1978年の日本

1978年の日本

1978年（昭和53年）は、国内外の様々な出来事が日本の社会や文化、経済に大きな影響を与えた一年でした。この年は、西暦の他に、神武天皇即位紀元である皇紀2638年、干支では戊午（つちのえ うま）にあたります。

政治と社会

政界では、年末の12月に内閣総理大臣が交代し、福田赳夫氏から大平正芳氏へと政権が引き継がれ、第一次大平内閣が発足しました。この年の国会は、通常国会に加え、2度の臨時国会が開催されています。

社会的な動きとしては、長年の建設と反対運動を経て、5月20日に新東京国際空港（現在の成田国際空港）が開港したことが特筆されます。開港に先立つ3月には過激派による管制塔占拠事件が発生するなど、混乱の中でスタートを切りました。また、空港関連では、航空燃料輸送の見返り措置として、鹿島臨海鉄道鹿島臨港線の一部区間で旅客営業が始まったことも出来事の一つです。

自然災害も発生しており、1月には伊豆大島近海を震源とするマグニチュード7.0の地震が、6月には宮城県沖地震が発生し、各地で被害が出ました。5月には新潟県妙高高原で大規模な土砂崩れが発生し、犠牲者が出ています。

交通インフラの整備も進み、3月には札幌市営地下鉄南北線が延伸開業。東京の地下鉄では、営団地下鉄（現東京メトロ）千代田線が全線開通し、小田急線との相互直通運転を開始しました。また、都営地下鉄新宿線の一部区間も開業しています。一方で、明治時代から日本の都市交通を支えてきた京都市電が、この年限りでその長い歴史に幕を下ろしました。

また、沖縄県では、アメリカ軍政時代からの交通ルールが転換され、自動車の右側通行から本土と同じ左側通行へと変更される「730」が実施されました。これは県民生活に大きな影響を与えるものでした。

この年には、いくつかの衝撃的な事件も発生しています。1月には経堂の女子大生が、巡回連絡を装った警官に殺害される事件が発生。2月には滋賀県で中学生による同級生殺傷事件が起きました。7月には京都府警の巡査部長が拳銃保管庫から拳銃を盗む事件を起こし、これが後に別の強盗殺人事件に繋がるなど、警察の不祥事も明らかになりました。また、機密漏洩を巡る西山事件では、最高裁が上告を棄却し、西山太吉記者の有罪が確定しています。

経済と産業

経済界では、大手住宅建材メーカーの永大産業が戦後最大級となる1800億円の負債を抱え、会社更生法を申請し倒産するという大きなニュースがありました。

産業界からは多くの新製品が登場しました。自動車メーカー各社は意欲的なモデルを発表し、三菱自動車の「ミラージュ」、マツダの「サバンナRX-7」、日産の「パルサー」「バネット」、トヨタの「ターセル」「コルサ」、ホンダの「プレリュード」などが市場に投入されました。

食品分野では、桃屋が日本で初めて2倍濃縮タイプのめんつゆを発売。ヤクルトから乳製品「ミルミル」、東洋水産からはインスタント麺のロングセラーとなる「マルちゃん赤いきつねうどん」が発売されています。

技術革新の分野では、東芝が世界で初めて日本語ワープロを開発したことを発表（発売は翌年）。これは、その後のオフィス環境や情報伝達に大きな変化をもたらす第一歩となりました。また、日本テレビが国内初の音声多重放送（実用化試験放送）を開始し、テレビ放送の多様化が進みました。

文化と流行

テレビ放送では、視聴者の記憶に残る番組が多数スタートしました。音楽番組では、後の日本の歌謡界を牽引するTBSの『ザ・ベストテン』が放送を開始。時代劇では、テレビ朝日で『暴れん坊将軍』の放送が始まり、長寿シリーズとなりました。バラエティ番組『ウルトラアイ』（NHK）や、情報番組『600 こちら情報部』（NHK）もスタート。夏には日本テレビが開局25周年記念特別番組として『24時間テレビ 「愛は地球を救う」』を初めて放送しました。
秋からは、人気俳優が出演する話題のドラマが続々と登場しました。日本テレビでは『西遊記』『熱中時代』『ゆうひが丘の総理大臣』、TBSでは『ムー一族』、フジテレビでは『白い巨塔』（田宮二郎主演版）『大空港』などが放送され、多くの視聴者を惹きつけました。

この年の音楽シーンは特に賑やかでした。ピンク・レディーが『UFO』『サウスポー』『モンスター』など次々と大ヒットを飛ばし、社会現象となりました。6月には、サザンオールスターズが『勝手にシンドバッド』で鮮烈なデビューを飾り、日本のロック・ポップス界に新たな風を吹き込みました。4月には人気絶頂だったキャンディーズが後楽園球場でのコンサートで解散し、ファンに衝撃を与えました。この他にも、中島みゆき『わかれうた』、世良公則&ツイスト『あんたのバラード』、山口百恵『プレイバックPart2』、矢沢永吉『時間よ止まれ』など、多くのアーティストがヒットチャートを賑わせました。

映画界では、スティーヴン・スピルバーグ監督のSF大作『未知との遭遇』や、世界的に大ブームとなっていた『スター・ウォーズ』が日本でも公開され、大きな話題となりました。アニメ映画では『さらば宇宙戦艦ヤマト　愛の戦士たち』や初の長編『ルパン三世』が公開されました。テレビアニメでも、『未来少年コナン』『宇宙海賊キャプテンハーロック』『銀河鉄道999』『宇宙戦艦ヤマト2』といった、今なお語り継がれる名作の放送が始まりました。

エンターテイメント分野では、タイトーからアーケードゲーム『スペースインベーダー』が登場し、全国的な大ブームを巻き起こしました。多くの喫茶店に設置され、老若男女が熱中する社会現象となりました。

出版界では、有吉佐和子氏の『和宮様御留』や城山三郎氏の『黄金の日日』、宮脇俊三氏の『時刻表2万キロ』などがベストセラーとなりました。芥川賞は高橋揆一郎氏と高橋三千綱氏に、直木賞は津本陽氏と色川武大氏（上半期）、宮尾登美子氏と有明夏夫氏（下半期）に贈られています。

都市空間にも変化があり、東京・東池袋に超高層ビル「サンシャイン60」が、新宿には「新宿野村ビル」が完成しました。9月には、東急ハンズの第1号店が渋谷にオープンし、新しいスタイルの生活雑貨店が誕生しました。

スポーツ

プロ野球のペナントレースは、セ・リーグでヤクルトスワローズが球団創設29年目で初のリーグ優勝、パ・リーグは阪急ブレーブスが制しました。日本シリーズでは、ヤクルトが阪急を破り、球団初の日本一に輝きました。特に、第7戦でのヤクルト大杉選手のホームラン判定を巡る阪急上田監督の1時間以上に及ぶ猛抗議は、シリーズ史に残る出来事となりました。個人記録では、巨人の王貞治選手がプロ通算800号本塁打を達成しています。また、オフシーズンには、前年のドラフト指名を拒否していた江川卓投手がドラフト前日に巨人と契約するという、後に「空白の一日」と呼ばれる騒動が野球界を揺るがしました。

高校野球では、春の選抜大会で静岡県の浜松商、夏の全国選手権大会で大阪府のPL学園がそれぞれ初優勝を果たしました。特に選抜では、前橋高校の松本稔投手が大会史上初めて完全試合を達成。夏の選手権は記念すべき第60回大会として、史上最多となる49校が出場しました。

大相撲では、横綱・北の湖敏満関が年間の本場所6回のうち5回で優勝するという圧倒的な成績を残しました。

人物

この年には、後に俳優、歌手、お笑い芸人、スポーツ選手など、各界で活躍する多くの人物が誕生しています。俳優の遠藤久美子さん、釈由美子さん、麻生久美子さん、永井大さん、吉沢悠さん、矢田亜希子さん、歌手の浜崎あゆみさん、椎名林檎さん、CHEMISTRYの堂珍嘉邦さん、お笑い芸人のナイツ塙宣之さん、オードリー若林正恭さん、なかやまきんに君、元サッカー日本代表の中澤佑二さん、澤穂希さん、レスリングの浜口京子さん、柔道の井上康生さんなど、多数の著名人が1978年生まれです。

一方、昭和歌謡界に大きな功績を残した作曲家の古賀政男氏（後に国民栄誉賞を受賞）、阪神電鉄元社長で阪神タイガース元オーナーの野田誠三氏、人気俳優の田宮二郎氏、歌手の水原弘氏などがこの年に亡くなっています。

1978年は、新しい技術や文化が花開く一方で、歴史的な事件や社会の矛盾も露呈するなど、変化に富んだ一年として日本の歴史に刻まれています。

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