陽騖

陽騖（よう ぶ）

陽騖（よう ぶ、? - 367年）は、五胡十六国時代の前燕に仕えた人物です。字は士秋。右北平郡無終県（現在の中国河北省）の出身で、父は前燕の東夷校尉であった陽耽です。

生涯

父の陽耽が慕容廆（ぼよう かい）の重臣であったことから、陽騖も早くから慕容廆に仕え、平州別駕に任じられました。彼は、国を安定させ、強くするための策を献策し、その多くが採用されたため、慕容廆から才能を認められ、重用されるようになりました。その後、遼東郡太守に転任しています。

333年に慕容廆が亡くなると、子の慕容皝（ぼよう こう）が後を継ぎました。慕容皝は、帯方郡太守の王誕（おう たん）を左長史に任じようとしましたが、王誕は陽騖を推薦したため、慕容皝は陽騖を左長史に抜擢しました。左長史は右長史よりも高位でした。

337年、慕容皝が燕王に即位すると、陽騖は司隷校尉に任じられ、列卿・将帥の一員となりました。これが前燕の正式な建国とされています。慕容皝の時代、慕容仁（ぼよう じん）や段部、高句麗などとの戦いが頻繁にありましたが、陽騖は参謀として作戦を立案し、軍事的な計略を数多く提言しました。その功績により、建寧公に封じられています。

348年に慕容皝が亡くなると、子の慕容儁（ぼよう しゅん）が後を継ぎました。慕容皝は死の間際、慕容儁に「陽士秋（陽騖）は、高潔で忠義心があり、大事を任せるに足る人物である」と言い残しました。慕容儁が即位すると、陽騖は郎中令に任じられ、左長史も引き続き兼任しました。

349年、輔義将軍に任じられ、慕容評（ぼよう ひょう）、慕容恪（ぼよう かく）と共に「三輔」と称され、中原攻略の大遠征軍の中核を担いました。350年に慕容儁が中原への侵攻を開始すると、陽騖も従軍し、各地で戦功を挙げました。特に、後趙の主要都市である薊（けい）や鄴（ぎょう）を陥落させるなど、大きな功績を挙げ、その軍功は慕容恪に次ぐものであったとされています。

352年、慕容恪や封奕（ほう えき）と共に、魯口（ろこう）に拠って安国王を自称していた王午（おう ご）討伐に向かいました。王午が降伏を申し出たため、前燕軍は城外の食糧を略奪してから撤退しました。同年、慕容儁が帝位に即くと、陽騖は尚書令に任じられました。

354年、司空に昇進し、尚書令も引き続き兼務しました。355年、慕容恪が広固（こうこ）に割拠する段部の首領段龕（だん かん）討伐の兵を挙げると、副将として従軍し、広固を陥落させることに貢献しました。

358年、後趙の遺臣である高昌（こう しょう）討伐に向かい、その本拠地である東燕（とうえん）を攻め落としました。その後、東晋の泰山郡太守諸葛攸（しょかつ ゆう）が東郡を攻撃してくると、慕容恪や楽安王慕容臧（ぼよう ぞう）と共に迎撃し、これを撃退しました。その後、河南の地を攻略しました。

後に司徒に任じられています。360年、慕容儁が亡くなると、慕容恪、慕容評、慕輿根（ぼよ こん）と共に、子の慕容暐（ぼよう い）の輔政を託されました。慕容暐が即位すると、陽騖は太保に任じられ、司空も引き続き兼務しました。彼は皇帝の教育係として慕容暐に尽くし、慕容暐からも厚く信頼されるようになりました。

365年、封奕の死後、太尉に任じられましたが、陽騖は自分の力量不足を理由に辞職を願い出ました。しかし、慕容暐はこれを認めませんでした。

367年12月に亡くなりました。その死を惜しまない者はいなかったと伝えられています。敬公と諡されました。

人物

陽騖は、品行方正で清廉な人物でした。節操を重んじ、謙虚で恭順な態度を崩さず、年を重ねるごとにその性質はますます強くなったと言われています。幼い頃から学問を好み、その器量と見識は深く広大であると評されました。4代に渡って前燕に仕え、周囲からの人望は絶大であり、慕容恪をはじめとする多くの人々が彼に敬意を払っていました。

倹約家であり、施しを好んだため、家には財産がほとんどありませんでした。いつも古い車に痩せた馬を牽かせていたと言われています。また、子孫の教育にも厳しく、規範を乱す者はいなかったと伝えられています。

家族

父: 陽耽 - 元々西晋の遼西郡太守であり、後に慕容廆に仕えた。
母: 李氏 - 博学で母の模範となる人物であった。
子: 陽瑶 - 前燕滅亡後に前秦に仕え、王猛の推挙で著作佐郎に任じられた。

参考文献

『晋書』巻108-111
『資治通鑑』巻095-101
『十六国春秋』前燕録

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