恵帝 (西晋)

恵帝（けいてい）：愚帝と呼ばれた悲劇の皇帝

恵帝（司馬衷）は、西晋の第2代皇帝として即位しましたが、その暗愚さから西晋衰退の象徴として知られています。八王の乱と呼ばれる大規模な内乱が勃発し、恵帝自身もその争いに巻き込まれ、最終的には不審な死を遂げました。後世の歴史家からは、その無能さを厳しく批判されています。

生涯

皇太子時代

武帝（司馬炎）の次男として生まれた恵帝は、兄の早世により皇太子となります。しかし、その資質は早くから重臣たちによって危惧されていました。和嶠は恵帝の純粋すぎる性格を案じ、衛瓘は遠回しに皇太子廃立を進言しました。

武帝は恵帝の能力を試すため、尚書の業務を代決させますが、恵帝は答えられず、賈南風が用意した文章を書き写して提出。武帝はこれに満足し、廃立は免れました。また、側室の謝玖との間に司馬遹が生まれると、その聡明さから司馬炎に寵愛され、恵帝を後継者とした背景には、この孫への期待があったとも言われています。

楊氏の時代

290年、武帝の崩御により恵帝が即位。楊太后の父である楊駿が朝政を掌握し、政治の実権を握ります。しかし、楊駿は失政を重ね、人望を失い、汝南王司馬亮を警戒し誅殺を謀りますが、未遂に終わります。

賈南風は以前の恨みから恵帝を介して和嶠を詰問するなど、朝廷内は不安定な状況が続きました。

賈氏の時代

291年、賈南風はクーデターを起こし、楊駿一族を誅殺。政治の実権を握ります。恵帝は司馬亮と衛瓘に朝政を主管させますが、賈南風は司馬瑋を使って司馬亮と衛瓘を殺害。さらに司馬瑋を陥れ、処刑しました。これにより、賈氏一派が朝政を掌握し、国政は大いに乱れました。

賈南風は皇太子司馬遹を陥れようと画策し、酔った状態で書かせた文章を基に廃太子に追い込み、後に殺害します。これに対し、趙王司馬倫が司馬遹の仇討ちを名目にクーデターを起こし、賈氏一族を処刑。恵帝は司馬倫を相国に任じますが、司馬倫は次第に権力を掌握し、簒奪を企てるようになります。

司馬倫の簒奪

301年、司馬倫は恵帝から帝位を奪い、恵帝は太上皇として幽閉されます。しかし、三王（斉王司馬冏・成都王司馬穎・河間王司馬顒）が司馬倫討伐を掲げて決起。司馬倫は廃位され、恵帝は再び帝位に復帰します。

司馬冏の時代

司馬冏が輔政の任につきますが、専横な振る舞いが目立ち、司馬乂によって討伐されます。恵帝は司馬冏を助命しようとしましたが、叶いませんでした。

司馬穎・司馬顒の時代

司馬穎と司馬顒が対立し、恵帝は司馬乂討伐を命じますが、司馬乂は敗北。司馬穎が丞相となります。その後、司馬越が司馬穎討伐の兵を挙げると、恵帝は親征しますが敗北。司馬穎に連れ去られ、各地を転々とすることになります。最終的に洛陽に帰還しますが、司馬越によって長安へ移送されます。

306年、司馬越配下の祁弘らが長安を攻略し、恵帝は洛陽に帰還。しかし、その直後に毒殺されたとも言われています。

人物・逸話

恵帝の暗愚さを示す逸話は数多く残されており、「蛙は公事のために鳴いているのか、私事のために鳴いているのか」と尋ねたり、民衆が飢えで苦しんでいると聞くと「何故、肉粥を食べないのか」と言ったという話は有名です。

『晋書』では恵帝を「不才の子」と評し、王夫之は「歴代の皇帝の中でも匹敵するものがない愚か者」と酷評しています。しかし、一方で司馬光は嵆紹の死に関する話から、「実は司馬衷は暗愚ではなく、暗愚を装っていたのではないか」という擁護論も唱えています。

治世

恵帝の治世は、八王の乱によって社会が混乱し、綱紀が乱れ、賄賂が横行するなど、政治腐敗が深刻化しました。高平王司馬沈や魯褒、杜嵩らは、当時の政治腐敗を憂い、それぞれの著作で批判しました。

宗室

后妃

皇后賈南風
皇后羊献容（後に前趙皇帝劉曜の皇后）
淑妃謝玖（愍懐太子司馬遹の母）

子女

愍懐太子 司馬遹（謝玖との子）
河東公主（賈南風との子）
始平公主（賈南風との子）
弘農公主 司馬宣華（賈南風との子）
哀献皇女 司馬女彦（賈南風との子）
清河公主（羊献容の娘とも）

在位中の年号

永熙（290年）
永平（291年）
元康（291年-299年）
永康（300年-301年）
永寧（301年-302年）
太安（302年-303年）
永安（304年）
建武（304年）
永興（304年-306年）
* 光熙（306年）

恵帝の治世は、西晋衰退の始まりを告げる時代であり、その悲劇的な生涯は、後世に多くの教訓を残しました。

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