1971年の日本

1971年の日本（昭和46年）

1971年、日本は昭和46年を迎えました。神武天皇即位紀元では皇紀2631年、干支は辛亥にあたります。この年は、人口動態では第二次ベビーブームの最中にあり、社会全体に活気が見られる一方で、高度経済成長の負の側面である公害問題が深刻化し、企業責任を問う裁判や判決が相次ぎました。また、人々の生活や文化にも大きな変化の兆しが現れました。

社会・政治・経済の主な動き

政権は佐藤栄作内閣が担い、夏の参議院議員通常選挙を経て、7月には第3次佐藤改造内閣が発足しました。内閣官房長官は保利茂氏から竹下登氏に交代しています。

この年の日本の外交において最も重要な課題の一つが沖縄返還でした。アメリカとの間で沖縄返還協定が調印され、国会では「沖縄国会」と呼ばれるほど、その批准を巡る審議に多くの時間が費やされました。しかし、協定の内容に対する反対運動も全国で展開され、特に11月には沖縄返還反対デモが過激化し、日比谷公園内の松本楼が全焼する事件も発生しました。

経済面では、8月にアメリカのニクソン大統領によるドルと金の交換停止宣言（ニクソン・ショック）を受けて「ドルショック」が発生。株式市場が暴落し、それまで固定相場制だった円は変動相場制へ移行しました。これは後の日本経済に大きな影響を与える出来事となります。年末には10ヶ国蔵相会議でスミソニアン体制が発足し、新たな国際通貨体制の下、1ドル＝308円というレートが決定されました。

環境問題への意識の高まりを背景に、7月には公害対策本部を発展させる形で環境庁（現在の環境省）が発足しました。これにより、公害対策が国の主要な政策課題として位置づけられることになります。また、水俣病やイタイイタイ病など、各地で発生した公害を巡る訴訟では、企業側の責任を認める判決が下されました。

大きな事故や事件も発生しました。3月には富士急行線での列車脱線事故で多数の死者が出ました。7月には函館でのYS-11墜落事故、岩手県雫石上空での自衛隊機と全日空機の空中衝突事故と、航空機事故が立て続けに発生し、多くの犠牲者を出しました。10月には近鉄大阪線で特急列車同士が正面衝突する大惨事も起きています。千葉県では新東京国際空港（現在の成田国際空港）建設を巡る第二次代執行が開始され、地元住民や学生との激しい衝突が発生し、警察官が殉職するという悲劇も起きました。

交通インフラとしては、東北新幹線や上越新幹線、成田新幹線の基本計画が告示され、高速自動車国道としては三大都市圏以外で初の開通となる九州縦貫自動車道の一部区間が開通しました。都市部では営団地下鉄千代田線の一部区間が開業し、国鉄常磐緩行線との相互直通運転が開始されたほか、名古屋市営地下鉄名城線、札幌市営地下鉄南北線が開業しました。一方で、地方のローカル線や路面電車の廃止も相次いだ年でもあります。

文化・エンターテインメント・流行

この年は、食文化において大きな変化の年となりました。日本マクドナルドやロイヤルホストの国内1号店が開店し、藤田田氏が日本マクドナルドを創業。日清食品からは画期的なインスタント食品であるカップヌードルが発売され、新たな食のスタイルが提示されました。ハンバーガーを立ち食いするスタイルには、当時の社会から批判的な声も上がりました。

エンターテインメント分野でも、新しい潮流が生まれました。ラジオの深夜放送が若者を中心に人気を集め、ボウリングが大ブームとなり、テレビ中継も盛んに行われました。ファッションではTシャツ、ジーパン、ホットパンツといったカジュアルなスタイルが浸透し、男性の長髪も流行しました。スマイリーフェイスやアメリカンクラッカーといったアイテムも人気となりました。

出版界では、若い女性向けのファッション雑誌『non-no』が創刊され、『anan』と並んで人気を博しました。ベストセラーには、イザヤ・ベンダサン『日本人とユダヤ人』や高野悦子『二十歳の原点』などがランクインしました。文学賞では、芥川賞に李恢成氏と東峰夫氏が、第1回日本陶芸展や第2回現代国際彫刻展が開催されるなど、美術界でも新たな動きがありました。

音楽シーンでは、アイドル全盛時代の幕開けを告げる「新三人娘」こと小柳ルミ子、南沙織、天地真理が相次いでデビューしました。一方で、人気グループ・サウンズのザ・タイガースが解散し、沢田研二氏がソロ活動を開始しました。また、後のトップアイドルを多数輩出することになるオーディション番組『スター誕生!』が放送を開始しました。海外からはピンク・フロイドやレッド・ツェッペリン、エルトン・ジョンといった大物アーティストが来日し、日本の音楽ファンを熱狂させました。第13回日本レコード大賞は尾崎紀世彦氏の「また逢う日まで」が受賞しています。

テレビ放送では、この年の4月に特撮ドラマ『仮面ライダー』が始まり、子供たちの間で大人気となりました。同じく特撮の『帰ってきたウルトラマン』『ミラーマン』なども放送されています。バラエティ番組では『新婚さんいらっしゃい!』や『スター誕生!』などがスタートしました。また、テレビアニメも多数制作され、『ルパン三世』や『天才バカボン』などの放送が開始されました。

映画では、山田洋次監督の「男はつらいよ 寅次郎恋歌」や岡本喜八監督の「激動の昭和史 沖縄決戦」などの邦画や、「ある愛の詩」「小さな恋のメロディ」「時計じかけのオレンジ」といった話題の洋画が公開されました。日活が「日活ロマンポルノ」の制作・公開を開始したのもこの年です。

スポーツ界では、読売ジャイアンツが日本シリーズで阪急ブレーブスを破り、日本シリーズ7連覇（V7）を達成しました。プロ野球では、巨人の快進撃に加え、東映の高橋善正投手が完全試合を達成。夏の全国高校野球選手権大会では神奈川県の桐蔭学園高校が初出場初優勝を飾りました。大相撲では、第48代横綱大鵬幸喜関が引退を発表し、日本中に惜しまれました。また、第51代横綱玉の海正洋関が現役中に急逝するという悲報もありました。

この年は、三菱電機、コープこうべ、マルベル堂、毎日放送などが創業や開局から50周年を迎えました。また、廃藩置県から100周年、サンフランシスコ平和条約署名から20周年といった歴史的な節目の年でもありました。

1971年は、経済の転換点、環境問題の顕在化、食文化やエンターテインメントの多様化など、その後の日本社会に繋がる多くの変化の兆しが見られた一年と言えるでしょう。

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