて摂津国の良田を購入し、近衛府の財政を支えたという逸話も残っています。

承和の変と最期

真綱は、右大弁として、842年の承和の変や845年の善愷訴訟事件の審理にも携わりました。しかし、善愷訴訟事件を巡り、部下である右少弁・伴善男の告発を受け、大きな衝撃を受けます。真綱は、不正な裁判への憤りから、「塵の立つ道は人の目を遮ってしまう。不正な裁判の場で、一人で直言しても何の益があるだろうか。官職を辞めるべきだ。早く冥土に向かおう。」と嘆き、自ら自宅の門を閉ざし、その直後に憤死したと伝えられています。

真綱の死後、彼を告発した伴善男を含む4人の弁官は位記を剥奪され、贖銅を科せられましたが、真綱は既に亡くなっていたため、処罰を免れました。その死は、彼が不正を許さない強い信念を持っていたことを物語っています。

人となり

真綱は、生まれつき人情に厚く、忠孝を兼ね備えた人物であったと評されています。公務に当たっては、私欲や不正を一切行わず、常に公正な判断を下しました。また、仏教への信仰心も篤く、天台宗と真言宗の立宗には、兄の広世と共に尽力したと言われています。

官歴

以下に、真綱の主な官歴をまとめます。

802年: 文章生
804年: 内舎人
809年: 治部少丞、中務少丞
811年: 播磨少掾
812年: 播磨大掾
813年: 蔵人
814年: 春宮少進
815年: 従五位下、春宮大進
817年: 刑部少輔
820年: 右少弁、左近衛少将
821年: 左少弁、右近衛少将、従五位上
823年: 兼内蔵頭、兼民部大輔、兼中務大輔、兼越前守、兼修理大夫
824年: 兼河内守
827年: 右中弁、兼内匠頭
828年: 従四位下、兼摂津守
830年: 兼宮内大輔
831年: 兼刑部大輔
833年: 兼伊予権守、木工頭
834年: 内蔵頭
835年: 右大弁
836年: 止内蔵頭
837年: 兼左近衛権中将、右大弁、兼左近衛中将
838年: 従四位上
840年: 参議、右大弁
844年: 兼美作守、右大弁
846年: 止弁、卒去（参議従四位上）、贈正三位

和気真綱は、その忠実な職務遂行、公正な人柄、そして悲劇的な最期を通して、後世にその名を残す人物となりました。

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