平成17年台風第14号

平成17年台風第14号（ナービー）による災害

2005年8月、マリアナ諸島付近で発生した台風14号は、アジア名「ナービー」（韓国語で「蝶」の意味）と命名されました。この台風は、発達しながら西進し、非常に強い勢力で日本の南を北上しました。大東島地方や奄美地方を暴風域に巻き込みながら、ゆっくりとした速度で九州地方へ接近し、熊本県天草下島に上陸後、九州北部を通過して日本海へ抜けました。その後、北海道に再上陸し、オホーツク海へと進みました。

長時間暴風雨と記録的な降雨

台風14号は、広い暴風域を維持したまま比較的遅い速度で進んだため、各地で長時間にわたり暴風や高波、大雨が続きました。特に九州、中国、四国地方では、9月の月間平均雨量の2倍を超える記録的な降雨となり、宮崎県では1,000mmを超える降雨量を観測しました。宮崎県南郷村神門では1,322mm、えびの市では1,307mm、鹿児島県肝属郡肝属町肝属前田では956mmに達し、各地で日雨量の記録を更新しました。また、南大東島では最大瞬間風速55.6m/s、鹿児島県種子島では同59.2m/s、屋久島では同58.1m/sを観測しました。

広範囲に及ぶ甚大な被害

この台風により、九州地方を中心に土砂災害、浸水などの被害が広範囲に発生しました。特に、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県では被害が甚大でした。また、岡山県、広島県、香川県では高潮による浸水が発生しました。人的被害も大きく、宮崎県を中心に全国で死者・行方不明者は29人に達しました。

関東地方での局地的な豪雨

台風が日本の南海上を移動中、本州に停滞していた秋雨前線に向かって暖かく湿った空気が流れ込み、3日から5日にかけて、各地で激しい雨が降りました。特に、4日夕方から5日未明にかけては、東京都、埼玉県、神奈川県などの首都圏で大気の状態が不安定となり、局地的に1時間に100mmを超える猛烈な雨となりました。東京都杉並区では264mm、久我山では240mm、練馬区上石神井では240mmの降水量を観測しました。

各地の被害状況

九州地方: 宮崎市で竜巻が発生し、家屋や車が破壊。鹿児島県垂水市ではがけ崩れと鉄砲水で4人が死亡。宮崎県三股町では土砂崩れにより住宅が倒壊し2人が死亡。宮崎県北部の高千穂鉄道の鉄橋が崩落し、高千穂鉄道は廃線。宮崎県椎葉村、高千穂町で土砂崩れが発生し、死者・行方不明者が出ました。宮崎県の大淀川、五ヶ瀬川、小丸川流域では浸水が多発しました。熊本県五木村では国道445号が損壊しました。
四国地方: 瀬戸内海沿岸の都市では高潮による被害が発生。宇高国道フェリーでは強風にあおられ女性が海中に落下し死亡。愛媛県大洲市では肱川が氾濫、新居浜市では堤防が決壊しました。徳島県では自転車が水路に転倒し1人が死亡しました。
中国地方: 山口県岩国市の錦帯橋の橋脚が一部流失。山陽自動車道の一部が崩落し家屋が押しつぶされ3人が死亡。広島県宮島町の厳島神社が浸水。広島市では土石流が発生、草津漁港には流木やゴミが漂着。太田川放水路には砂洲ができました。
近畿・北陸地方: 福井県永平寺では渡り廊下が倒木で損壊。
* 関東地方: 9月4日から5日にかけて、積乱雲が数時間に渡って発生するバックビルディング現象が起き、各地で非常に激しい雨が降り、床上浸水などの被害が発生。特に東京都杉並区などでは1時間に100ミリ以上と東京都での観測史上最大の雨量が記録されました。

インフラへの影響

通信、電気、交通などのインフラにも大きな影響がありました。携帯電話の基地局が多数停止し、固定電話も不通になりました。各地でテレビ、ラジオの受信が困難になり、停電も広範囲に発生しました。九州のJR線はほぼ全線で運休し、航空便、高速バス、フェリーも運休が相次ぎました。宮崎県では、県都宮崎市と都城市を結ぶ交通が全て寸断されました。宮崎市の浄水場が浸水で機能停止し、水不足が発生しました。

その他

衆議院選挙期間中でしたが、選挙活動にも影響が出ました。また、農作物にも被害が出ています。

韓国での被害

韓国南部でも記録的な大雨となり、各地で洪水、浸水、土砂崩れが発生しました。

その後

この台風による災害は激甚災害に指定され、被災者生活再建支援法が適用されました。また、この台風のアジア名「ナービー」は、イスラム教の預言者名と同音であるため、使用中止となりました。これは、平成時代に日本本土に被害をもたらした台風で、アジア名が使用中止になった唯一の事例です。


この台風は、その広範囲に及ぶ被害と記録的な降雨により、日本の災害史に深く刻まれることとなりました。

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