祥啓

祥啓（しょうけい）

祥啓は、生没年不詳の室町時代中期から後期にかけて活躍した画僧であり禅僧です。賢江祥啓（けんこうしょうけい）とも呼ばれ、字を賢江、号を貧楽斎と称しました。建長寺の書記役を務めていたことから「啓書記」とも呼ばれ、僧名としては元英祥啓を名乗りました。雪村と並び、室町後期の関東を代表する画人として知られています。

生涯

下野丸良氏の出身とされています。鎌倉五山第一位の建長寺の塔頭である宝珠院で書記を務めていたため、「啓書記」または「貧楽斎」と呼ばれました。絵画は初め仲安真康に学んだと伝えられています。文明10年（1478年）に上京し、芸阿弥に師事する一方で、東山御物の唐絵を研究しました。帰郷の際には、芸阿弥から画法伝授の証として「観爆図」（根津美術館蔵、文明12年（1480年）筆、重要文化財）を与えられています。

明応2年（1493年）に再び上洛し、相国寺に住み、横川景三、景徐周麟、黙雲龍沢、正宗龍統など多くの五山文芸僧と交流を深めました。また、改めて御物の中国絵画を学びました。基本的には周文様式を踏襲しつつも、雪舟風や狩野派の画法にも学び、自身の様式に取り入れました。祥啓は、中央の新しい画風を学び、それを独自の様式として発展させ、同時代の狩野正信や小栗宗湛・宗継らと並び、中央で流行した新様式の担い手の一人となりました。さらに、この新しい画風を関東画壇に伝え、指導的な役割も果たしました。祥啓の最後の事績は大永3年（1523年）まで確認されています。

最初の上洛時、場所は不明ですが「貧楽斎」という書斎を与えられ、貴重な御物の閲覧を許されるなど、手厚い待遇を受けていました。この背景には、都鄙和睦があり、祥啓は関東側の何らかの使命、室町将軍家の文化を視察する文化特使的な役割を担って上洛したと考えられています。二回目の上洛も明応の政変と同年にあたり、何らかの関係があった可能性も指摘されています。

当時の画僧としては珍しく、「風流な禅僧」（万里集九『梅花無尽蔵』）、「敏にして多芸」（月翁周鏡『貧楽斎詩叙』）と、その人柄を伝える史料が残されています。遺作は20数点ほど伝わっており、山水画では夏珪様の楷体水墨画がほとんどを占めています。弟子には、啓孫、興悦、僊可などがいます。

代表作

以下に、祥啓の代表的な作品を編年順に示します。

山水図 （根津美術館） - 一幅、紙本墨画淡彩、重要文化財、文明12年（1480年）
山水図 （東京国立博物館） - 一幅、紙本墨画淡彩
山水図 （ボストン美術館） - 一幅、紙本墨画、現存する唯一の横掛け軸作品
梅溪図 （静嘉堂文庫） - 一幅、紙本墨画淡彩、重要美術品、文明18年（1486年）
富嶽図 （東京国立博物館） - 伝祥啓、延徳2年（1490年）建長寺住持・子純得公賛、古河公方・足利成氏の子・足利政氏のために描かれたとされる
巣雪斎図 （静嘉堂文庫） - 一幅、紙本墨画淡彩、玉隠英璵序、重要美術品、明応6年（1497年）または明応8年（1499年）
喜江祖歓像 （建長寺） - 一幅、紙本墨画、玉隠英璵賛、重要文化財、明応9年（1500年）
鐘秀斎図 （京都国立博物館） - 一幅、紙本墨画淡彩、玉隠英璵序、重要文化財、永正3年（1506年）または永正15年（1518年）
山水図 （栃木県立博物館） - 一幅、紙本墨画淡彩
山水図 （ケルン東洋美術館） - 一幅、紙本墨画淡彩
春景山水図 （神奈川県立歴史博物館） - 一幅、紙本墨画淡彩
瀟湘八景画帖 （白鶴美術館） - 八面、紙本墨画淡彩、重要文化財
鍾馗抜鬼眼図 （頴川美術館） - 一幅、紙本墨画淡彩、大永3年（1523年）

その他

達磨図 （南禅寺） - 一幅、紙本墨画、重要文化財
白衣観音図 （建長寺） - 32幅、重要文化財、複数の画人による工房作との説もある
飼馬図 （根津美術館） - 双幅、紙本着色、重要美術品
花鳥図 （神奈川県立歴史博物館） - 一幅、紙本著色
花鳥図 （京都国立博物館） - 一幅、紙本著色
真山水図 （頴川美術館） - 一幅、紙本墨画淡彩
山水図 （メトロポリタン美術館） - 桃源瑞仙著賛

参考資料

中島純司 『日本の美術337 水墨画 祥啓と雪村』 至文堂、1994年 ISBN 978-4-7843-3337-0
栃木県立美術館 神奈川県立歴史博物館 企画・編集『関東水墨画の200年』展図録、1998年 ISBN 4-88758-001-0
相澤正彦、橋本慎司 『関東水墨画 型とイメージの系譜』 国書刊行会、2007年 ISBN 978-4-336-04347-4
橋本慎司 「祥啓筆 山水図」、『国華』第1359号第114編第6冊所収、2009年

関連項目

* 水墨画

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