稲葉正往

稲葉正往（いなば まさみち）

稲葉正往は、江戸時代前期から中期にかけて活躍した譜代大名であり、老中も務めた人物です。相模小田原藩の3代藩主、越後高田藩主を経て、下総佐倉藩の初代藩主となりました。父は老中首座を務めた稲葉正則で、母は毛利秀元の娘です。正成系稲葉家宗家の4代目にあたります。

生涯

正往は、父・正則が幕府で重用されていたこともあり、自身も早くから幕府に出仕しました。1651年には4代将軍徳川家綱に御目見えし、1663年には家綱の日光社参で先導役を務めています。

1680年、家綱が死去し、異母弟の綱吉が5代将軍に就任すると、父・正則が大政参与として幕政を一時取り仕切りました。正往は1681年に奏者番兼寺社奉行に就任し、その後、京都所司代に転任、3万石を与えられました。父が隠居すると、44歳で家督を相続し、小田原藩10万2000石を領しました。この時、弟たちに領地を分与し、3万石を幕府に返上しています。

京都所司代在任中には東宮御所の造営を担当しましたが、1684年、親戚の若年寄・稲葉正休が大老・堀田正俊を暗殺した事件に連座し、遠慮処分となりました。翌年、京都所司代を免職となり、越後高田藩に転封を命じられました。免職と転封の理由については、正休の事件に関係していたとする説もありますが、真相は不明です。

15年後の1700年、江戸城大留守居を経て、翌年には老中として幕政に返り咲き、領地も下総佐倉藩に移されました。赤穂浪士による吉良邸討ち入り（赤穂事件）の際には、月番老中として事件の事後処理に当たりました。浪士たちへの即時処分を避け、配慮を見せた一方で、柳沢吉保が登城する前に速やかに処理を開始するなど、老獪な一面も覗かせています。また、老職を務める傍ら、石州流茶道を嗜んでいました。

1707年に隠居し、家督を次男の正知に譲りました。8代将軍吉宗政権下では、先代の遺老として、酒井忠挙、小笠原長重と共に老中並の待遇を受け、江戸城にもしばしば召し出されています。1716年、77歳で死去しました。

人物

正室・石姫の父である保科正之、妹の夫である伊達綱村とは親交がありました。1673年には、保科正之の逝去直前に見舞いに訪れ、遺言を託されています。その内容は、子孫が家訓を守らない場合は、正則に注進すべしというものでした。正之の息子・正経の藩政を後見し、正経の母・お万の方の面倒も見ています。また、仙台藩では、父が後見を務めていた関係で、綱村と重臣たちの対立や隠居騒動の調停にも尽力しました。しかし、1712年から翌年にかけて、大学頭・林信篤と共に、仙台藩主・伊達吉村と安芸広島藩主・浅野吉長の和解に奔走しましたが、失敗に終わっています。

儒学者・谷時中の子、谷宜貞（一斎）を召し抱えましたが、宜貞は天文方・渋川春海と暦に関する論争を起こしています。

年譜

1640年：誕生
1681年：奏者番兼寺社奉行、京都所司代
1683年：家督相続、10万2000石を領有
1685年：京都所司代を免職、高田に国替
1700年：大留守居役
1701年：老中、佐倉に国替
1707年：老中辞任、隠居
1716年：死去

系譜

父母
父：稲葉正則
母：毛利秀元の娘
正室、継室
正室：石姫（保科正之の娘）
継室：持明院基定の娘
継々室：田辺某の娘
子女
次男：稲葉正知
松平定直正室
小笠原長円正室
養子女
稲葉正佐（実弟）
土井利知正室（実妹）

官位位階

1654年：従五位下丹後守
1681年：従四位下侍従
1707年：内匠頭

参考文献

宮崎十三八編『保科正之のすべて』新人物往来社、1992年。
下重清『幕閣譜代藩の政治構造』岩田書院、2006年。

関連項目

伊達騒動
* 江源武鑑

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