アサガオ

アサガオ（朝顔）

アサガオ（朝顔、牽牛花、学名: Ipomoea nil）は、ヒルガオ科サツマイモ属に分類される一年生のつる性植物です。原産地については、ヒマラヤ地方、熱帯アジア、あるいは熱帯アメリカなど諸説ありますが、日本では古くから園芸植物として親しまれてきました。古典園芸[[植物]]の一つとしても知られ、別名でコアサガオとも呼ばれます。中国語では「牽牛（qiānniú）」、または「牽牛花」と呼ばれています。

特徴

アサガオの茎はつる性で、葉は広三尖形をしており、通常は3つに分かれていますが、まれに分裂しないものもあります。葉の表面には細かな毛が生えています。花は夏に咲き、大きく開いた円錐形をしています。1輪の花は、外側から萼片が5枚、花弁が5枚（合弁）、雄しべが5本、雌しべが1本で構成されています。花弁は融合して漏斗状になり、それぞれの花弁の中央には、放射状に「曜」と呼ばれる中肋が走っています。子房は3つの子房室に分かれ、各子房室には2つの胚珠が形成されます。萼片の裂片は先が細く伸びており、長さは幅の約5倍になります。花枝は通常、葉柄よりも短く、先に1〜3個の花をつけます。果実は上または横を向いています。

分布

原産地

アサガオの原産地については、自生種が存在することから、ヒマラヤから中国にかけての地域、または熱帯アジアのいずれかであるという説が有力でした。しかし近年では、熱帯アメリカ大陸が原産地であるとする説も提唱されています。

日本

日本で「朝顔」と呼ばれるようになったのは平安時代からで、奈良時代末期に遣唐使が薬として種子を持ち帰ったのが最初とされています。『和名抄』（929 - 930年）にはアサガオ、『古今和歌集』（913年）にはケニゴシ（牽牛子）という名で登場します。アサガオの種子の胚芽部分には下剤として作用する成分が多く含まれており、漢名では「牽牛子（けにごし、けんごし）」と呼ばれ、奈良・平安時代には薬用植物として扱われていました。『和漢三才図会』には4品種が紹介されています。今日では、観賞用の園芸品種が多数作出されていますが、しばしば野生化しているものも見られます。

なお、遣唐使が初めて種を持ち帰った時期については、平安時代であるとする説もあります。その場合、万[[葉集]]などで「朝顔」と呼ばれているものは、本種ではなく、キキョウやムクゲを指すと考えられています。

利用

薬用

アサガオの種子は、「牽牛子」（けにごし、けんごし）という生[[薬]]として用いられ、日本薬局方にも収録されています。中国の古医書『名医別録』には、牛を牽いて謝礼としたことが名前の由来であると記されています。粉末にして下剤や利尿剤として使用されます。煎じても効果はなく、種子を煮ても焼いても炒っても効果があるものの、毒性が非常に強いため、素人判断での服用は推奨されません。また、アサガオの葉を細かく揉んで便所の糞壺に入れると、虫がわかなくなる効果もあります。

毒性

アサガオの種子には、ファルビチン、コンボルブリンという毒成分が含まれており、摂取すると嘔吐、下痢、腹痛、血圧低下などの症状を引き起こす可能性があります。

品種改良

アサガオは、世界的に見ても形態が非常に多様に変化した園芸植物です。特に江戸時代には多くの変異が生まれました。変異が著しいものの中には、種子を作ることができないものもあります。これらの変異種は「出物（でもの）」と呼ばれ、不稔の系統を維持するためには、変異が現れなかった株（「親木（おやぎ）」）によって遺伝的に伝えていく必要があります。このため、江戸時代の人々は経験的にメンデルの法則を理解していたとも言われています。

20世紀に入り、アサガオは遺伝学的な研究対象となり、現在も遺伝学や生理学の研究材料として利用されています。

品種改良の歴史

江戸時代には、2度の朝顔ブームがあり、この時期に品種改良が大きく進みました。八重咲きや、花弁が細かく切れ込んだもの、反り返ったものなど、さまざまな変化を遂げた品種が生まれ、これらは「変化朝顔」と呼ばれています。変化朝顔は、江戸や上方で大流行し、珍しいものは非常に高値で取引されました。「大輪朝顔」も、結実する変化朝顔の一種です。江戸時代の変化朝顔ブームは、文化・文政期（1804年-1830年）と嘉永・安政期（1848年-1860年）に起こり、幕末には約1200系統が作られました。ブームのきっかけは、文化3年（1806年）の江戸の大火で下谷に広大な空き地ができたことでした。そこに植木職人が珍しい朝顔を咲かせたことで、趣味としてだけでなく、下級武士の内職としても栽培されるようになりました。

一方、熊本藩では武士たちが園芸を楽しみ、朝顔も愛好されました。熊本の朝顔は、本来の花型を保ちつつ大輪であることが特徴で、「肥後朝顔」と呼ばれています。この肥後朝顔は、後世の大輪朝顔の祖先の一つとなりました。熊本の6種類の園芸植物は、「肥後六花」として知られています。

明治時代以降も変化朝顔は発展し、「東京朝顔研究会」などの愛好会が生まれました。この頃には、花型の洗練が追求され、対象となる花型が絞られました。その後、花径の大きさを追求する「大輪朝顔」が発展し始めました。通常の朝顔は曜が5弁ですが、大輪朝顔では6〜9弁に増えるものもあります。この曜の数を増やす変異は「州浜」と呼ばれ、肥後朝顔にも見られます。州浜変異を持つ系統を交配することで、「青蝉葉系」と「黄蝉葉系」が生まれました。青蝉葉系は成長が早いため「行灯作り」、黄蝉葉系は「盆養（切り込み）作り」「数咲き作り」という仕立て方で育てられます。戦後には大輪朝顔が主流となり、直径20cmを超える花を咲かせる品種も登場しました。変化朝顔は維持が難しいため、ごく一部でのみ栽培されていましたが、近年再び注目を集めています。

アサガオは短日性植物で、暗闇の時間が短いと開花時間が遅れ、暗闇が全くないと開花しません。また、アサガオは色彩も豊富で、原種は薄い青色ですが、品種改良によって白、紅色、ピンク、紫、濃紺、浅黄色などの品種が生まれました。さらに、茶色、灰色、黒鳩色、紅鳩色、葡萄鼠色など、特殊な花色を持つ品種も存在します。「黄色の朝顔」と「黒色の朝顔」は「幻の朝顔」と呼ばれていましたが、近年、遺伝子操作により黄色い朝顔が作出されました。一方、「黒色の朝顔」の作出も試みられています。

近年では、静岡大学名誉教授の米田芳秋氏によって、花弁の曜の部分が白くなる「曜白朝顔」が作出され、一般に普及しました。

現在の育種は、交配による品種改良が主流ですが、遺伝子組換え技術や重イオンビーム照射による突然変異誘発などの新しい育種法も開発されています。

日本以外の品種改良

アサガオは高温を好む植物で短日性のため、イギリスなどの高緯度地域での栽培は難しいですが、庭園用の多花性品種として、鮮紅色の「スカーレット・オハラ」などが作出されています。近縁種のマルバアサガオは欧米で早くから栽培されており、花色の変異も多く見られます。ソライロアサガオやマルバアサガオは、「西洋朝顔」と呼ばれることもあります。

年中行事

アサガオは、各地で朝顔展や朝顔市が開催されるなど、夏の風物詩として親しまれています。特に、東京都の日比谷公園や靖国神社、千葉県の国立歴史民俗博物館くらしの植物苑などでは、大規模な朝顔展が開催されます。また、東京都台東区の入谷朝顔市は、非常に有名です。

アサガオは、別名「牽牛」とも呼ばれます。これは、中国でアサガオの種子が薬として珍重され、贈答の際に牛を引いて謝礼をしたという故事に由来します。日本では、七夕の頃に咲くことや牽牛にちなみ、アサガオの花を「朝顔姫」と呼び、縁起の良いものとされています。

変化朝顔は、劣性遺伝子がホモに組み合わさった時のみ特徴が現れるため、大量の種をまく必要があります。また、特徴を維持するには、ヘテロで遺伝子を持つ親木が必要となり、選別の知識が必要になります。大輪朝顔も各地の朝顔会で作られる品種は、市販されていないことが多いです。

文化

絵画

アサガオは、絵画の題材としても多く描かれています。特に、鈴木其一の『朝顔図屏風』は有名です。

俳句

俳句では、アサガオは秋の季語とされています。

「朝顔につるべ取られてもらひ水」　加賀千代女

図譜

江戸時代には、アサガオの図譜が多数出版されました。特に、「朝顔三十六花撰」（萬花園主人選、服部雪斎画）は、横山正名がまとめた36種の突然変異体の図譜で、最高傑作の一つとされています。

慣用句

「朝顔の花一時」という慣用句は、朝顔の花が早朝に咲いて昼にはしぼんでしまうことから、物事の衰えやすいことをたとえて言います。

その他

複数の自治体がアサガオを市区町村の花としています。また、小学校の教材としても利用されることが多いです。朝顔市は夏の風物詩として定着しており、朝顔の茶会など、アサガオにまつわる文化も存在します。

近縁種

アサガオの近縁種としては、サツマイモ、クウシンサイ、ソライロアサガオ、マルバアサガオ、ノアサガオなどがあります。特に、ソライロアサガオとマルバアサガオは、「西洋朝顔」として園芸品種が改良されています。ノアサガオは、沖縄県原産の多年生植物で、草勢が非常に強く、多くの花を咲かせます。

脚注

注釈

出典

参考文献

長田武正『原色日本帰化植物図鑑』保育社、1976年6月1日。
仁田坂英二, 飯田滋, 星野敦, 小野道之「ナショナルバイオリソースプロジェクト「アサガオ」」『日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集』第2006巻第47回、日本植物生理学会、2006年、917-917頁。
吉野政治「朝顔・昼顔・夕顔・夜顔 : 体系化を目指した花の名」『同志社女子大学日本語日本文学』第22巻、同志社女子大学日本語日本文学会、2010年、1-13頁。

関連項目

ヒルガオ
ヨルガオ
ユウガオ（ウリ科）
リュウキュウアサガオ（ノアサガオ）・タイワンアサガオ・アメリカアサガオ・メキシコアサガオ
チョウセンアサガオ（ナス科）
ペチュニア（ツクバネアサガオ、ナス科）
チューリップ・バブル（17世紀、オランダ）
真源寺（入谷鬼子母神。7月に朝顔市を行なうことで有名）

外部リンク

米田芳秋. “アサガオ類 画像データベース”.
“アサガオホームページ”. 九州大学.
朝顔の花 （英語） （日本語）
朝顏の花に自由に模樣を現はす法
朝顔三十六花撰
三都一朝
あさかほ叢1、2

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