貿易銀

貿易銀とは

貿易銀（Trade Dollar）は、19世紀後半に貿易取引専用に発行された大型銀貨です。アメリカ、日本、イギリスなどが、通常の大型銀貨とは別に発行しました。ただし、メキシコ銀貨のように、国際市場で広く流通した1ドル銀貨と同サイズの洋銀を指すこともあります。

日本では、狭義には1875年（明治8年）から発行された「貿易銀」と表記された銀貨を指しますが、広義には1871年（明治4年）から発行された一円銀貨全体を指します。また、江戸時代に朝鮮との貿易のために特鋳された人参代往古銀も、貿易銀の先駆けといえます。この他にも、幕末に鋳造された安政二朱銀や長崎貿易銭など、貿易専用の貨幣が存在しました。

貿易銀の歴史

貿易銀の歴史は、ターラーにまで遡ります。15世紀後半から、西洋では大型銀貨が大量に鋳造され、中国など東洋からの胡椒や絹などの輸入決済に使われました。16世紀初頭にはボヘミアで銀鉱床が発見され、続いて新大陸で大規模な銀山が発見されると、大量の銀がヨーロッパに流入し、価格革命を引き起こしました。

1535年に鋳造が始まったメキシコドルは、1903年までに総発行額が約35億5000ドルに達し、世界各地で流通するようになりました。しかし、銀相場は不安定となり、19世紀にはヨーロッパ各国で金本位制が採用されるようになり、銀本位制から離脱する動きが進みました。

アメリカでの銀の増産も加わり、銀価格の下落が加速しました。そのため、余剰の銀需要を中国などの東洋諸国に求める動きが強まりました。アメリカやイギリスなどは、中国での貿易の主導権を握るために、自国で鋳造した銀貨を流通させようとしましたが、メキシコドルが依然として優勢で、時間と労力を要しました。

各国の貿易銀

アメリカ

アメリカは、中国との貿易を発展させるため、1873年に従来の1ドル銀貨の量目を増量した貿易銀を発行しました。これは、ネバダ鉱山の産銀の販路を開拓し、貿易商がメキシコ銀貨に支払っていたプレミアムを解消する目的がありました。貿易銀には、中国商人が銀品位を鑑定した刻印（チョップ）が多く見られます。

しかし、製造量に見合うほど輸出は伸びず、国内で流通する問題が発生しました。銀相場の下落により、貿易銀の地金価値は1ドル金貨を下回り、多くの銀地金が造幣局に持ち込まれ、貿易銀に鋳造されました。

1878年、アメリカ政府はブランド・アリソン法により、貿易銀の発行を中止し、量目を戻した1ドル銀貨（モーガンダラー）を発行しました。1873年の貨幣法で金本位制に移行していたため、復活した1ドル銀貨も補助貨幣とされました。1885年まで、プルーフ貨幣のみが少量製造されました。

日本

日本は、1871年（明治4年）の新貨条例で、貿易一圓銀貨を金貨と同等と定め、自由鋳造を認めました。しかし、メキシコ銀貨が日本の銀貨より量目がわずかに勝っていたため、流通が阻害されていると考えました。1873年にアメリカが貿易銀を発行したことを受け、日本も1875年（明治8年）に「貿易銀」と表示を改め、量目を増やした貿易銀を発行しました。

1876年（明治9年）には、貿易一圓銀貨と金貨を等価に変更し、1878年（明治11年）には、貿易一圓銀貨の国内一般流通を認めました。これは、アメリカとは異なり、貿易銀を本位貨幣として扱った政策でした。しかし、国際通貨としての地位を築けなかったため、同年、アメリカに追随して貿易銀の製造を停止し、貿易一圓銀貨に戻りました。

フランス

フランスは、1887年よりインドシナ東部を保護国とし、フランス本国の貨幣を法定通貨としました。しかし、フランスの5フラン銀貨はメキシコドルに比べて量目が不足しており、流通しませんでした。また、銀相場の下落により銀貨が還流する懸念もあったため、貿易専用の銀貨を発行することにしました。

1885年より、アメリカ貿易銀と同等の量目の貿易銀を発行しました。しかし、メキシコドルが依然として優勢だったため、この貿易ピアストルは、アメリカや日本の貿易銀と同様に退蔵され、広く流通しませんでした。1895年からは、量目を減量して発行し、次第に広く流通するようになりました。

イギリス

イギリスは、シンガポールや香港の設立に伴い、東洋との貿易に対する関心を高めました。様々な外国銀貨が流通する中、イギリス植民地の信頼が揺らいでいたため、貿易専用銀貨が必要となりました。アヘン戦争後、香港がイギリスに割譲されたこともあり、貿易港として栄え、貿易銀が用いられました。

1866年、香港造幣局で壹圓銀貨が製造されましたが、メキシコドルに対抗できず、短期間で製造を中止しました。その後、貿易の発展により通貨不足が生じたため、1895年から再び香港を中心に貿易銀を発行しました。この銀貨は中国国内でも流通し、裏面には漢字とマレー文字が表記されました。

イギリスの貿易銀は、416グレーンで日本の貿易一圓銀貨と同じ量目であり、主にインドで製造され、1937年に廃貨となりました。

各国貿易銀の発行枚数

[ここに各国の貿易銀の発行枚数を記述する。]

まとめ

貿易銀は、19世紀後半の国際貿易において重要な役割を果たした銀貨です。各国がそれぞれの思惑で発行しましたが、メキシコドルに対抗することができず、広く流通するには至りませんでした。しかし、貿易銀の発行は、当時の国際経済や各国の思惑を知る上で、重要な歴史的資料といえるでしょう。

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