尾高惇忠 (作曲家)

尾高 惇忠

日本の作曲家、尾高 惇忠（おたか あつただ）は、1944年3月10日に東京都で生を受け、2021年2月16日に76歳で世を去りました。教育者としても大きな足跡を残し、東京藝術大学名誉教授、桐朋学園大学特任教授を務めました。その功績に対し、従四位の位階と瑞宝小綬章が追贈されています。

尾高惇忠は、著名な音楽家一家に育ちました。父は作曲家・指揮者として知られる尾高尚忠、母はピアニストの尾高節子です。弟には指揮者の尾高忠明がいます。妻は声楽家の尾高綾子でした。父方の一族は、法哲学者の尾高朝雄や社会学者の尾高邦雄といった学者を多数輩出した家系であり、さらに明治期の実業家として知られる同名の曾祖父、尾高惇忠がいます。また、その曾祖父の従弟であり妹婿にあたる実業家、渋沢栄一もまた尾高惇忠にとっての曾祖父にあたり、渋沢家との親戚関係を持ちました。従兄の会計学者、諸井勝之助を通じて、作曲家の諸井三郎、諸井誠の親子とも縁戚関係を結んでいます。母方の親族では、チェリストの倉田澄子が従姉にあたり、女優・演出家の長岡輝子が伯母にあたります。このように、尾高惇忠は日本の財界、学界、芸術界にわたる広範な親族ネットワークを持つ環境で育ちました。

音楽の道に進んだ尾高は、東京藝術大学音楽学部作曲科で学びました。作曲を矢代秋雄、池内友次郎、三善晃に師事し、ピアノを安川加壽子に学びました。1966年3月に同大学を卒業後、同年9月にはフランス政府給費留学生としてパリ国立高等音楽院に進学。モーリス・デュリュフレ、マルセル・ビッチュ、アンリ・デュティユーといった大家に師事し、1970年に同音楽院を卒業しました。フランスで培った深い音楽的素養は、その後の創作と教育活動の基盤となりました。

帰国後も作曲活動に加え、ピアニストとしても活躍し、特に室内楽や歌曲伴奏で優れた演奏を披露しました。教育者としては、長年にわたり母校である東京藝術大学で教鞭を執り、2011年3月31日まで音楽学部作曲科教授を務めました。フランス音楽のアカデミズムの伝統を受け継ぎ、師である矢代秋雄の業績を継承する形で、東京藝術大学における作曲教育の中心的な役割を果たしました。多くの才能あふれる音楽家が彼の門下から育ち、その中には鈴木行一、森垣桂一、山口哲人、鈴木理恵子、広上淳一、堀俊輔、鈴木優人、中村絢、中本芽久美、堀優香、松本望などがいます。

尾高惇忠の作品は、精緻な構成と豊かな響きを特徴としています。主要作品には、オーケストラのための『イマージュ』（1981年度、第30回尾高賞受賞）、独奏チェロのための「瞑想」（1983年）、弦楽四重奏曲、オーケストラのための肖像、混声合唱とオーケストラのための『光の中』、オルガンとオーケストラのための幻想曲（2001年度、別宮賞受賞）などがあります。また、ピアノ・ソナタ、二台のピアノのための「響奏」（2006年）といった鍵盤楽器作品や、吹奏楽のための“ファンファーレ・フーガ・コラール”も作曲しました。晩年には「交響曲〜時の彼方へ〜」（2012年度、第60回尾高賞受賞）を発表し、高い評価を得ました。チェロ協奏曲、ヴァイオリン協奏曲は、2021年に初演された遺作です。また、音楽理論に関する著作として『和声課題50選 著者レアリザシオン篇と課題篇』（全音楽譜出版社、2010年）があります。

2021年2月16日午前3時58分、大腸がんのため東京都内の病院で逝去しました。享年76歳でした。その墓所は多磨霊園にあります。

尾高惇忠は、作曲家としてのみならず、教育者、そしてピアニストとしても、日本の音楽界に多大な貢献をしました。フランスで培った洗練された感覚と、日本のアカデミズムにおける教育者としての情熱は、多くの後進へと受け継がれています。彼の作品は、今後も演奏され続け、その業績は長く記憶されるでしょう。

もう一度検索