鳳来山東照宮

鳳来山東照宮（ほうらいさんとうしょうぐう）は、愛知県新城市にある鳳来寺山に静かに鎮座する神社です。正式名称は「東照宮」と称され、徳川家康を祀る社として、日光東照宮、久能山東照宮とともに「三大東照宮」の一つに数えられています。

祭神

主祭神として祀られているのは、徳川家康公（東照大権現）です。これに加えて、古くから鳳来寺山の鎮守とされる山王権現、熊野権現、白山権現の三神、「鎮守三社」が合祀されています。

歴史

鳳来山東照宮の創建は、江戸幕府三代将軍徳川家光の発願に始まります。慶安元年（1648年）4月、家光が日光東照宮へ参拝した際に、改めて『東照社縁起』を読み、徳川家康公が三河国設楽郡の鳳来寺と深い縁があったことに深く感銘を受けました。この縁に基づき、家光は荒廃が進んでいた鳳来寺の本堂と薬師堂の修復を発願するとともに、鳳来寺山に新たな東照宮を祀る計画を立てました。

造営事業は家光の命を受けた老中阿部忠秋や太田資宗らが推進しましたが、家光は慶安4年（1651年）6月に薨去（こうきょ）してしまいます。後を継いだ四代将軍徳川家綱は、太田資宗に加え、地元の大名である本多利長や小笠原忠知らに命じて、父の遺志を継ぎ造営事業を続行させました。

慶安4年（1651年）に社殿が完成すると、同年9月17日、江戸城内の紅葉山東照宮に祀られていた家康公の「御宮殿」（厨子）と神体である「御神像」が鳳来寺山へ遷されました。この遷祀が鳳来山東照宮の創建とされています。

遷祀に際しては、盛大な遷座祭が執り行われました。将軍家綱からは、家康公が関ヶ原の戦いの際に佩用（はいよう）したとされる太刀が神刀として奉納されたのをはじめ、諸大名からも太刀や灯篭などが多数奉納されたと伝えられています。以後、鳳来寺は東照宮の別当寺（管理寺院）と定められました。明暦2年（1656年）には幕府から470石の社領が寄進され、江戸時代を通じて幕府による社殿の修理が10回にわたって行われるなど、幕府から篤い保護を受けました。

家康公誕生にまつわる伝説

鳳来山には、徳川家康公の誕生にまつわる興味深い伝説がいくつか伝わっています。

一つは『東照社縁起』に記された話です。家康公の両親である松平広忠公とその正室於大の方（伝通院）は、子宝に恵まれなかったことを深く憂慮し、祈願のために夫妻揃って領内の鳳来寺に参籠しました。この時、於大の方が東方より現れた老翁から金色の珠を与えられる夢を見て、その後まもなく家康公を懐妊したと伝えられています。

また、鳳来寺に伝わる伝説では、家康公の出生日である天文11年（1542年）12月26日（旧暦）は、寅（とら）年・寅月・寅の日にあたる寅の刻（午前5時頃）であったとされます。そして、家康公の誕生と時を同じくして、鳳来寺薬師堂の本尊である薬師如来を守護する十二神将のうち、寅神である真達羅（しんだら）大将の神像が忽然と姿を消したといいます。その後、家康公が世を去ると、神像もひとりでに元の位置に戻っていたとされ、このことから家康公は真達羅大将の化身であったという伝承が語り継がれています。

社殿

鳳来山東照宮の社殿は、全て慶安4年（1651年）に造営されたもので、国の重要文化財に指定されています。

本殿：桁行（間口）3間、梁間（奥行）2間の入母屋造りで、正面に1間の向拝（こうはい）が付いています。屋根には千木（ちぎ）が置かれ、檜皮葺（ひわだぶき）の屋根が特徴です。
中門：本殿の正面に位置する、1間幅の平唐門（ひらからもん）です。
透塀（すきべい）：中門から左右に折れ曲がり、本殿を囲んでいます。延長は柱間数で25間（約45メートル）あり、檜皮葺きです。
拝殿・幣殿：拝殿は桁行3間、梁間2間の入母屋造りで、正面に1間の向拝があります。その背面中央には、桁行2間、梁間1間の切妻造妻入（きりづまづくりつまいり）の幣殿（へいでん）が接続しており、これらが一体となって一棟を形成しています。こちらも檜皮葺きです。
石柵：拝殿の外側を囲むように設けられた石造りの柵で、延長約76.5メートルあります。国の重要文化財です。
水屋（手水舎）：石柵の外にある、参拝者が手や口を清めるための建物です。方1間、切妻造りの檜皮葺きで、内部の水盤を含め国の重要文化財に指定されています。

文化財

鳳来山東照宮には、国の重要文化財をはじめ、多数の貴重な文化財が伝わっています。

重要文化財（国指定）

以下の建造物は、附（つけたり）指定のものを除き、昭和28年（1953年）11月14日に指定されました。

本殿：1棟
附　石柵：1棟
附　石燈籠：2基（慶安4年9月17日、吉田城主小笠原忠知奉納）
附　板札：1枚
附　棟札：3枚
中門：1棟
左右透塀：2棟
拝殿・幣殿：1棟
水屋：1棟（水盤を含む）

愛知県指定有形文化財

黒漆金銅装宮殿（鳳来山東照宮本殿納置）：1基（令和4年1月28日指定） - 本殿内に納められている宮殿です。

新城市指定有形文化財

鳳来山東照宮御神宝群（令和4年3月3日指定） - 以下の多数の神宝・神具などが指定されています。
神宝：17点（太刀3、太刀金具等5、弓・矢5、弓箱3、鉾1）
本殿神宝：12点（金榊2、瓶子4、盃3、鏡1、供物台1、天目台1）
幣殿神具：9点（八足机3、蝋台2、机1、榊立2、太鼓1）
神具：2点（平箱1、台子1）
その他：3点（太刀袋2、折紙1）

その他

鳳来山東照宮の境内を含む鳳来寺山全体が、国の名勝及び天然記念物に指定されており、豊かな自然景観も魅力です。

主な行事

年間を通じて、以下のような祭典が執り行われています。

元旦祭：1月1日
祈年祭：旧暦1月3日
例祭：4月17日（徳川家康公の命日）
創建記念祭：9月17日
新嘗祭：11月23日
生誕祭：12月26日（徳川家康公の誕生日）
* 月次祭：毎月17日

鳳来山東照宮は、家康公と鳳来寺山の深い縁、そして江戸幕府によって造営・保護された歴史を今に伝える貴重な存在です。荘厳な社殿群と豊かな自然、そして家康公にまつわる伝説が、訪れる人々に歴史の重みを感じさせてくれます。

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