プラントハンター

プラントハンター：植物を求めて世界を駆け巡った冒険家たち

プラントハンターとは、17世紀から20世紀中期にかけて、主にヨーロッパで活躍した、植物探索のプロフェッショナルです。彼らは、食料、香料、薬、繊維といった有用な植物や、人々の目を奪う美しい観賞用植物の新種を求めて、文字通り世界中を旅しました。

プラントハンターの時代

プラントハンターが最も活躍したのは、イギリスやオランダといった国々です。キューガーデンなどの公的機関や、ヴィーチ商会のような民間企業が、競ってプラントハンターをアジアや中南米へ派遣しました。驚くことに、ペリーが黒船で来日した際にも、プラントハンターが同行し、日本の植物を採集していたと言われています。また、専門のプラントハンターだけでなく、チャールズ・ダーウィンのように調査航海に同行した生物学者や船医が、現地で植物を収集することも珍しくありませんでした。

プラントハンターの歴史

植物を求めて異国を旅する試みは、古代エジプトにまで遡ります。紀元前15世紀、ハトシェプスト女王はプント国へ探検隊を派遣し、香料の木を鉢植えで持ち帰らせました。中世後期には、セイヨウトチノキやチューリップがオリエントからヨーロッパへ伝わり、16世紀にはアムステルダムでチューリップ・バブルが起こるなど、植物が社会を大きく動かすこともありました。

18世紀に入ると、イギリス帝国がプラントハントを主導するようになります。世界中から植物を集め、研究機関としてキューガーデンを設立しました。1766年には、ルイ・アントワーヌ・ド・ブーガンヴィル船長がフランス人として初めて世界一周を達成。同行していた植物学者のフィリベール・コメルソンは、現在園芸種として親しまれているブーゲンビリアを発見しました。また、ジョゼフ・バンクスとダニエル・ソランダーは、ジェームズ・クックの第一回航海に同行。ヨハン・フォースターとその息子ゲオルク・フォルスターは、クックの第二回航海に同行し、南部アフリカ、ニュージーランド、ポリネシアン・トライアングルを探検しました。バンクス自身もフランシス・マッソンを南部アフリカへ派遣するなど、精力的に植物探索を行っています。

これらの探検の報告書は、上流階級から一般の人々へと広まり、植物への関心を高めました。1787年には、外来植物とその出自に関する雑誌『カーチス植物学雑誌』が創刊され、植物の世界はますます身近なものになっていきました。

19世紀に入ると、新種植物の商業化が進み、プラントハンターは職業として確立されていきます。アレクサンダー・フォン・フンボルトは中南米を旅し、熱帯植物の生態に関心を抱き、ベニバナサワギキョウやダリアをヨーロッパへ持ち帰りました。詩人であり博物学者でもあったアーデルベルト・フォン・シャミッソーは、南極海を越える探検に同行し、ハナビシソウ（カリフォルニア・ポピー）を持ち帰りました。

1823年から1834年にかけて、デビット・ダグラスは王立園芸協会の依頼で北アメリカを探検し、ダグラスファー、ヒイラギメギ、ハナスグリ、ラッセルルピナスなど、数多くの植物をヨーロッパへ紹介しました。しかし、プラントハンターが持ち帰った数千もの新種の中で、実際に栽培され続けたのはほんの一握りでした。

1834年、ナサニエル・バグショー・ウォードは、ウォードの箱と呼ばれる密閉されたガラス容器を発明しました。この発明により、シダ植物やランなどの繊細な植物を長距離輸送することが可能になり、プラントハントは新たな時代を迎えました。阿片戦争終結後には、日本や中国でのプラントハントも急速に拡大しました。

フィリップ・フランツ・フォン・シーボルトは、1823年から1829年にかけて日本に滞在し、アジサイをはじめとする多くの日本固有種をヨーロッパへ紹介しました。ロバート・フォーチュンは、19年間王立園芸協会の為に中国で植物採集を行い、オウバイ、ケマンソウ、ヒイラギナンテン、レンギョウ、ツツジ、スギ、ヒノキなどを持ち帰りました。アーネスト・ヘンリー・ウィルソンは、幻のハンカチノキを求めて中国へ派遣されました。

現代への影響

プラントハンターたちの冒険と情熱は、現代の園芸や植物研究に多大な影響を与えています。彼らが持ち帰った植物は、私たちの生活を彩り、新たな研究のきっかけを与えてくれています。彼らの足跡をたどることは、植物の世界の奥深さを知る上で、非常に興味深い試みとなるでしょう。

著名なプラントハンター

ロバート・フォーチュン
ジョゼフ・バンクス
ユルバン・ジャン・フォーリー
フランク・キングドン＝ウォード

もう一度検索