東郷氏 (薩摩国)

東郷氏とは

東郷氏（とうごうし）は、日本の氏族の一つで、相模国渋谷氏の庶流にあたります。その発祥は薩摩国にあり、東郷別府（現在の鹿児島県薩摩川内市の一部）を本拠地としました。この地は、後の薩摩郡東郷、現在の薩摩川内市の一部にあたります。

歴史

薩摩下向と東郷統一

東郷氏の祖は、桓武平氏秩父氏の流れを汲む渋谷氏です。渋谷氏は相模国渋谷荘を領有していましたが、当主の渋谷重国が、その子らに領地を分与しました。次男の早川実重が東郷別府を与えられ、宝治2年（1248年）に他の庶流と共に薩摩国へ下向しました。これが、薩摩東郷氏の始まりです。

ただし、実重はすぐに東郷氏を称したわけではなく、最初は車内氏などを名乗っていました。東郷別府には、既に大前氏が勢力を持っており、実重はまず車内（現在の田海町）に館を築き、車内氏を名乗りました。その後、6代氏親の時代に大前氏の鶴岡城を奪い取り、東郷氏の本拠としました。さらに、大前氏の遺領が7代右重に与えられたことで、東郷別府の統一が完成しました。

南北朝期の混乱

南北朝時代に入ると、東郷氏は九州探題の今川貞世（了俊）に従い、幕府方として行動しました。しかし、了俊と島津氏の関係が悪化すると、東郷氏も島津氏と対立するようになります。また、渋谷一族内での所領争いも起こり、足並みが乱れることもありました。

島津氏が総州家と奥州家に分裂すると、東郷氏は祁答院氏、入来院氏、高城氏とともに総州方につきました。鶴田氏は奥州方についたため、渋谷一族内でも対立が起こりました。最終的に総州家が勝利し、鶴田氏は没落しました。その後、東郷氏は一時的に奥州家へ寝返るも、最終的には総州家と結託し、奥州家の島津元久を討ちました。しかし、元久の跡を継いだ島津久豊が優勢となると、東郷氏は総州家を攻撃、島津氏の内部抗争に翻弄され、領主権維持に苦心しました。

9代重明の時代になり、ようやく東郷姓が定着しました。永享4年（1432年）には、守護の島津忠国が日向国山東の伊東氏攻略に失敗すると、渋谷一族を中心とした国人たちが一揆を起こし、東郷氏もこれに参加しました。その後も、渋谷一族は度々一揆を起こしましたが、島津氏の和睦によって鎮圧され、国人勢力は大きく削がれました。東郷氏も、所領に対して段銭を徴収するための厳しい基準値を受け入れざるを得ませんでした。

島津氏との対立と降伏

文明8年（1476年）には、島津氏内部で内紛が起こり、東郷氏は守護方に味方しました。しかし、島津氏の混乱は続き、東郷氏は薩州家に攻められるなど、翻弄されます。

15代重治の時代になると、東郷氏と薩州家の間で家臣殺害事件が起こり、両家の関係が悪化しました。天文16年（1547年）から、約20年に及ぶ争乱が始まりました。

一方、島津家内部では、島津忠良・貴久父子が薩摩・大隅・日向の三国統一を進めていました。祁答院氏が没落すると、東郷氏16代の重尚は入来院氏と連合して島津家と対立しましたが、永禄12年（1569年）に島津宗家に降伏し、所領を献上しました。これにより、東郷氏は島津家臣となり、東郷の地のみ安堵されました。

重尚には嗣子がいなかったため、島津家久の次男である重虎が養子となりました。重虎は後に島津氏に復姓し、島津忠仍と名乗りました。その後、重虎の嫡男である忠昌が東郷氏に復姓し東郷昌重と名乗りました。忠昌は後に樺山久尚の養子となり樺山久広と名乗りましたが、重虎の次男重経と三男重頼も東郷に復姓し、東郷氏の家名を継承しました。重頼の子である忠辰は、居住地の菱刈本城から本城氏を名乗っています。

歴代当主

1. 東郷実重（早川氏、車内氏を名乗る。紀実直の子とも）
2. 東郷忠重
3. 東郷重高
4. 東郷頼重
5. 東郷重親
6. 東郷氏親（重清、重幸、氏重、氏清、武重、重年とも）
7. 東郷右重（重喜、実久、助重、祐重とも）
8. 東郷重元（車内氏を称した）
9. 東郷重明（重光とも）
10. 東郷重隆（重際とも）
11. 東郷重信（重述とも）
12. 東郷重理
13. 東郷重信（弟重隆は高城氏を称する）
14. 東郷重朗（重朝とも）
15. 東郷重治（重張とも）
16. 東郷重尚（菱刈重州の三男。重綱とも）
17. 東郷重虎（島津家久の次男。後に島津に復姓し島津忠仍）
18. 島津忠昌（東郷に復姓し東郷昌重。後に樺山久尚の養子となり樺山久広）
19. 東郷重経

系図

(省略)

参考文献

『新薩摩学　中世薩摩の雄渋谷氏』（南方新社　2011年） ISBN 978-4-86124-207-6
稲葉行雄『「さつま」歴史人名集』高城書房出版、1991年6月。ISBN 4924752282。
鹿児島県史料刊行委員会編『本藩人物誌』鹿児島県立図書館〈鹿児島県史料集 13〉、1973年3月。