慕輿根

慕輿根（ぼよ こん）

慕輿根（生年不詳 - 360年）は、五胡十六国時代の前燕に仕えた鮮卑族出身の将軍です。弓術に長け、数々の戦で武功を挙げ、慕容皝、慕容儁の時代に重用されました。しかし、晩年には権力争いに巻き込まれ、悲劇的な最期を遂げます。

生涯

前燕の猛将として

慕輿根は元々、大人（部族長）として榼盧城を統治しており、前燕の慕容皝に服属していました。その卓越した弓術の腕を見込まれ、慕容皝に将軍として取り立てられ、側近として仕えるようになります。

338年、後趙の石虎が数十万の兵を率いて前燕に侵攻すると、慕容皝は一時、本拠地の棘城を放棄して後退しようと考えます。しかし、慕輿根は「今は籠城すべき」と強く諫めました。慕輿根は昼夜にわたり決死の防戦を指揮し、後趙軍の猛攻を10日以上にわたって耐え抜き、遂に後趙軍は撤退しました。この功績により、慕容根は折衝将軍に昇進しました。

339年、慕容評らと共に後趙領の遼西へ侵攻し、千家余りを捕獲。帰還の際には、後趙の将軍らを打ち破り、首級を挙げるなどの戦功を挙げました。

344年の宇文部征伐では、慕容恪、慕容翰らと共に従軍し、宇文部の壊滅に大きく貢献しました。

346年、慕容儁の指揮の下、夫余討伐に参加し、本拠地を攻略。玄王と部落民5万余りを捕虜とするという大戦果を挙げました。

中原進出への貢献

348年に慕容皝が亡くなり、慕容儁が即位すると、慕輿根は引き続き重用されます。

349年、後趙で内乱が勃発すると、慕輿根は慕容儁に進言し、中原奪取の好機を逃すべきではないと説きました。「中華の民は石氏の乱に苦しんでおり、我らに救いを求めている」と述べ、慕容儁の出兵を促しました。この進言がきっかけとなり、慕容儁は遂に中原への進出を決意します。

350年からの後趙討伐戦にも参加。魯口を守る鄧恒配下の将軍、鹿勃早の夜襲を受けた際には、慕容儁に退却を進言する家臣がいるなか、「敵は少数であり、恐れるに足りません」と進言し、自ら精鋭を率いて鹿勃早を打ち破りました。

352年、慕容儁は冉魏の都である鄴を攻略。慕輿根も慕容評、慕容軍らと共に鄴の攻略に貢献しました。

358年、慕容評が馮鴦討伐に苦戦すると、慕容儁は慕輿根を派遣。慕輿根は馮鴦の配下との間に疑念を生じさせ、馮鴦を野王へ敗走させました。

国政を乱す

360年、慕容儁が崩御し、慕容暐が即位すると、慕輿根は大司馬慕容恪、司徒慕容評、司空陽騖と共に輔政を託されます。太師に抜擢され、国政の中枢を担うようになりますが、慕容恪を軽んじ、朝廷を混乱させようと画策しました。

皇太后の可足渾氏が政治に深く介入している状況を利用し、慕容恪に「主上が幼く、母后が政治に干渉している。身の安全を保つためには、主上を廃して王になるべきだ」と進言し、両者を仲違いさせようとしました。しかし、慕容恪は激怒し、慕輿根を叱責しました。

その後、慕輿根は武衛将軍慕輿干と結託し、慕容恪と慕容評を誅殺しようと企みます。可足渾氏と慕容暐に「慕容恪と慕容評が謀反を企てている」と偽りの進言を行いましたが、慕容暐に見抜かれ、失敗に終わりました。

慕輿根の度重なる問題行動により、慕容恪は遂に誅殺を決意。慕容評と謀り、慕輿根の罪状を奏上しました。慕輿根は捕らえられ、宮殿内で処刑。妻子や側近も処刑され、その首は東市に晒されました。

人物

慕輿根は無骨で頑固な性格であったとされています。騎射の腕は卓越しており、数々の合戦で武功を挙げました。また、戦略面においても優れた才能を発揮し、国家の発展に貢献しました。

しかし、朝廷の重臣となってからは、過去の功績を誇示し、傲慢な態度を取ることが多かったと史書には記されています。

逸話

ある時、慕輿根は慕容皝に従って狩猟に出かけた際、高い崖の上にいた羊を、他の者が誰も射ることができなかったのに対し、一発で射抜きました。このことから、慕容皝は慕輿根をただ者ではないと感じ、側近くに仕えさせるようになったと言われています。

慕輿氏について

慕輿氏の起源には諸説あります。『通志』では、慕輿氏は慕容氏のことであり、音が訛って慕輿となったとされています。一方、『資治通鑑』の胡注では、慕輿部は元々慕容部とは異なる鮮卑の一種族であり、慕容部に服属するにつれて漢化し、種族名を姓としたとされています。

同族で前燕に仕えた人物として、慕輿虔、慕輿干、慕輿龍などがいます。

参考文献

『晋書』巻109 - 111
『資治通鑑』「晋紀」巻96 - 101
* 『十六国春秋』「前燕録」

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