土方久功

土方久功（ひじかた ひさかつ）

概要

土方久功（1900年7月13日 - 1977年1月11日）は、日本の彫刻家であり、民俗学者としても活動しました。彼は、パラオをはじめとする南洋諸島での調査に基づいて、多くの民族学的資料を残し、その経験を活かした芸術作品を制作しました。彼の活動は、学術と芸術の境界を越え、両分野に大きな影響を与えました。

生涯

土方久功は1900年、東京に生まれました。父は陸軍砲兵大佐の土方久路、伯父は伯爵の土方久元であり、母方の祖父は海軍大将の柴山矢八という、由緒ある家系に育ちました。また、築地小劇場の演出家である土方与志はいとこ甥にあたります。

学習院初等科、中等科を経て、経済的な理由から東京美術学校（現在の東京芸術大学）彫刻科に進学しました。在学中には、三沢寛、林謙三、小室達、岡鹿之助、小泉清、山本丘人らと交流しました。1924年に同校を卒業後、土方与志が設立した築地小劇場のシンボルマーク「葡萄の房」をデザインしました。

1929年、土方はパラオに渡り、現地の公学校で図工教員として働く傍ら、パラオ諸島やヤップ島で詳細な調査を行いました。1931年からはヤップ諸島の最東端にあるサテワヌ島（現在のサタワル島）に7年間滞在し、この地での生活を通じて、島の人々の文化や習慣を深く理解しました。1939年にパラオに戻った後も、トラック諸島（現在のチューク諸島）、ポナペ島（現在のポンペイ島）、クサイ島（現在のコスラエ州）など、南洋各地を調査しました。1942年には小説家の中島敦と共に帰国、同年にはボルネオ調査団にも参加し、日本が統治していた北ボルネオを調査しました。

1944年、病気のため帰国し、岐阜県に疎開しました。第二次世界大戦終結後、1949年に東京都世田谷区に居を移し、彫刻家としての活動を再開しました。また、『サテワヌ島民話』（1953年）を出版し、文字を持たないサテワヌ島の民話をローマ字表記と日本語対訳で紹介しました。彫刻制作の傍ら、「非詩集ボロ」（1955年）、「青蜥蜴の夢」（1956年）などの詩集も刊行しました。さらに、福音館書店の編集者松居直の依頼で、1963年から1975年にかけて月刊絵本「こどものとも」で4冊の絵本を手がけました。

土方久功は、1977年1月11日に心不全のため76歳で生涯を閉じました。

家族

父：土方久路（1870-1919）
伯父：土方久元（伯爵）
母：初枝（男爵柴山矢八の長女）
兄：土方久俊
弟：土方久顕
妹：英子（中澤佑の妻）

主な業績

土方久功の主な業績には、以下のようなものがあります。

南洋諸島の民族学的調査：パラオ、ヤップ島、サテワヌ島をはじめとする南洋各地で、現地の文化、風習、言語、神話などを詳細に調査し、貴重な資料を収集しました。
彫刻作品の制作：南洋での経験を基に、数多くの彫刻作品を制作しました。彼の作品は、南洋の文化や自然を独自の視点で捉え、表現していることで知られています。
『サテワヌ島民話』の出版：文字を持たないサテワヌ島の民話を記録し、ローマ字表記と日本語訳を付して紹介しました。この書籍は、サテワヌ島の文化を後世に伝える上で重要な役割を果たしました。
絵本の制作：福音館書店の「こどものとも」で絵本を制作し、子供たちに異文化への関心を促しました。

作品リスト

以下は、土方久功の主な著書と絵本です。

『ヤップ離島サテワヌ島の神と神事』、南洋群島文化協会、1940年
『パラオの神話伝説』、大和書店、1942年
『流木』、小山書店、1943年
『太平洋圏 上』、編集太平洋協会、出版河出書房、1944年
『東亜論叢』、編集・出版文求堂、1941年
『文化の果にて』、竜星閣、1953年
『サテワヌ島民話』、三省堂出版、1953年
『山の上の火』、ハロルド・クーランダー / ウルフ・レスロー、岩波書店、1963年
『現代のエスプリ 22 神話』、至文堂、1967年
『流木=ミクロネシアの孤島にて』、未來社、1974年
『覆刻サテワヌ島民話』、アルドオ、1975年
『土方久功遺稿詩集』、草原社、1978年
『青蜥蜴の夢』、土方敬子編、草原社、1982年
『ミクロネシア=サテワヌ島民族誌』、校訂・解説須藤健一、未來社、1984年
『パラオの神話伝説』、三一書房、1985年
『土方久功著作集』（全8巻）、三一書房、1990年 - 1993年
『土方久功展』、世田谷美術館編・出版、1991年

こどものとも

『おおきなかぬー』、共著大塚勇三、福音館書店、1963年
『ゆかいなさんぽ』、福音館書店、1965年
『ぶたぶたくんのおかいもの』、福音館書店、1970年
『おにより つよい おれまーい』、福音館書店、1975年

参考文献

松居直『絵本・物語るよろこび』福武文庫・福武書店、1990年。
岡谷公二『南海漂泊　土方久功伝』河出書房新社、1990年
清水久夫『土方久功正伝』東宣出版、改訂版2023年。

関連事項

築地小劇場
ポゥ
南洋庁
ストーリーボード (パラオ)
環礁 (紀行)

外部リンク

土方久功 年譜 - やしの実大学ウェブサイト内

土方久功は、その幅広い活動を通じて、日本の学術・芸術界に大きな足跡を残しました。彼の作品と業績は、今もなお多くの人々に影響を与え続けています。

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