木曾衆

木曽衆とは

木曽衆（きそしゅう）とは、関ヶ原の戦いの前哨戦である東濃の戦いで功績を挙げた、旧木曽氏の家臣団のことです。具体的には、山村氏、千村氏、馬場氏、三尾氏、原氏などが含まれます。彼らは、戦いの後、徳川家康から知行を与えられましたが、その後の歴史は各家で異なりました。

木曽衆成立の経緯

慶長5年（1600年）、徳川家康は木曽義利を不行状を理由に改易し、木曽氏は所領を失いました。しかし、同年、家康が会津征伐を行う際、山村良勝、千村良重、馬場昌次を召し出し、木曽の旧領を与えることを示唆し、西軍に付いた石川貞清から木曽谷を奪還するよう命じました。

山村良勝と千村良重は、甲斐や信濃に潜伏していた木曽氏の遺臣に檄を飛ばし、東軍に加わるよう呼びかけました。塩尻では山村良勝の弟である山村八郎左衛門が、甲斐では良勝の弟の山村清兵衛が合流しました。そして、8月12日には、石川貞清の家臣であった千村次郎右衛門、原図書助、三尾将監長次が内応し、良勝・良重軍は難なく砦を突破。中山道を進軍し、妻籠城を修築しました。

その後、家康の命を受けた大久保長安から軍令状が届き、美濃に進軍して西軍の城を攻略。遠山友政・遠山利景らと共に苗木城や岩村城を奪還しました（東濃の戦い）。

関ヶ原の戦いで東軍が勝利すると、家康は10月2日に山村良勝の父である山村良候を木曽代官に任命。木曽谷を知行所として与えようとしましたが、良候は中山道の重要性や木材資源の価値を鑑み、これを辞退しました。家康はこの申し出に感銘を受け、木曽衆に6,200石を加増した上で、木曽谷の代わりに美濃国内に知行所を与えました。これにより、木曽衆の合計知行地は16,200石8斗3升となりました。

各家の石高と知行地

徳川家康から与えられた当初の石高は以下の通りです。

山村甚兵衛良勝：4,600石
山村道祐良候（良勝の父）：1,300石
山村清兵衛道休（良勝の弟）：700石
山村八郎左衛門一成（良勝の弟）：500石
千村平右衛門良重：4,600石
千村藤右衛門政利（良重の弟）：300石
千村助右衛門重次（良重の従弟）：700石
千村次郎衛門重照（良重のはとこ）：600石
原図書助政重：800石
三尾将監長次：500石
* 馬場半左衛門昌次：1,600石

これらの知行地は、美濃国恵那郡、土岐郡、可児郡に点在していました。例えば、恵那郡では落合村、中津川村、駒場村など、土岐郡では釜戸村、日吉村、大湫村などが、可児郡では御嵩上之郷、久々利村、羽崎村などが含まれていました。

大坂の陣における木曽衆

慶長19年（1614年）の大坂冬の陣では、木曽衆は中山道の妻籠関所や贄川番所を守備しました。山村良勝・千村重長は二条城へ赴き、家康と秀忠に謁見しました。

元和元年（1615年）の大坂夏の陣では、木曽衆は先鋒として活躍し、天王寺口で戦いました。大坂城落城後、家康と秀忠に謁見して帰陣しました。

各氏のその後

山村氏

山村氏は、近江国山村出身の山村良道を祖とします。良道は木曽義元に仕え、その子孫は木曽氏の重臣として活躍しました。

山村甚兵衛良勝は、美濃国の中山道沿いの村々を領有し、久々利村に屋敷を構えましたが、木曽代官となったため木曽福島へ移りました。久々利村の屋敷は久々利役所として知行地の支配拠点とし、恵那郡の知行所は中津川代官所が管理しました。また、木曽福島の代官所では、幕府管轄の福島関所の管理や公儀御用の材木の伐採も担当しました。

江戸幕府からは、江戸に屋敷を拝領し、交代寄合となりました。尾張藩からも城代格・大年寄として名古屋に屋敷を拝領しました。

元和元年（1615年）、家康は山村良勝と千村良重を召し出し、木曽を尾張藩に加封する旨を伝えました。これにより、山村氏は尾張藩の重臣として、美濃国内の知行地を維持しました。

寛文4年（1664年）の林政改革後、木曽の山林は尾張藩が管理することになり、山村氏は美濃国内の知行支配と、木曽谷の村方支配、福島関所の管理に限定されました。

千村氏

千村氏は、木曽義仲の子孫である家村を祖とします。家村の五男の家重が上野国千村郷を領有し、千村氏を称しました。千村平右衛門良重はその末裔です。

千村良重は、関ヶ原の戦いの功績により、幕府の交代寄合となりました。美濃国内の知行地の他に、信濃伊那郡の幕府領6,197石の預地を支配し、遠州奥の山榑木奉行も兼務しました。

慶長6年（1601年）、可児郡久々利村に移り、千村陣屋を構えました。江戸と名古屋にも屋敷を与えられました。

大坂の陣では、冬の陣で妻籠関所、夏の陣では天王寺口で戦いました。

元和元年（1615年）、家康から木曽を尾張藩に加封する旨を伝えられましたが、信濃伊那谷と遠江北部にも所管地を持っていたため、尾張藩専属になることを躊躇しました。しかし、元和5年（1619年）に秀忠の命令により尾張藩の附属となりました。その後も幕府の役職を兼ねたため、実質的には幕府と尾張藩の両属的な立場となりました。

馬場氏

馬場氏は、木曽義仲の子孫である家村の三男、家景の玄孫の家次を祖とします。家次が信濃国伊那郡馬場に居住し、馬場氏を称しました。馬場半左衛門昌次はその末裔です。

馬場昌次は、関ヶ原の戦いの後、江戸幕府の旗本となり、美濃、甲斐に知行地を与えられ、釜戸村に陣屋を構えました。これにより、木曽衆の中で唯一、幕府直属の旗本として存続しました。

三代目の馬場利尚の時に、弟の馬場利興が分知を受け、旗本茄子川馬場氏が誕生しました。

久々利九人衆

久々利九人衆とは、元和3年（1617年）に尾張藩の給人となった、山村清兵衛家、山村八郎左衛門家、千村助右衛門家、千村次郎衛門家、千村藤右衛門家、千村九右衛門家、原図書助家、原藤兵衛家、三尾惣右衛門家の9家のことです。

彼らは、可児郡久々利村に屋敷を与えられ、美濃国内の尾張藩領の村々を知行地として、錦織村の材木御用などを月交代で務めました。

寛文5年（1665年）、宗門改めを巡って、山村甚兵衛家と千村平右衛門家の支配下となることを嫌い、尾張藩に直接手形を提出しようとしました。この対立から、寛文7年（1667年）に名古屋へ移住し、尾張藩の普請組寄合となりました。しかし、名古屋移住後、家格を維持することは困難であったようです。

三尾氏

三尾氏は、木曽義仲の七代孫の家村の四男、家光を祖とします。家光の十三代孫の長春が三尾郷に住み、三尾氏を称しました。三尾将監長次はその子です。

三尾長次は、東濃の戦いで内応し、山村・千村軍を勝利に導きました。その功により、久々利村と恵那郡に知行地を与えられました。

元和3年（1617年）に尾張藩の給人となり、久々利九人衆の一員として、可児郡錦織村で材木御用などを担当しました。尾張藩の世禄制廃止により、減禄されました。

尾張藩の世禄制廃止と久々利九人衆

尾張藩の世禄制は、寛文元年(1661年)に廃止されました。ただし、附家老や特別待遇の山村甚兵衛家と千村平右衛門家は除外されました。久々利九人衆を含む尾張藩士は、相続の度に減禄されることになりました。

寛文5年（1665年）、宗門改めを機に、久々利九人衆は山村家と千村家の組下となることを拒否し、直接寺社奉行に手形を提出しようとしました。これがきっかけで、久々利九人衆は名古屋へ移住し、尾張藩士として仕えることになりました。

まとめ

木曽衆は、関ヶ原の戦いを機に、徳川家康から知行を与えられた旧木曽氏の家臣団です。山村氏、千村氏、馬場氏、三尾氏、原氏などが含まれます。彼らは、それぞれ異なる道を歩みながらも、その多くは尾張藩の家臣として、明治維新までその歴史を繋ぎました。

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